第四十六話 誰だ此奴
「夕飯の時間だよ!魔術本を読むのは一旦終いにしてアオナガに集りに行くよ!」
「おー!」
どんな食べ物が出て来るんだろうね?楽しみだなあ!
「今日行く予定の食事場所は〔帝国〕、〔皇国〕、〔和国〕の食事が食べられる〔食美三昧・日陽〕って所よ。魚介類に畜産肉、狩猟肉、野菜、山菜、乾物の料理が目や鼻、耳、舌で楽しめるわよ!私の安月給じゃ中々行けないのよ」
和食かね。でも楽しみだね、趣味に諭吉が消えてくからさ。フフ。
「安月給何ですか?」
「ええ、そうよ。給料の大半が趣味に消えてくからよ」
俺と同じ理由だったー!
「さあ!行くわよ!」
おお、此処が〔食美三昧・日陽〕ね。外見は基本配色を朱色にした小型九龍城砦に近いかな?建物のごった煮感があるけど違和感無く纏まっているね。朱色を下地にして黒と金の装飾があって綺麗だよ。
「どう?中々見られない様式だと思うけど」
「とても良いです」
「喜んでくれて良かったよ。アオナガに高い料金を払わせるかいが有るってものよ」
「ほお?お前そんな魂胆だったのか。後で覚悟しておく事だな」
アオナガさんが来たという事は、烏頭達も来たのかね?
「よお、鴉。久しぶりだな」
この声は烏頭だね
「久ぶ・・・り?どちら様ですか?」
「なんだ忘れたのか?鳥兜だが」
烏頭は筋肉ムキムキの濃い顔をした巨人姿のルバリアさんでは無い筈だ!
「アオナガさんの師匠が、剣の稽古を付けてくれてさ」
いや、剣の稽古でこんなに変化はしないと思うなぁ!
「負荷を掛けながら、鳥兜の周りの時間を早めただけだぞ?教える予定だった魔術を教えてからな」
「あ、鴉ちゃんにも使ってたよ?体感時間を引き延ばす魔術」
そうなんですね。時計とか全く見てなかったから分からなかったよ。
「立ち話は止めて食事にありつこう!」
「食べ放題メニューの所だからな?」
「え?」
「え?では無い。流石にこの人数で食べ放題じゃない所では払えなくなるぞ?」
「えー。まっいっか美味しさは変わらないし!」
お、あれはルクハとレオナさんの複製の人が丁度来たね。
「さあ!じゃんじゃん頼んじゃって良いから!店員さん和酒、帝酒、皇酒の吟醸を二本づつと肴にカラスミと鹿のサイコロステーキ、笹身肉のサラダ皇風ドレッシングがけを一つづつよ!」
「かしこまりましたー!」
何を頼もうかな。肉系と魚系を食べたいね。鯖の味噌煮に鯵の干物、豚の葱塩焼きとご飯にお酒にしようかね。お酒は和酒かな?清酒に似た味だったからね。洋酒系は置いてないみたい。
「米、麦、芋の焼酎を一本づつに飛竜のヒレ肉の厚切りステーキおろし付き、焼き鱈おろし付きに焚き飯大盛りを頼む」
「鯖の味噌煮に鯵の干物、豚の葱塩焼きとご飯を一つづつに、和酒を一本で」
大丈夫かなぁ?二組に分けて座ってるんだけど、テーブルに載りきるかね。
「模擬戦の時のアオナガさんの剣って如何いう物ですか?」
「あの剣は唯の偽・竜墜剣だよ。鍛冶屋と私で造った剣で本物とは程遠いけどその分色々改造してるよ。だから本物と同じか一部だったら超えている剣よ。それに武器は他にも在るから」
「何でお前が説明しているんだ、。まあ良い、それより食べないと盗られるぞレオナに」
「あ、はい。それにしてもレオナさん食べますし飲みますね」
あの体に如何やって入れてるんだよ。
「ああ、消化促進に吸収促進、肝臓強化、栄養共有、栄養魔力転換の魔術を使っているからだ。消化吸収で胃と腸の中身を少なくし、肝臓でアルコールの解毒能力を強化、栄養共有で分身体に送り、分身体と共有した栄養を魔力に変えて貯めてるからな。際限無く食べている、他人の給料だともっと酷くなる。しかも、食べ放題の出禁一歩手前で食べるからたちが悪い」
あーうん。汚い!流石レオナさん汚い!
「ほら、早く食べないと無くなるぞ?半分程既に彼奴の腹の中に消えてるからな」
あ、本当だね。よしレオナさんの物を食べてやろう!・・・美味しいなぁ!肉汁が口内に溢れて零れ出そうになるよ。食べ放題ってのが信じられないね!
「不思議そうな顔をしているな。ここの食材は迷宮で無料で手に入れた物や、高級料理店で使わない端や二級食材で料理しているからな。建物もスラム街だった頃を改装して住人に教育を施し、従業員にしたと言う我が王の偉業の一つだ」
食べ物食べてて全然聞いて無かったよ。何を言ってたかさっぱりだね。
「あれ?昨日の夜食事をしていた所までは覚えてるんだけど・・・記憶が無い」
イテテ、二日酔いに似てやがる。ここまで再現しなくて良いよまったく。それに魔術本読まなきゃ、何時まで経っても終わらねぇよ。
「おや、おはよう。二日酔いとは情けないな鴉よ」
誰だこのムキムキ筋肉。あ、いや烏頭か。
「模擬戦をやらないか?」
「やらん」
一発でも掠ったらお陀仏だからな!ステータスも鍛えてはいるけど貧弱だしねぇ。最近自分の前衛系のステータスに、酷い格差が出来つつあるよ。当初の目的は一体・・・?
「そうか、残念だ。挑みたくなったら言えよ」
なんで此奴尊大になってるんだよ。傲慢の大罪か?
そう言えば、旅の途中に烏頭と模擬戦やった時は、惨憺な結果に終わってね。二度とやりたくねぇ。
●◆●視点変更●◆●
とある国の草原で相対する二人の男女の姿が在った。片方は濡れ羽色の長い髪を持つ、自分で美少女と自己紹介する残念な鴉狐。もう片方は白く長い髪を総髪にした、中肉中背の最近烏頭と呼ばれる鳥兜。
両者はそれぞれの得物を持ち、実戦形式の模擬戦をするようだ。
「ハンデで離れてあげようじゃないか!」
「ソウデスカー【召喚術・召喚:黒の武者】」
話しながら〈召喚術〉を使い、〔黒の武者〕を連続で二体召喚し鳥兜に仕掛けた。
「お前の〔黒の武者〕は未だ弱い!」
そう声を上げ、左手に持つ機剣を機銃形態に変え弾を射出した。右手の機剣は剣身を鞭の如くしならせる機剣に形態を変え〔黒の武者〕の内の一体に巻き付け、切り刻んだ。
「黄泉の灯火は導きの火と成る【召喚術・召喚:鬼火】、【召喚術・召喚:黒の武者】。不知火憑依!」
『働きたくねー』
「早くしろ!」
鳥兜が二体の〔黒の武者〕の相手をしている間に、鴉狐は不知火と〔黒の武者〕を四体召喚し増援として送った。
「チッ」
舌打ちをしながらも右手の機剣を投擲し、〔黒の武者〕に当てた。そして、空いた右手で懐に隠していた短剣型の機剣を四本手に取り、〔黒の武者〕四体に当てた。が、不知火が憑依していた〔黒の武者〕は《鬼火》に守られていたため、本体に当たる前に落ちた。
「雷霆よ嘶き轟け!」
【雷切】を両の手で持ちながら、喉を狙い突きを放つ。掠りでもすれば、身が焼き焦がれるような電圧を刀身に纏わせ、雷霆を指向性を持たせ解放しようとするが、寸での所で鳥兜が蹴りを繰り出し回避した。
「ガフッ!降参、マジで痛い。ちったぁ!手加減しやがれ!」
鴉狐が地面に背中から強く当たり、肺から息を強く吐き、三回転転がった所で模擬戦は終了した。
「いや、本気で人に目掛けて雷を放とうとする奴に手加減なんて出来ると思うか!死ぬぞ!」
「えー美少女に足を入れるとか無いわー」
「中身はおっさんだろうが。それに、露骨に話を逸らすの止めてくれませんかねえ!」
模擬戦を終えた途端これである。こいつ等は本当に大人か?
「休憩にしましょお。今直ぐその口論を止めないと怒るわよ?」
怒気を発しながら、ルバリアさんは右手を人化を解除した。
「「はい。真に申し訳御座いませんでした!!!」」
そろって土下座をして、ルバリアさんの怒気は為りを潜めた。