表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生の探し物  作者: きゅー瓜
1/4

罰は山でサバイバル生活

本日、初投稿です。

意見、批判、罵詈雑言なんでもお待ちしております。


『人は支え合って生きている。』


 昔にテレビ放送されたとある学園ドラマでそんな言葉を聞いたことがある。

確かに『人』という字を見てもその様子がうかがえる。


 実際の生活においても自分一人の力のみで過ごすことは不可能だ。いや、一日や二日という短い期間なら出来ないことではないから、不可能と言い切るのは早計だった。訂正しよう。


 とにかく。やはり生活を送る上で欠かせないものはいくつかある。


 まずは水。飲み水はもちろんのこと、風呂や洗濯にトイレ、洗顔や歯磨きにだって使うし、もちろん調理にも使う。蛇口を回せば簡単に手に入るためとても便利で必要不可欠なものだ。


 二つ目に電気。今までを思い返してみてくれ。電子機器を一切使わない日なんて一度たりともあっただろうか。先にも上げた洗濯機や調理に使用する電子レンジにIC、それに部屋の明かりだってそうだ。もっと身近なものでいえば携帯電話やパソコンの充電あたりがそうだろう。これがなくなるだけで多くの人間が阿鼻叫喚の声を上げることは想像に難くない。

 

 三つ目に…………うん、まあとりあえずこんなものだろう。


 何が言いたいかっていうと、これらは人の手によって供給されているものだ。水であれば殺菌消毒やら検査やらいろんな工程を挟んで各地に送られている。そこには一人とは言わない、多くの人が関わっているのだ。現場で働いている人員だけでなく、過去に多くの装置を発明した英知もその政策に携わった人らも含まれている。


 こうした基盤があってこそ、今の生活が成り立っているわけだ。

 だからこそこれらを失いでもしたら生活なんぞしていけない。自給自足で暮らすなど現代では考えられないのだ。いやマジで。

 

「ほんっと、考えられんわ」


 そう呟くのは木に身を預けて俺は座り込む。Tシャツと半ズボンというラフな格好だ。手荷物は平仮名で「まつばらしゅうや」と刺繍されたハンカチオンリー。

 

 セミはミーンミンと鳴いているわ、小鳥の鳴き声が聞こえるわ、ヴーヴーホホーという得体の知れない鳴き声(?)は聞こえるわ、とても賑やかで何よりだ。まあ、聞き慣れてるから不気味ではあるけどさして怖さはない。多分フクロウやろうし。多分。


 しかしさっきから周りを飛びまわっている蚊の羽音はなんだうるせえ。てか腕やら足やらを数か所刺されてひぜうに鬱陶しい。ぶっ潰したろかこの虫。


 そんなことを思っているとちょうど視界に入ってきたので、両手でたたくようにして捕獲する。掌に微かな感触を残して、見開くとそこにあるのは蚊の死骸と血。その不快感に顔を若干顰めて、持っていたハンカチーフでぬぐい取る。はいそこ、不清潔とか不衛生とか言わない。


 よっこらせ、と老いた老人のようにのっそりと立ち上がる。老いた老人って頭痛が痛いと同じような変な言葉だな、とどうでもいいことを思いつつ、手を上に突き出して大きく伸びをする。

 

 そして辺りを見渡せば、木、木、木。どこまでもあるのは木だった。

 

 空を見上げれば緑の葉とその隙間から除く赤みがかかり始めた空に白い雲。


「罰とはいえ、森で一晩過ごせ、ってのも怖いもんだな」


 そうぼやいて歩みを進め始めた。あい、あむ、きょうふ。怖いって英語でなんて言うんや。


               *


「どうしてこんなことをした」


 時は少々遡る。およそ二時間ほど前だろうか。

 俺は今、畳の上に正座をしていた。させられていた。


 そして俺の目の前には袴に身を包んだご老体がこちらを見下ろしていた。まあじいちゃんなんだけど。眉間にしわを寄せ、伸びた髭はきれいに整えられている。また堂々としたその姿勢と声色は俺に威圧感を与えるには十分だった。


「いやその、ほんの出来心というか何というか」

「誤魔化そうとするな。正直に言うてみぃ」

「…………怒らないって約束できる?」

「約束しよう。場合によっては果たされんかもしれんが」


 ……それって約束したことにはならないんだよなぁ。


 しかしそんな言葉を口に出すことなどできるはずもないわけで。足も徐々に痺れてきたので、目の前の毘沙門天のような形相を可能な限り刺激しないように足を組み替える。


「もう一度聞くぞ。どうしてこんなことをした」


 なかなか答えを出さない俺に先ほどと同じ質問が投げかけられる。しかしその声色は低く重たいものではなく、なだめるような優しいものだった。しかし瞳には熱が籠っており、「嘘をつけば容赦せん」といっているようだった。ならば俺はその期待に応えるのみ。


「どうしてワシの宝物、『早坂望の直筆サイン入りTシャツ』に勝手に触れた挙句、持ち出すような暴挙をおこなった?」

「友達に自慢したかったから」

「このバカもんがぁああああ!!」

 

バッチィーーーーン!!


「いってぇ! なにすんだこのくそジジイ! てか怒ってんじゃねえか!」


 俺の答えに間髪入れずに、怒りが爆発した声と一切の手加減がない平手打ちが飛んできた。めちゃんこいてぇ。


 ちなみに早坂望っていうのは、今大人気の三年目の若手声優だ。大人気アニメのサブヒロイン枠みたいな感じのキャラでデビューし、人の声とは思えない幻想的な演技が一躍反響を呼んだ。そしてそのキャラの人気が高まりすぎて、原作にも影響が出たらしいとか。作者がそんなこと呟いてた、ってのを友達から聞いた話だけどね。


「ていうか、いい年こいて若い声優のサイン入りTシャツが宝物ってなんだよ。年寄りなら年寄りらしく盆栽とか刀とか愛でろよ」


「年齢で好きなものを変えろと申すか。たわけたことをぬかすな。愛に年齢など関係ないっ!それに盆栽の何が面白い」


 ビンタを一発かましたことで心が落ち着いたのかいつもの調子を取り戻していた。正直、趣味について語るときのこのハイテンションはどうにかしてほしい。


 そして、全国の盆栽ファンに喧嘩を売る発言。家の中だからいいけど外でそんなこと言うのは絶対にやめてね? 

 

それにそれだけでは飽き足らないのか、そのあともつらつらと文句を並べたてる。


「盆栽にどんな趣があるというのだ。時々、葉を切りおとしてただただ眺めるのみ。その道で食ってきたわけでもない連中が良し悪しなんぞわかるわけがなかろうに」

「んなもん俺が知るかよ。ていうか名言っぽいこと言ってるけど、世間体は最悪なやつだからなそれ」

「周りの目を気にしていて何が趣味か。好きなものを思うままに追いかけ、一切の妥協を許さない姿勢こそ本当の『好き』というものじゃ」


 む……。なかなかいいこと言うじゃん。

 でもね、その年甲斐の無さは本当にどうかと思うよ?


「何か言いたげじゃな」

「まっさかーなんでもないですよー」


 あはははー。なんでこんな鋭いんだよ。


「反省の色なし……。報復を追加する。悪く思うな」

「え、やめて。反省してる、反省してる。めっちゃしてる。なんなら仏の顔が上司にこってり絞られたあとの新人サラリーマンの面持ちになるくらいにはしてる」

「…………つまりはしとらんじゃないか」

 

 あれれー、おっかしいぞー。だって怒られた後って基本反省する……いや逆恨みするわ。あー、やらかしたなこれ。てへっ。


「今夜の晩飯抜き。そして裏山で一晩過ごすんじゃな」

 

無慈悲な宣告が下ろされた。あー、もうやだよお。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ