第六十五話 ジャンジャン行くよ!
中身は魔石や金属等の素材が溢れていた。一行の落胆ぶりは凄まじいが、一人だけ狂喜乱舞する者が居る。ルクハだ。素早くそれらを回収したかと思うと、底から一巻の巻物が出て来た。
それは魔術書や魔術本とはまた違った、技術巻物だ。これは、魔術本と似ていて非なるもの、読み、写し、そして実践し、経験を積まなければいけない。簡単に言えば、レシピと同じで作り方しか載っていない。
勿論、読めば大体のことは解るのだが、作らなければ意味が無い。
それに書いてあったのは、移入付与。それも、道具を作るときに掛け、それが壊れない限り永続的なもの。しかし、それは元々他の物に入っていたスキルや魔術を移し変えるだけで、何かを新たに入れる力ではない。ただ、制限は有るものの、有用な力なのは疑いようが無い。
取り敢えずここでは使えないと判断し、移動を始めた。階段を降り終えた後、目の前に待ち受けていたのは鬱蒼と生い茂る木々。それらの間には蔦が巻き付き、視界の悪化を増長させている。
そう、ここは密林と言われるような森林で、非常に戦い難そうだ。
「あ、暑い。蒸し暑いね」
「熱帯雨林みたいねぇ」
とも言っているため、不快指数は高かろう。歩もうとした瞬間、木の上から石が足元に落ちてきた。それを投げたものは、木の上からこちらを見下している。しかも憎たらしい表情でだ。完全に侮られている。そして、そのまま逃げた。
これには一同呆気なさ過ぎて、開いた口が塞がらないようだ。然りとて、そこで直立し続けていてはいけない。再び歩き始める。
度々悪戯や襲撃が遭ったものの、何とかボス戦まで漕ぎ着けた。目の前には背にコウモリの羽を生やし、尾っぽ全体が蛇の頭に変わっている生き物が居る。それにはアリゲーターと弾丸アリの強靭な咬合力の顎、ジャガーのしなやかな手足があるため、木々の間を素早く軽やかに、時には薙ぎ倒しながら移動していた。特殊な力も備わっているようで、電気ウナギの発電器官やヤドクガエルの毒皮、サシガメにムカデ、クモの猛毒を注入するための極太の針。
前の草原のとは違い、今度はそのバイオームに生息している危険生物を集めたようだ。ファンタジーを含んだ合成獣ではなく、純度百パーセントの危険生物であり巨体でもある。
フィールドは動き難く狭いため、スカーレットオーガのようにルバリアさんが大きく成ることも出来ない。だが、相手はその体に見合う膂力で進むため、それの通った跡は地震が起き台風が残していく、悲惨な現場が続いているだけだ。
又、攻撃を加えようにも、それの毒皮から分泌される粘性の高い液体が、斬撃や打撃などのその他諸々の攻撃を通り辛くしている。陸の上では意味があるのか分からない発電器官だが、時折静電気が発生しているため、ある程度は効果があるようだ。
今回はルクハの出した機械、製造名称移動型簡易生産工場、通称を多種生産機壱型と言う。そのプロダクターに素材を入れ、作り出した砲弾の斉射を始めたためだ。榴弾や徹甲弾、焼夷弾、榴散弾など多種多様な弾が雨霰と降り注ぐ。弾を大奮発した攻撃は、前衛と魔術士の出番がない程に苛烈である。
それが程よく瀕死で半分が挽肉になったところで、他の面々が攻撃に参加した。こいつらの攻撃にはボスも形無しであった。
これの宝箱は毒入りの小瓶が何本かと、金属や瓶に入った化学薬品、何が書かれているか分からない魔術本一冊であった。報酬配分は終わった後でと言うことで、次に進む。
良くある石レンガの迷宮のようだ。この次の階層で、男性陣が黒色のスライムに襲われ、服が溶ける大変悲惨で滑稽な事件が起こったが、概ね順調に歩めた。
この四十階層のボスは巨大なスライムである。蹂躙劇が始まるかと思いきや、鉄の玉が鉛玉が肉体に接触した途端、次々に溶かされていくではないか。ギャグみたいな服溶かしスライムではなく、れっきとした強き者だ。だが、弾幕が利かないと分かると、斬撃でそれの肉が削り取られてゆく姿は、強かった分一層哀れであった。
それが残していった 物の中には、またもや多様な素材と何の文字か分からない魔術書だ。そして、これもまた保留にして階を降りて行く。
視界が赤褐色に染まる。土煙が舞いとても煙たく、日が照るため暑い。地面は赤土で構成されており、植物は疎らにしか生えていない。その光景は寂しさよりもある種の力強さを感じさせるものだ。出て来た魔物も、乾燥した土地に合う動物が選ばれていた。
この階層は荒原に見合う成果で、詰まるところ美味しくとも何とも無かったようだ。ホブゴブリンよりかは素材は出るが、無いよりかはマシな程度で意義が見出せない。更に宝箱も出てきてはいないこれは何の罰ゲームだと皆一様に嘆いている。
ボスもプレイヤーを殺す気満々の、危険生物の盛り合わせ合成獣であったそうな。案の定、宝箱も素材と今度は技術巻物が出て来た。それも一回前のボス戦で出て来た魔術書の様に、文字が分からなかったため分からずじまいだ。