第九十一話 新しき仲間
さて、基本的に契約をするのに必要な物は呪文と魔力の二つだけ。一番最初の術だからな。今回はこの二つに加え、魔術陣と長い詠唱を使う。魔術陣は対象を囲むように、魔力が有る棒とかで描く。描かれた溝に、俺の魔力を込めた液体を注ぐ。今回は水だな。そして、詠唱を開始すると。
「共に歩むならば手を握ろう 共に歩むならば契りを交わそう 汝が力を貸すならば 我も汝の力とならん 我が友に成ればこそ 友と成長すればこそ 新たなる道が未知が路が開けん ここに誓約は結ばれた 証はここに【召喚術・契約:契約の刻印】」
魔力がこれでもかと削られたけど、何とか契約できた。これは休憩しないと駄目そうだな。それにしても、この鳥は何て言う種類なのか。見た目は鴉と鷹を足して、2で割った様な風貌だ。
全体的に筋肉質で、体格もかなり大きい。通常の東雲と同じかそれ以上とか中々だぞ。種族名はホークロウ?聞いたことがないな。この世界特有だろう。
『おい、テメエ。ナニしやがる!リョウショウしたオボえがねぇゾ!』
「肉さ取ってこーい」
『イヤッフー!』
あ、こいつ。チョロい。アイテムボックス内が僅かながら時間経過していたみたいで、新鮮とは遠くなった肉でも反応したぞあいつ。でも、微生物の動きは止まっていたようで、腐ってはいない。酸化してるかもだけど。生きている有機物は止まるらしい。俺も顕微鏡で覗いたから分かるけど。
『あん?こいつウマくネェゾ!ダマしたな!』
「別に旨いとは言ってないけどね?」
『クソッタレ!で?ナンでオレとなんかとケイヤクしたんだ?オソったオレがイうのもアレだけどな!ハハハハハハハッ!』
「空を飛んで、移動を楽にしたかったから。中々大型の鳥系魔物がいなかったからさ」
『はーマモノってオレのコトか?まっそんなのはイイけどヨォ!モノズきなヤツもイたもんだなぁおい!』
何か狂化してないか?言葉の端々から狂っている感じがする。・・・乗って飛べるか不安になってきた。いや、飛べるだろうけど、安全性が心配だよ。
『ソラトびてぇんだろ?乗せてやるよ。ドコまでだ?』
取り敢えず地図を回収して、バイクも仕舞おうか。折角乗せてくれるのだし、乗ってみよう。
「あっちの方角にお願い」
『シカタねぇナァ!シッカりツカまっておけよ!イヤッハーーッ!!』
ふ、振り落とされる。もう少し乗り手を考えてほしい気もするな。目が血走ってイカれているから、多分無理だろうし。最高にハイな気分みたいだな。それでも、バイクで走るよりは断然速い。最高速が平原でしか出せない東雲よりも、速い速い。
とは言え、何の障害物がない場所でしか無理だろうし、俺の方で風避けをしないと風圧で飛ばされる。それに、階層に依るけどダンジョンも無理かな。ジェット機は普段使い出来ない。これだけの速度で真っ直ぐに進んでいるのに、一向に表示が変わらないこの地図は一体…。若しかして壊れていたりする?あ、でも段々と動いているような気がしてきた。ほんの数ミリづつだけど。
『ハーッハッー!キモちがイいゼェー!』
五月蝿いけど、聞いていてこっちも気持ちが良くなるな。突き抜けた者は、物に依るけど見ていて気持ちが良いのが多い。例えばそう、突き抜けた馬鹿とか阿保とか見ていて面白い。狂っているのも好感が持てるしさ。でも、中途半端だとん?ってなる。
『もっとハヤく!もっともっと!イヤッハーー!!』
うわっ速度が上がっていくっ!触手の形をもっと流線形に近付けて、空気抵抗を減らさないと!生やしてる根本から折れる。地図の方は…縮む速度が早くなって、目に見える変化になった。
「と、止まって!」
『そらそらそら!オトのカベだってイマならコエられそうだな!』
…駄目な奴だこれ。優しく叩くだけじゃ気付かないか。よし、殴ろう。何回も声を掛けたけど、自分の世界に入っているらしく、気付きやしない。
『イッテェな!ナニすんだこのやろう!』
「少し速度を落として!」
『あん?イいけどヨォ。セッカクチョウシがノってきたってのに、どうしてくれんだ!』
「はいはい、生肉あげるから許して」
『ウマくねぇだろ!』
「いや、今度は美味しい・・・筈?寝かせて熟成した奴らしいし」
アイテムボックスに残っていた食糧を、一旦預けて措いたんだよな。入れていたら、いつの間にか酸化してたからな。それで、今中に入ってるのは新しく受け取った奴と、取り出し忘れた奴だからさ。俺もどっちがどっちだか分からない。基本的にアイテムの情報が見えないからな。何てプレイヤーに優しくない仕様なんだ。
『あーじゃあスコしオりるわ。ハラぁヘったしヨォ。そのニクくれや』
「はいどうぞ。生のままだから、調理しないと食えないし。 それに、調理済の冷めても美味しい料理を貰ってるから、食べて良いよ」
『おう、モラうゼェ。うめぇなこれ!もっとアるか?』
「未だ未だあるから、食べて食べて。そんなにがっつかなくても良いのに」
最初の頃よりは結構近づいたな。後十二、三キロって所か。このままのペースで進めば明日中には着ける筈だ。あんなこんなしていたら、夜にはなるか。早速野営セットを展開してと。ここで野営でもしようか。
呪文でよく使う語尾の゛ん゛は、古語のむの中世以降の表記方法です。否定形ではないので悪しからず。日本語って難しいけど、面白いですよね。補足でした。蛇足かもしれませんが。