第五十九話 色彩が足りねぇよ
前回と同じく三人称視点だけです。
ルクハを捕まえた一行は、一時的に野営をし休憩を取ることにした。設営はルクハとネクロである。ルクハは毎度の如く機械で簡易的な家を出し、ネクロは水牛の二の舞にならないように堀付きの壁を作成した。鴉狐も巡回警備と定点警備に〔白の武者〕を呼び出し、さながら簡素な要塞の体を体をなしている。
その中にある台所で、ルバリアさんとネクロ、鴉狐が料理を行う。その他のメンツは、高台で警戒をしている者、武器の整備、矢や弾の補充、集まったデータの整理をして暇を潰して過ごす心算のようだ。
「何を読んでいるのですか?」
食事は牛肉尽くしで、目の前が茶色一色にそまりそうになったそうな。そんな時間が終わり、自由になったときのこと。ルクハが窓辺で本を読む鴉狐に声を掛けた。
「ん?ああ、これかな?英霊召喚のおさらいでも、しようかと思ってね」
「前から疑問に思っていたのですが、英霊とは何でしょうか?」
「英霊ね。受け売りだけど良いよね?」
「ええ、はい」
鴉狐は何かしらを、思い出す素振りをしながら話し始めた。その内容とは、英霊は記憶や性格、能力を星の記憶に記録された情報で、英霊自体はただの記録であること。召喚に必要な触媒は英霊をこの世に繋ぎ留める楔であり、現世に映すための鏡のような物。それ故に、強い所縁の有る物でなければいけない。術式自体は対象物の現界を目的とした門で、触媒は鍵と鎖の役目。魔力は門を開けるための力で、開け続けるためには消費し続けなければいけない。
英霊は記憶の再現であり、記録の映写であり、鬼録の影法師である。近しい者としては、ヴァルハラの戦士達やAIも英霊に似ている。英霊は制限が掛かっており、力の大きさに依るが消費する魔力量は通常の召喚魔術の儀式系対個級最高位に位置している程。
因みに、魔術の中でも系統は二つに分かれる。それは儀式系と簡易系であり、予め場所の確保や触媒の用意、術式を描いておく必要が有るか否かの違いである。そして、規模は対〇で表さられる。範囲が個体で収まるなら対個級であるし、軍隊の場合は対軍級になり、難易度の高さを位で表す。
そうこう説明をしていたら、結構な時間が経っていたようだ。外から先頭音が聞こえる。急いで駆けつけて見たら、ネクロとルバリアさんが模擬戦をしている。もう少し詳しく言うなれば、ゴーレムとルバリアさんによる多対一戦闘の修練である。ルールは殺害無しで、ゴーレムの追加生成禁止だ。
「いくわよぉ〈震脚〉」
ルバリアさんは囲まれているが、〈震脚〉と言うスキルを使用し足元を踏み抜く。直後、何かが崩れる大きな音と共に、爆音を立てながら地割れを引き起こした。割れた地面の先端が鋭利に隆起し、ゴーレムを刺し貫く。周囲に居たゴーレムで、それを免れた物は大地に吸い込まれた。遠くに居たゴーレムは破片で表面が大小問わずに、削れていく。残ったゴーレムに、蹴り技や投げ技を繰り出し破壊していった。
〈震脚〉は込める魔力量により、踏み込んだ箇所から揺れを起こすスキルなのだが、蹴り技に組み合わせることで凶悪な効果を呼んでいる。しかし、魔力量の多い相手には効きづらい技である故に、そのような行動で補う。ようは使いどころである。
「むむ、減ったわね。食らいなさい!土塊は槍 岩は壁に〝クリエイトランス アンドウォール〟」
地面から槍や壁が筍のように生えてくる。しかし、槍は避けられ壁は破壊された。
「ガッ。やるわねぇ」
ルバリアさんはただでは済まなかったようだ。所々に大小様々な創傷が見られる。そして付近には血の着いた、死角に配置された岩の剣があった。
「その程度かしらぁ?」
「増やせないのよ。ルールでしょう?減らされるとキツいのよ」
それに足以外にも攻撃の一つ一つに、〈掌打〉との名の内部に浸透させ、破壊をもたらす効果のスキルを使用しているため、何時の間にか多対一ではなくなっていた。スキル以外にも自前で行っているので、効果は倍増どころか幾倍にも上がっている。
だが、ゴーレムたちも負けてはいない。減ったことにより、繊細さを欠いていた動きがとたんに素早くなった。しかし、近接戦闘が不得意であり、武術を修めていないネクロが直に操作しても、あまり変わらない。
だが、その攻撃も積もれば痛手になる。ルバリアさんの動きは鈍り始めたが、降参する前に最後のゴーレムが倒されたことで 模擬戦は終了した。
その後、そさくさと野営地の解体を始めた。全ての作業が巻き戻しのように、されて行き終わる。その音を聞き付けたのか、羊の魔物が群れを為して襲ってきた。水牛の群れほどではないが、数が多い。ほぼ同じ手順だが、半ば流れ作業的なものになってしまったのは、いたしかなかろう。
この階層は草食動物の魔物が群れて襲ってくるが、その頻度は然程でもない。しかし、数は驚異である。幾度も潰してはいるが、尽きる気配が無いのもたまりない。
助言や評価が欲しいです。