奏
山に生えた筍はみるみる成長して、非常に長く、空高くまでその背を伸ばした。その姿は何処からでも見えるほどだった。次第に筍は空気を操れるようになり、様々な音を奏でながら、私達に喋りかけてくるようになった。
「私に、この村の音楽を聴かせて欲しい」筍は木々の擦れる音を言葉にした。私達は毎日、音楽を演奏し筍はやがて歌を覚えた。朝にはワルツ、夜には子守唄、祭の季節は自分で作った音楽を披露してくれるようになった。
ある日、筍の音楽を誰よりも愛していた少女がこの村を去ることになった。海の向こうのそのまた向こう…そこが自分の本当の故郷なのだと彼女は筍に打ち明けた。月夜、私達は筍とともにお別れのアンサンブルを奏でた。
それから、村はいくつもの時代を超えた。筍は人々に寄り添うように音楽を奏で続けた、もっと深く鳴り響くように。どこか遠い小さな国で誰かが呟く。「あれ、何か聴こえない?」それに応えるように風が微かに吹いた。