ロマンスの無い彼氏
「ねえ、もしも明日で世界が終わるとしたら、どうする」
部屋の中でいつも通り本を読んでいるタカ君に聞いてみたけど、何時もみたいに本に視線を向けたままって。ほんと、もう……
「また随分とテンプレな質問を、どうしたんだ一体」
テンプレって、ありきたりって事ぉ、もう少し言い方って物があるんじゃないかな、せっかく話題を探してきたのに。
「いいから、教えて、明日で全部終わりになるならタカ君はどうするの」
いつも通りに淹れたコーヒーをテーブルに置いたら、本を見たままでそれを一口飲んでから答えてくれるけど……
「んー、どうもしないかな、今みたいにこうして本を読んで過ごすかな」
あーん、やっぱりこんな答えだった。
「ロマンスが無い、ときめかない、つまんない、面白くない」
ほんっと、タカ君は本の事しか考えてないのかな。わたしタカ君の彼女なのにいっつも本の事ばっか。
「もっとないの、二人っきりで映画館いくとか、貯金全部使って豪華なデートするとか、星を見に行くとかさ」
もっと、かっこ良い事言ってほしいのに、いっぱい本を読んでるのに何でそんななの。
「そうは言うけどさ、明日で世界が終わるなら、きっとみんながみんな最後の一日なんだからって好き放題するだろうから、死ぬまで真面目に働いてるなんて人は少ないだろう。そしたら映画館は店員さんが居なくてやってないだろうし、デートしようにも、電車もバスも動いてないと思うよ、僕は車を持ってないからそうなると遠出は出来ないよ。それにそうなっちゃったらお金も意味がないだろうから貯金を下ろしてもただの紙切れ、それにコックさんの居ないレストランに行ったって材料を眺めて座ってる位しかできないだろうし、デパートに行って、バックや服を買ったってその日が最後なら、買っても使う事が無いんだから買うだけ無駄だろ」
そんな、ロマンの無いこと考えちゃうのって、やっぱりタカ君はタカ君か。自動車が有ってもガソリンが入れられないかも、そもそも発電所が止まっちゃったら電気が来なくて映画も見れないし、デパートも入れないなんて言っちゃってるし。
「それにね、もしかしたら外は危ないかもしれないよ。みんなが好き放題って事は、警察だって仕事を止めて遊びに行っちゃうかもしれないし、自暴自棄になってたら暴動に、いや、もっとひどい事になってるかも。そんな事になったらこんな僕じゃ君を守り切れないよ」
タカ君、わたしの心配してくれてたの。
「だからね、もしも最後の日になるのなら、この部屋でこうして君の煎れてくれたコーヒーを飲んで、君のおしゃべりを聞きながら本を読む、ぼくの一番好きな時間を最後まで過ごしたいかな」
パソコンの中をチェックしてたら、昔書いた短いワンシーンが出て来ましたので、少しだけ修正してみました。