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人生の探し物  作者: きゅー瓜
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石とはさみと紙と

「じいちゃん、ちょっと話がある」

「なんじゃ、藪から棒に」


 十五時間ほど前に平手打ちを受けた場所――居間で俺とじいちゃんは向かい合って座っている。森から戻ったところを出迎えたじいちゃんに俺は神妙な顔をして、頼みがある言い、この状況に持ち込ませてもらった。


「二階の空き部屋を貸してほしい」

「なぜじゃ」

「……昨夜、なんていうか動物(?)を拾ってさ、ちょっと飼ってみたいなんて思って……」

「どういう心変わりじゃ? ちょっと前までは『ペットなんていらん。世話とか面倒だし鬱陶しいだけ』とか言っておった癖に」


 ちょっと前って。数年前の話だよね?


「まぁ、いろいろあったんだよ」

「ふぅむ」


 俺を訝しむような視線を送るじいちゃん。こういう時に限ってしつこいから困る。


「まぁいいじゃろ。好きに使え」


 ふう、とりあえずはなんとか誤魔化せたようだ。


「あ、もう一つ聞きたいことがあるんだけどさ。昨日の晩にサバゲーとかやってたりした?」

「昨晩? いややっとらんぞ。今晩ならやるが」


 やっぱり。あの二人組は密猟者とかそういう類のやつらか……。


「なんじゃ、お前も参加したいか?」

「え?」

「あれだけ嫌がっておったがやっと素直になったかガハハハ!」

「いややんねえけど」

「なぬ!?」


 ニヤニヤ笑ったかと思えばすぐに高笑いして、これまた素早く驚いた表情をじいちゃんは浮かべる。怪人二十面相かよ。


「いかにも怪しそうな二人組がいたからさ。もしかしたらとは思ったんだけど……」

「そうか、注意しておくわい」


 そう言ってじいちゃんは立ち上がる。


「じゃ、ワシはサバゲーの準備があるでな。修也は彼女とデートでもゆっくりとしてくればいい」

「べ、べべべつに彼女じゃねえよ!?」

「お? 鎌をかけただけじゃったが本当にいたとはなぁ……」


 あ、やべ。つい反応しちまった。


「んじゃ、アディオス!」


 根掘り葉掘り聞かれたらぼろを出しかねないと思い、その場から俺は退散した。




 じいちゃんが部屋に入ってサバゲーの準備を始めたのを確認し、俺は動き出した。

 行先は家の裏にある焼却炉。


 じいちゃんに告げた通り、初めて飼うペットを迎えに行くためにーー


 バッシャーーン。


 …………なんで俺は水浸しになってるのん?


「悪は見逃さない正義の味方っ! グ●ートサイ〇マンっ! ってあれ?」


 焼却炉付近で一段高い場所には葉武がいた。空のバケツを押し出した状態で。


「なにやってんの、おまえ……」

「いやこれにはホワイトハウスより白く炭より黒いわけがっ」


 わーわー、と騒ぎ立てながら(たぶん声は抑えてるだろうけど)空のバケツを後ろに放り投げた。いや、それ家のやつでしょ? それに言いたいことはわかるけど、正しくは『空よりも高く海よりも深い』な。二つのチョイスが謎すぎてが気になる。


「いろいろと呑み込むにしても…………なんで水かけたの」

「や、私に悪意が向いてたような気がしたからかなぁ」


 悪意、悪意。あ、まぁさすがにペット呼ばわりは悪意だわな。しょうがない、これは甘んじて受け入れようそうしよう。


「ばれないように入るんだったら今のうちだぞ」

「あ、行きまーす行きまーす」


 俺は踵を返して家の方に向かう。追従する葉武は「おっふろっ♪ おっふろっ♪」と何やら嬉しげだ。……ちょっと待て。


「シャワーは俺が先だろう。このままだと風邪ひく」


 俺は足を止め、再度葉武に向き直る。


「えぇ? そこはファーストレディじゃないの。それに昨日はお風呂入ってないんだよ、私」


 それを言うならレデイファーストだし、俺も入ってないから知らん。ずっと家にいたなら一日くらいはいいだろうけど、昨夜は森を駆けずり回ってたから服に汗が染みついてて気持ちが悪い。ところでファーストレディに既視感感じたのはあれか、エレメンタルなヒーローのバーストしてるレディか。いと懐かし。


「ならば勝負は」

「これしかないよね」


 互いに腰をぐっと落とし、右手の拳を力強く握りしめる。


 勝負は一瞬。



「「じゃーんけーん、ぽんっ!」」



 俺がだしたのはチョキ。対して葉武が出したのは――



 ――パー。



「俺の勝ちだな」

「待って待って!」


 葉武は出したパーをそのまま俺に突き出してきた。


「この勝負は私の勝ちだよ」

「……何言ってんだ」


 じゃんけんとはグーとチョキとパーの三種を使う勝負だ。


 ・グーはチョキに勝ち、パーに負ける。

 ・チョキはパーに勝ち、グーに負ける。

 ・パーはグーに勝ち、チョキに負ける。


 このようなルールの共通認識があるからこそ成り立つわけだ。

 しかしそれをあろうことか葉武はチョキとパーなのにパーが勝ちと言い張っている。


「じゃんけんのるーるはしってるかな、おじょうちゃん」

「知ってるわよっ! ちゃんと私の言い分を聞いてよぅ」


 大層な自身があるようだったので壁に寄りかかって俺は聞く姿勢を作る。


「じゃんけんのもとになったのはあれでしょ。グーが石でチョキがはさみ、そしてパーが紙じゃないか」


 ふむそうだな。


「グーがチョキに対して強い、つまり石がはさみに勝つのは、はさみでは切れないから。そしてグーとパーではパーが強い。それは紙が石を包めるから」


 うん、そうだね。


「だったら、だったら! チョキとパーでチョキが勝ちってのはどうなのさ!」


 ちょっと何言ってるのかわかんない。


「石を包んで勝つことからパーの勝利条件は相手を包むことでしょ。はさみだって包めるに決まってるじゃないか」


 つまり葉武が問題の争点にしてるのはそれぞれの勝利条件ってとこか。


「それをベースに進めるならこういうことか」


 ・グー、つまり石は相手の行動に対してその形を保っていられるかの防御型。

 ・チョキ、つまりはさみは相手を切ることが出来るかの攻撃型。

 ・パー、つまり紙は相手を包めるか否かの攻撃型。


「攻撃タイプが二つと防御タイプが一つと別れているからこそ起こる問題か……」

「パーの方が強いよっ。はさみは切るためには刃を開くための予備動作が必要になるんだから。その隙にサイドに回り込んでセンタリングからのボレーでボールを相手のゴールにシュウウウウト! 超エキサイティン! ってなるじゃん!」


「そんな隙あるか?」


 つーか半分以上は何言ってんのかわかんね。


「そもそもはさみは紙程度なら切るじゃないけど穴を開けることくらいはできるから」

「それ言っちゃったら石もそうじゃん。押し込めば穴くらいは開くよ」


 確かに。平行線はよろしくない。いやこの論題自体が平行線のようにしか思えないのは俺だけか?


「あー、もう。紙は神と同音異義語だからパーが強い。もうそれでいいでしょ」

「何その論理。頭の中お花畑すぎるだろ」


 このままでは埒が明かない。ズルズルと続けていればじいちゃんにも気づかれかねない。もう俺が一肌脱いでオトナになることにした。漢字表記とカタカナ表記で別の意味合いにもとれるこれ以上の言葉はあるだろうか、いやない。


「もう改めてちゃんと三竦みの関係のルールに乗っ取ってやろうぜ。こじつけとかは禁止でさ」

「おけおけ」


 むふふー、と笑みを浮かべて葉武は再度拳を構える。

 そりゃそうだ。一度死んだはずなのに神様のお情けで蘇ってるんだからなあ。そうか、俺が神だったのか……。


「いくよー」


「「じゃーんけーん、ぽんっ!」」


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