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8話

 「女神様が救ってくれた命、何か意味があるのかもしれません。

どうも悪人というわけでも無さそうです。ローガンさんはどう思いますか?」


 やっとこさ現実世界に戻ってきたアーラさんがコホンと咳払いをして姿勢を正した。心なしか顔が少し赤らんでいる。


「まぁ大丈夫なんじゃないですかね。少なくとも何かあったら対処可能なレベルでしょう。裏表があるずる賢いタイプでもなさそうだ。」


 これは褒められているのだろうか。ローガンさんの評価が思ったよりもプラス気味で意外だった。


「まぁそうですね。魔素もないので丸腰にさせておけば問題なく対処できるでしょう。」


「魔素?」


 僕は新しく出てきたワードに思わず口を挟んだ。

僕のそんなつぶやきにアーラさんはきょとんとした顔で返事をした。


「ああ。異世界には無いのでしたね。いわゆる私達が魔法を使う為の原料といったところでしょうか。こんな風に。」


 そう言ってアーラさんはピンと人差し指を立てた。そしてそこに青い火が灯る。

おー。カッコいい。


「魔法は私達が暮らす上で必要不可欠な存在ですからね。

 普段から当たり前に使っている魔法を見せるだけでこうも驚かれると変な感じです。

視線が少しくすぐったいです。」


アーラさんは顔を赤くしてクスッと微笑んだ。

白い肌のキャンバスが薄っすらとピンクに染めあげる様は絵的に良く映える。


「僕はそれが無いと。」


自分で聴いておいてなんだが、少し嫌な予感がしてきた。


「そうですね。信じられませんが。

普通生きとし生きるもの全てに、果てには無機物ですら魔素を宿しています。ですが貴方にはそれが無い。

私とローガンさんがアミティちゃんを見つけた時のことを覚えていますか?」


「ええまあ。まだ日も跨いでいませんから。」


「おかしいと思いませんでしたか?

 居場所もわからないアミティを私達は一日と立たず見つけることができたということについて。」


 言われてみればそうだ。あの時はひどい豪雨で状況は最悪。森の中から人をピンポイントで探すなんて、そうそうできることでも無い。けれど彼女達は雨が治り始めてからすぐに僕たちのところまで来た。


 僕が歩いて来た村までの距離から考えて、彼女達は豪雨の中で探しに来ていたはずなのだ。

視界も悪い中、いくらなんでも早すぎる。


「私達は周りにある魔素を感じ取ることができます。私は森でアミティの魔素を見つけて、貴方達が雨宿りしていた所まで駆けつけたんです。ですがそこに貴方の反応はなかった。」


「俺が最初おめぇに矢を向けちまったのもそれがあったからなんだよ。いもしねぇ奴がアミティちゃんのすぐ後ろに居たんだからな。普通ありえねぇ。


しかもほぼ全裸ときたもんだ。

言い訳ってわけじゃないが、それくらいあの時のおめぇは異質な存在だったんだよ。」


少し顔をしかめて、申し訳なさそうにローガンさんが言った。

確かにそれは僕という存在がご迷惑をおかけしました。


「探査も万能というわけではありませんけどね。

魔素を感知できる範囲には限りがあって、個人差もあるんです。

これでも私は村の中で1番広いんですよ。それでアミティの捜索に協力したという次第です。」


「まぁそうは言っても俺と5メートルも変わらないくらいの差ぁだったんだが、姐さんが死んでも自分も行くって……」


「ローガンさん。余計なことは言わないように。」


 アーラさんが話しているローガンさんを物凄い眼で睨みつけていた。

 小動物くらいなら殺せるんじゃないかという殺気がピリピリと伝わってくる。

 

「へ、へぇ。わかりゃした。」


ローガンさんが裏返った声で返事をした。額にじわっと汗が浮かんでいる。多分あれは脂汗だろう。触ったらヌメッととしているに違いない。


 それにしてもなるほど。魔素を感知できる範囲が広くなかったアミティちゃんは村までの帰り道が分からなかったということか。


アーラさんが気を取り直すようにゴホン!と大きめのわざとらしい咳をした。


「おそらくこの世界で、貴方は魔素という観点から見ると存在していないようなものなのでしょう。

 目には映る、触れもする。けれど魔素で感知しようとした時、貴方は透明人間になる。と、そのように考えておけば良いと思います。


まぁ心配せずとも大丈夫ですよ。魔素が無い環境で正常に暮らしていたというのなら、問題ないでしょう。こうしてちゃんと貴方はここに生きていますから。」


アーラさんはそう言って僕の肩をポンと触った。


「そうだな。道中はナイフの柄で散々小突きまわせたしな!

難しいことは良く分かんねぇけんど、

おめぇさんはここにちゃんと居る。それだけゃ確かだ。」


ローガンさんも声を出して笑いながら僕の背中をバシバシと痛いくらいに叩いてきた。


 そんな2人の行動に、なんだか胸の奥がじんわりと暖かくなる。


 普通二度目の人生などあり得ない。

やはりこの世界は全て僕が見る夢なんじゃないかと、心のどこかで不安がっている自分がいた。

 死んだはずが生き返って異世界から来たという話を1番信じられていなかったのは僕自身だったのだ。


けれど僕はこうしてここに生きていると認めてくれる人がいる。

 それだけで僕の中から不安や疑いが綺麗に消え去った。

胸のところに溜まっていたモヤモヤがすーっと消えて、視界の色彩も鮮明になっていく。

ようやくこの世界が僕にとって現実に変わったのだった。



そういえば僕には魔素がないとい聴いて一つ気になっていることがある。聴きたくはないがここで聴かなければ絶望を先送りにするだけである。


「あの。そういえば僕って魔法使えるんですかね。こう炎ボワーって出したり……。」


「それはその……。まぁ魔法が使えなくても死ぬわけじゃないですからね!」


アーラさんは目を盛大に泳がせながら言った。


『魔法は私達が暮らす上で必要不可欠(・・・・・)な存在ですからね。』


 『普段から当たり前に使っている(・・・・・・・・・・)魔法を見せるだけでこうも驚かれると変な感じです。』


 ふと僕の頭の中で先ほどのアーラさんの言葉が繰り返された。


この世界で僕はまったくの役立たずの無能だった。


僕は涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えた。

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