第十一話 魔人
「より詳しく世界観を知りたい!」「よく意味の分からない単語がある。」「エールベンて誰だよ。」
などなど思ってくれた方は「白龍伝説 ~知恵の塔~ 」もどうかよろしくお願いします。(エールベンさんの出番は相当後の予定だけど・・・)
竜
それは魔獣の中でも突出した力を持つ生物だ。
身体中の鱗は生半可な攻撃を寄せ付けず、その爪は鉄などやすやすと切り裂き、その牙はどんなものでも噛み砕く。そして竜の代名詞とも言える息は街一つ簡単に吹き飛ばすと言われている。
とは言っても、それほどの力を持つのは竜の中でも一部の種だけだが。しかし逆に言えば一部の竜は本当にそれだけの事をやってのける力を持つということだ。
その竜が今ユキの前にいた。
ユキは竜の種類に明るい訳じゃない。アバロンにいるのは魔物であって魔獣では無いから、実は魔獣にはあまり詳しく無いのだ。
しかし、目の前の竜は間違っても、下位の竜などでは絶対に無いだろう。
その鱗はエメラルドのように光輝き、その体長は50メートルを優に超えている。なにより身に纏う雰囲気は強者のソレに違いない。
本来ならその巨大な体躯はアイルベット大森林の高い木々の中を頭一つ抜け、その存在は遠くからでも確認出来たことだろう。
そうでなくともユキの生命感知なら竜の強大な生命力を感知し、近づこうなどとは考えさせなかったに違いない。
では何故ユキは目視で竜を確認出来る場所まで近づいたのか?答えは簡単だ。
(これは···死にかけている·······のか?)
巨大な体躯が木々に隠れられたのは、竜がうつ伏せとなっているからだ。
ユキが竜の強大な生命力を感知出来なかったのは、その生命力が人間レベルまで落ちていたからだ。
つまる所、竜は死にかけていた。
(だけど、それにしたって外傷が少なすぎる。一体こいつは何で死にかけてるんだ?)
生命感知は竜の生命力の低下を伝えてくるが、何故そんなに弱っているのかが分からなかった。竜の鱗は今も綺麗に輝き続けており、特にこれと言った傷が見当たらない。
「ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥアアアアアアア········」
どうやら先ほど聞いた大気を揺らすような咆哮は、この竜にとって最後の力だったらしく今は苦し気な声を漏らすことしか出来ていない。
「はぁぁぁ····。こういう時、自分の性分が嫌になるな·······。」
そう言ったユキは懐から巾着袋を出すと、その中から一つの丸薬を出す。
その丸薬の名は『生命薬』。ちなみに命名者はユキだ。
ユキの生命感知のもと生命力の高い物をこれでもか、というほど混ぜただけの薬と言えるかも怪しい丸薬だ。
しかし、その作り方は大雑把に違いないが、効力は間違いない。これを飲めば寝たきりの老人でもすぐに踊りだせるほどに元気になるだろう。
所詮は超強力な栄養剤に過ぎないのでケガや病気が治るわけでは無いが、どうやら竜は具体的なケガを負ったというより衰弱しているだけのようなので、これで十分だろう。
「··········」
丸薬を持ったユキは僅かな間逡巡する。
そもそもユキにこの竜を助ける理由は無い。竜の中には人間の味方をしてくれるものも存在するが、この竜がそうだと言う証拠は無い。
竜は魔獣だ。太古の昔から何千何万という人間を喰ってきた。一部の例外がいるだけで基本的には人の敵なのだ。
ここで正しいのは竜を殺し、その素材を持ち帰ることだろう。
ユキの固有能力ならば素材を余すところ無く持ち帰ることが出来るし、それを売れば当面の生活費はおろか、数年は働かなくていいほどの大金を得ることも出来る。
「······。」
しかし、ユキはそうしない。
誓ったのだ。もう二度と正義感やら一般論やら倫理観やら、そんなくだらないことを守るのは止めよう、と。
だからユキはこの竜を助けることにする。
竜が可愛そうだからでは無い。命は大事だからでは無い。恩返しして欲しい訳でも無い。
ただユキが、ユキの意思で、ユキの考えで、目の前に傷ついた存在を救いたい、と思ったからだ。
ユキは竜の顔の前に堂々と立つ。
「ルゥゥゥゥゥゥ······。」
竜はユキの存在に気づくと、精一杯威嚇をする。恐らく衰弱さえしていなければユキに噛みついてきただろう。
その瞳は弱って尚、強い力を持っていた。
しかし、もう頭を持ち上げる力すら残っていないのか、睨みつけてくるだけで具体的な行動に出ようとしない。
「安心しろ······ってのは無理な話か。まぁ、いいや。別におまえの意思はどうでもいいしな。」
ユキは威嚇してくる竜に話掛けるが、すぐに考えを改める。
「おりゃっ!」
ユキは右手に『生命薬』を握りなおすと、大きく振りかぶって竜の口に向かって丸薬を投げつける。
そこまで距離が離れていた訳でも無いので、『生命薬』は無事、竜の口の中へと納まる。
「グルゥ!?ガッ!ガッ!ウ!?ウウゥゥゥゥゥゥ。」
竜は一瞬驚いたような顔をし、吐き出そうとするが、頭を持ち上げることが出来ない状態では上手く吐き出せない。
むしろ吐き出そうとした反動で逆に飲み込んでしまったらしく、諦めたような表情を見せる。
「······グ、グググ、グラァァァァァァァァァァァアアアアアアア!!!!!!!!!!」
しかし、竜はすぐに変な顔になると、今まで待ちあがらなかった身体を大きく持ち上げ、最初に聞いた咆哮を遥かに超える叫びをあげる。
そう、叫び。決して喜びの叫びではない。悲痛のような叫びだ。
先ほどまで強い力を込めていた瞳には今は涙を浮かべていた。どたばたと身体を揺らし、苦しそうに藻掻く。その様は最強と言われる竜にしてはあまりに無様だった。
それを見たユキは·····
「ぷっ!あははははははっ!!!ハズレ引いたんだ。あははは!いやぁ、まじでドンマイ!」
大笑いだった。
『生命薬』は、ユキが感知した生命力の高い物を、ユキが適当なタイミングで加工し、そして丸薬状にしたものだ。
そして原料は日々進化でお馴染みのアバロンの植物だ。その都合上、薬ごとに効力も味も全く違うものが出来上がる。
中には凄まじく不味いものも存在する。今回はそれが当たったのだろう。竜は今も苦しそうにしている。
「あはははっ!ひーー面白かったわぁ。んじゃ、これで。」
ユキは一通り爆笑すると、もう用は無いとばかりに竜に背を向け歩き始める。が·····
「······?なんか暗ーー」
ドォォォ―――――ン
竜はあまりの不味さに藻掻き苦しんだ挙句、倒れた。ご丁寧にユキを巻き込んで。
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Side テミスレーナ(数時間前)
「ん?あえ····?わたし·······」
テミスレーナの意識が浮上する。周りを見渡すと、そこは赤い大地だった。
「へ·····?って、あ、あ、あ、熱い!?」
否、赤い大地ではない。熱せられて赤く蒸発している大地だ。そこはハルが生み出したクレーターの中。もっと言えばマグマの中だった。
「あつ····くない。あ、そうか【精霊王の守護】········。」
【精霊王の守護】はテミスレーナの持つ固有能力だ。
その能力は所有者の危機に対する半自動展開の防御だ。発動中は常時魔力を消費し続けるものの、防御壁の硬さや性能は相当のものがあり、とても優秀な能力と言える。
よく見てみればテミスレーナの周囲だけは地面も赤くないし、マグマも流れていない。最初は勘違いしたが、実際は熱くもない。
【精霊王の守護】は危機に対して自動展開されるのでテミスレーナが気絶している間も彼女を守り続けたのだろう。
「あ····。力が········。」
しかし、その代償としてテミスレーナの魔力が大きく消費されていた。
本来なら【精霊王の守護】に熱まで遮断する機能は無い。
それでも熱を感じないということは、現在ここの気温はテミスレーナにとって‟危機”ということだろう。そしてその分余計に魔力を消費し続けている。
「くっ·····。『精霊の羽』。」
まだ魔力が残っている内にテミスレーナは精霊魔術を発動させる。その魔術はテミスレーナの背中に幻想的な翼を生やし、浮かびあがらせた。
ドォーーーン
「きゃっ!な、なにっ!?」
しかし、少し浮かんだ所で大きな爆発音がする。【精霊王の守護】で守られたが、その爆風はテミスレーナのいる所まで届いていた。
音の正体はクレーターから出た所で分かった。いや、テミスレーナには、ソレがなんのか分からなかったが。
クレーターからそれなりに離れた場所。そこで巨大な狐とスライムが戦っているのだ。
その大きさ、共に50メートル以上。まさに怪獣大決戦だった。戦っているのは狐とスライムだが。
狐が五本ある巨大な尻尾を振り回しスライムを攻撃する。スライムはそれに対して衝撃を吸収するように変形すると体内に取り込む。
しかし、取り込まれた尻尾の先から火が溢れ出し、スライムを内部から焼いた。これにはスライムも尻尾を吐きだす。
狐はその隙を見逃さず、巨大な火の玉を作り出すとスライムに放った。スライムは粘液状の何かを放出し、火の玉を相殺しようとするが、ことごとくを燃やされ、スライムに直撃。
一見倒したかのように見えたが、狐の背後からまたスライムが出現する。無事なように見えたが、その実先ほどよりも一回り小さい所を見るにノーダメージでは無いようだ。
狐は新たに現れたスライムに驚くことも無く、尻尾に雷を纏わせると、そのまま尻尾でスライムを斬った。
スライムは一度真っ二つに分かれるが、すぐにくっついてしまった。
「凄い········。」
その攻防はテミスレーナの生涯において見たことの無いスケールで行われていた。
もし、あの場にテミスレーナがいたのなら、流れ弾どころか余波だけでも死んでしまいかねないだろう。
事実、あの二人の周囲は純然な破壊の跡が大きく残り、もうそこが元は森だったとは思えないほどだった。
テミスレーナは完全に圧倒されてしまい、しばらくの間茫然とする。
しかし·····
「「·········」」
「? どうしたんでしょう?」
先ほどまで派手に戦っていた二人だが、急にその動きを止める。そしてスライムの方はよく分からないが、狐の方はアイルベット大森林の奥の方を見つめていた。
そして、唐突にスライムも狐も小さくなっていく。
テミスレーナには、一体どうしたのか分からなかったが、なんとなく狐が見ていた方向を見てみた。
最初、そこには何も見えなかった。しかし、どこか違和感を覚え、精霊魔術を発動する。
「『精霊の眼』」
それは精霊の眼を一時的に借り受ける魔術。その力を使い、遠くにいる精霊の眼を借りた。
そうしてそこにいたのは―――――
見たことの無いような大量の魔物だ。
「ひっ!」
あまりの衝撃につい声を漏らしてしまう。
森としての姿はもはや無く、木々を押し倒し前へ進むその姿は正に黒い絨毯のようだった。
それもそこにいるのはただの魔物じゃない。一体一体が中級には分類される強力な魔物ばかり。
当然コロニーマウスのように分裂している訳でも無い。正真正銘、全てが本物の魔物達だ。
思わず『眼』を閉じてしまいかける······が、その時一体の魔物が眼に入る。
それは、美しい女性の姿をしていた。綺麗な緑の髪に完璧なプロポーション。その大きな胸は世の男性を魅了するだろう。
その半身は大きな花に包まれているが、その花もまた美しく、一枚の絵画のような完成された美があった。
「------」
テミスレーナは、その姿から眼を放すことが出来ない。
それは何か特殊な能力が働いた訳では無い。
美しさに眼を奪われた訳でも無い。
ただ恐怖しているが故に眼を放せないのだ。
何故なら、明らかに魔物と思われる姿に理知的な風貌。それは、とある存在を意味するからだ。
「----魔人。」
それは魔物とは比べ物にならない人類の天敵だ。
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Side スウィー(1時間後)
「そっかー。魔人ねぇ·····」
スウィーは自分の執務室で身長に対して大き過ぎる椅子に深く腰掛け、溜息まじりに呟く。
そこには普段の子供のような笑顔も雰囲気も無く、真剣だと言うことが分かる。
「はい。当機の『観測』でも魔人の存在を感知しています。テミスレーナ様の証言も含めると間違いないかと。」
スウィーの執務室ではもう一人、いかにもキャリアウーマンといった感じの女性が報告していた。
「で?正解は?」
「『魔人』です。スウィー様。」
「くそっ!君達の主は本当に嫌な性格しているね!」
「『それは褒め言葉だね』と言えと言われています。」
「·······はぁ。」
冒険者ギルドには、未来をほぼ完全に予測する能力の持ち主がいる。
しかし、彼は未来が完全に分かっているにも関わらず、その内容をあえて不十分な分しか伝えない。
今回、スウィーには彼から「街が滅ぶ」という予言が事前に伝えられた。
だが具体的に、いつ、何故、どうやって、滅ぶのかは伝えられなかった。
だからこのタイミングで明らかに怪しいユキ達に目をつけ、ボロスという監視をつけ、警戒していた。
だが実際はどうだろう?ユキ達とは恐らく無関係に魔人が現れ、その上、このタイミングで正解は魔人だと伝えられた。
さらには、その答えに対する反応すら予測され、答え付きと来たもんだ。
たとえスウィーでなくとも嫌になることだろう。
「·······具体的にどうすればいいの?」
「それはまだ明かせません。」
「は、はぁぁぁぁ!?この期に及んで、まだ何かあるの!?」
さらには、具体的な対処法は秘密だと言う。これはまだ騒動がある時によくあることだ。
彼は未来が予測出来るくせして、未来予測を元に困難を回避することを認めないのだ。
彼がするのは騒動の予告、そして答え合わせと、騒動の収束の指示だ。
収束の指示が出ないということは、まだ騒動が終わっていないということに他ならない。
「君の『観測』では魔人一行の到着は?」
「3時間12分後と思われます。」
「······意外とあるね。」
「彼らは、森の木々を踏みつぶしながら進んでいますので、直ぐに到着することはございません。しかし、何らかの行動の変化をした場合、より早まる可能性もございます。」
「そっか。」
スウィーは少し落ち着いた雰囲気となり、机の上のコップを取り、中のお茶をすする。
トントン
「すみません·····。」
すると執務室の扉が叩かれ、声が掛けられる。
「どうぞーー☆」
「失礼します。」
「お♪テミスレーナ様、元気になったみたいだね☆」
スウィーはいつもの喋り方の戻し、許可をだす。そうして部屋に入ってきたのはテミスレーナだ。
テミスレーナが魔人を確認した後、たまたま一度街に戻っていたスウィーと偶然会い、一緒に帰って来たのだ。
しかし、テミスレーナは魔力の大量消費と魔人を見たショックで、途中で力付き、気絶してしまったのだ。
そして先ほど目が覚め、今改めて執務室に顔をだした。
「じゃあ、テミスレーナ様。いきなりで悪いけど、魔人のこと教えて貰えるかな♪」
テミスレーナが執務室に来たのは魔人の特徴を伝えるためだ。
魔人
それは、意思をもった魔物だ。本来魔物は具体的な意思も考えも持たない。
しかし、稀に知性を持ち合わせて生まれ落ちる魔物がいる。彼らはその知性の元、考えて生きる。
結果、多くの魔人は普通の魔物よりも強く成長するのだ。また成長する過程で、特異な能力を獲得するものも多く、その力は強力な物が多いのだ。
テミスレーナは、自分が見た魔人の特徴をスウィーに伝えた。
「それは恐らく『樹妖精』ですね。」
その特徴を聞いて反応したのはキャリアウーマンのような女性だった。
「『樹妖精』?」
「文字通り樹の妖精のことです。直接的な攻撃能力はそこまで高くありませんが、樹木を操る能力があり、非常に厄介です。生存能力も高く、討伐は困難です。」
テミスレーナの疑問に女性がしっかりと答える。
「となると、『妖精女王』の眷属かな?」
「その可能性は高いかと。」
スウィーの推測に女性が答える。
『妖精女王』というのは魔王の一人だ。
魔物はあまり群れないが、魔人となって知性が芽生えると彼らも集団を作る。その中でも多くの魔人を従えたり、圧倒的な力を持つ魔人のことを魔王と言うのだ。
『妖精女王』は、妖精系の魔人を束ねる魔王のことだ。
「でも『妖精女王』はあまり交戦的な魔王では無かったと思うけど·····。」
スウィーは自分の考えを呟くが、それに答えられる者はいない。
「よし!じゃあ、テシラ。冒険者を集めて。急いで準備するよ。」
「はい。」
スウィーは立ち上がるとキャリアウーマン風の女性ーーテシラに指示を飛ばした。
部屋を出る前、スウィーはテミスレーナに話しかける。
「テミスレーナ様はどうする?こっからは本当の殺し合いだよ。」
スウィーはテミスレーナに向かっていつものおちゃらけた雰囲気では無く、真剣に聞いた。
「もちろん私も戦います。精霊魔術で補佐ぐらい出来ると思いますから。」
「·········そう。」
テミスレーナは活き込んで答えるが、予想に反してスウィーの反応は悲しそうなものだった。
戦いが始まる。
主人公の出番が全然無い・・・・。
固有能力、能力、神器などなどを募集します。感想に書いてもらえるととても嬉しいです。名前だけとか能力の内容だけでも全然OK。
いいセンスのものがあればどんどん本編に組み込んでいくので、どうかよろしくお願いいたします。