第四十四話 何処は迷宮なり!
「召喚魔術の修復は、召喚獣に手を当てて魔力を注ぎ込むと修復が始まるから試してみて?ね?」
脅しかな?いや、脅しだよね!?
「は、はい。分かりました」
「何で教えようとすると皆怯えるのかねぇ?そんなに怖いかなぁ?」
「目が悪いと思います」
「視力は1.7あるんだよ?これでも。眼鏡は魔道具だからさ?疑いの目を向けないでよ」
伊達眼鏡じゃ無いんだね。
「目の輝きが悪いのでは?」
「ええ?輝いてるのは良い事だと思うけど」
輝きが狂気に満ちているからじゃないかな?
「出来たようだね。基礎はこれで終わりー!効率の良い方法は自分で見つけるもんだよ?他人に唯々諾々と教えられた事をしてるだけじゃ意味ないから」
耳が痛い人を知っている。
「さて、簡易召喚はこの世の何処かに存在しているモノを、一時的に呼び出す召喚魔術の事だよ。この世って言ったけど、それについては判明していてね。大神が一柱〔魔と叡智を司る大神〕の神代迷宮〔叡智は魔を魅る魔は叡智の寄る辺足る〕の一部に在る創命工場だよ。召喚自体は、創命工場で創られたモノが召喚される仕組みだよ。創られたモノは自我が無いから契約は出来ないし、予め命令を仕込んでおかないと動かない人形に為るよ。その分利点も多くて、魔力さえ有れば延々と召喚し続ける事が可能で、保護障壁が必要無い事だよ。要は使い捨てって事よ」
よく分からない単語が出て来たのは置いておくとして、コスパが良い使い捨てスペックは要相談ってことかな?
「簡易召喚で詳しく書いた奴は、分類を簡単に分けただけよ。上位の分類程召喚時の魔力が多くなるよ。それに簡単に分けただけだから、目的のモノが出ない事も多いから確率みたいなものよ?魔物召喚でオーガを召喚しようとしても、ホーンラビットとかゴブリンとかが出てくるし。変えようと思っても中々変えられないしさあ。あ、魔族で見た目が少し似ている〔小鬼族〕にゴブリンって言ったら駄目よ?ゴブリンと違って理知的で知性的な種族で研究者に為る人もいるみたいだし」
え?〔小鬼族〕ってゴブリンってルビ振るんじゃないの?
「まあ、それは置いておいとくとして、簡易召喚の術式と詠唱を教えよう!術式を覚えるには先ず読む事が必要でね。この時読む行為は既存の術式、魔法陣って言った方が良いかな?に、魔力を注ぎ込むと分かるようになるよ。分かる量を増やしてゆくと新しい術式を作れるようになるけど、今は教えられないから置いとくよ」
成程ね、術式を見たけど文字が分かりませんよ。如何やって解明していったか分かったね。
「これが術式を描いた紙よ。紙も少し特殊な紙で描かないと効率が悪いからさ、高いんだよ。ほら魔力流して」
渡された二枚とも図形じゃないですかーやだー
「流してる間に魔術書と魔術本の違いについて話しておこうか。魔術書は一工程の一種で、魔力を流すと魔術を発動する魔術紙を主な頁として構成してる、魔術使用を簡略化するための本の事。魔術本は魔力を流すと読む事が出来る魔術紙を主な頁として構成している、魔術を教える為の魔術教本の事。終わったかい?」
おー術式に書かれてる文字が何となく読める。えーと何々?
何処に居るは魔に属す物が一つ 魔力を通して縁を繋ぎ 今一時契約を為す 我が僕として出れ 簡易召喚・魔物
呼び出したる魔に属す物が一つ 返すは何処に 送還・魔物
「終わったようだ。じゃあ早速召喚してみて、外にだよ?勿論」
「え?あ、はい」
「何処に居るは魔に属す物が一つ 魔力を通して縁を繋ぎ 今一時契約を為す 我が僕として出れ 【簡易召喚・魔物】」
お?何か出て来たぞ?
「やっぱり。これは駄目な奴だ」
レオナさんが何か言ってるぞぅ!嫌な気がする。召喚されたのは何だ?見た事がない造形だね。見た目は黒く艶光りする甲殻?でその表面は|歯状鱗≪鮫肌≫かな?目と鼻、耳は無いね。如何やって生きてるんだろうか。口には鋭くて返しが付いている歯が鮫の様に大量に生えてるね。
よく見たらさ、黒くて目が無い四足歩行の鮫に見えるぞぅ?
「〝神界におわす魔と叡智を司る大神に献言いたす 浸食欠陥怪物獣型を発見せり〟」
ん?何を言ってるのかな?分からないよー
「送還して良いよ?」
「あ、はい。呼び出したる魔に属す物が一つ 返すは何処に 【送還・魔物】」
エフェクトは変わんないのね。
「じゃ戻って続きをしようか」
あれ?白い鳥なんて飛んでたっけ?
「お腹が減りました!」
「ええ、夜に為るまで待ってよ?アオナガの驕りだから」
「分かりました」
満腹度と渇水度が夜まで持つかね?
「簡易召喚の魔術本は今渡すから後で読んでおいてよ?待ちに待った儀式級魔術の時間よ!儀式級魔術は供物や触媒を使って発動が可能な魔術全般の事よ。始めに教えるのは模造召喚魔術書の召喚術式よ」
●◆●視点変更●◆●
「あら、あの子から連絡とは珍しいですね。自分の興味ある事以外神々と関わろうとしないのに」
女性の艶やかな声が聞こえると同時に、暗闇が晴れ、高く長い本棚の列が見えた。女は神と言う奴らしい。質が良い人を駄目にする椅子に座って本を読んでいるようだ。髪や目、は濡れ烏の如き艶のある黒色をしており、肌は褐色のようだ。
「お気に入りの子からかい?」
その褐色肌の女の対面には、暗い色の眼鏡を掛けた色白の男が座っていた。此方はソファに寝そべって寛いでいる。
「ええ、そうよ。お告げに乗じてお話に花を咲かせようとしても無視するんだもの」
「そりゃお前が悪い」
笑いを含みながら話した男は、手元にある大判サイズのディスプレイに目線を向けた。
「へー〝神界におわす魔と叡智を司る大神に献言いたす 浸食欠陥怪物獣型を発見せり〟だってさ」
「もう!先に見ようとしたのに何故取るんです。え?何ですって?」
少し焦りが見える。その焦りを安堵させようと、色白の男にもう一度言うように急かした。
「君が本を読んで居るからだろう?〝浸食欠陥怪物獣型を発見せり〟だよ」
少しからかいながら、もう一度ゆっくり言った。
「何ですって!綻びが現れたと言うの?」
「君が焦るなんて珍しいじゃないのかい?」
「貴方の担当でしょう!」
声を荒げながら褐色肌の女は喋った。
「綻び自体は無いけどね。何処かで綻びは起きると思うよ?まあ、もって一年だろうよ。何処ぞやの国?いや宗教かな?が事を起こそうと不穏な動きを見せてるようだしさ」
「貴方を怒った私が馬鹿でしたわ。あの子に神々からお告げをしても意味無いでしょうし」
落ち着いた女は気が滅入りながらも声を出した
「だろうね!その子は神々を権能の保持する者共とか最終手段とかの利用する力の塊としか見てないんだもの!」
愉しそうに色白の男は嗤った。瞳に狂気を携えながらも期待しているようだ。子等がどの様な結末を辿るかを。
「趣味が悪いですわよ」
褐色肌の女は呆れた声を出し、目を伏せた。
「君も同類だろう?それに僕よりも性格が可笑しい奴とか性悪、狂気そのものも居るじゃないかい?」
「そう・・・ね。私は観て記すだけですもの」
目を開けながら褐色肌の女は呟いた。
「僕は■■■■■■■■■■だけだけどね」
それに応えるように、だが独り言の如く色白の男は口を開いた。