第九十八話 回帰せよ
鴉狐の周囲が辿ってきた物とは違う様相を見せ始める。耳につく雑音が聞こえ、周りの色が混ざり段階的な変化を起こし、空間が軋み歪み始めた。それは、記録を再生するのを拒む物だ。だが暫くすると、音は段々と意味ある声に変わり、色が統一されていく。変化が終わる頃には、目には白と金色で造られた瓦礫が映る。
「ちいっ!あれがここまで存在を上げると厄介になるとはな!」
『肯定。人工魔導生物の核に、人工神が造り出した人工神造兵器が使われているようです。又、この空間自体が仮称雷霆の存在を上げ、自らの権能を拡張し強化しているようです』
その生き物は鷲の頭に牡牛の角を生やし、体は牡牛のようだが羽毛に覆われ大翼を羽ばたかせている。前脚は鷲で後脚は牛。全体的に白だが瞳や嘴、爪は金色の為荘厳に感じる。
そして、巨体から青く光る魔力の放出により雷霆が迸る。それは周囲に強力な攻撃として降り注ぐ。加えて上空には金で縁取られた術式から、雷に似た視界を遮る程の光が絶えず落ちるため非常に五月蝿い。
「ビース!特殊武装タイフォン起動及び射撃を許可する!」
『了承。特殊武装タイフォン起動開始。ベース、変形現出。アウトリガー展開。アンカーパイル射出。バラッブ伸展。固定完了』
ビースを中に据えた戦闘機が現れた。それは戦闘機に見えるが、所々変形しており、遠目から見れば全体的に黒い直方体だ。その後、機体側部から装置が張り出し接地した。その装置から杭が地面に撃ち込まれ、更に返しが展開され安定性が増す。厳重とも言える固定方法だ。
『対象、投錨捕縛。簡易呪鎖封印。砲身形成。電力、魔力充填開始』
宙から異様に白い錨や鎖が伸び、巨大な魔導生物に絡み付く。そして土台から砲身が構築されている。その過程は四角く灰色のノイズから実体へと化す、何とも奇妙な様相だ。砲身は土台よりも黒い。まるでそこには穴が開いている様にも見える。それから、砲身に電力と魔力が供給され準備を整えていく。
『終了。回帰の呪い、生成。呪弾装填』
充填が終わり、弾が形成される。それは黒に赤い筋が幾本も通っており、無機物とは程遠く感じてしまう。何故なら、気色悪い拍動をしているからだ。それは機械的に装填され、直ぐに見えなくなる。
『プゥルトリガー。3、2、1、射撃』
数を唱える毎に、砲身には赤く光る輪が付く。その輪は弾が飛び出る瞬間、一つに纏まり幾倍にも大きくなる。やがてその光は弾を形作る呪いにより禍々しく堕とされた弾を導く道や、推進と貫通の力に変換された。見た目は赤く不気味に光る一条の槍。だが、その実態は着弾した後に分かるだろう。
そう、威厳溢れた雷霆の姿を本質に回帰させ、核となった武器へと戻す呪詛だ。それは成長や発展を否定し、その物体を無力な状態に還元する物。ただ、使用には制限がある。人工、自然に関わらず、神秘に関する物しか無理である。そう、例えば上位存在である神に属する物だ。加え、魔力と電力消費が大きく、おいそれと使えない切り札であろう。
『標的沈黙、回帰成功。砲身の解体後、ベースを収納します。報告。魔力及び電力残量が既定値を下回りました。又、予備蓄電池、人工魔導宝石が切れています。可及的速やかに充填と補充を要請します』
「あーそうか。込める呪詛が多かったのか。代用品はそうだな…この鎚は使えるか?」
『解析中…。解。多少調整する必要が在りますが、使用可能です。マスターの魔術を使用すれば、時間短縮が見込めます』
「OK、分かった」
空間に亀裂が走りブロックノイズが起こる。それは先程よりも力強く、映像だけでなく鴉狐自身にさえ影響を与える程だ。終いには弾き出され、元の無機質な白い金属製の壁に囲まれた場所へと戻る。
「がっ!」
唐突に平衡感覚が崩れたので、顔面から地面と接触してしまう。しかも、勢い良く行った為に、痛い所では済まない。若干血が出ているように感じるが、気のせいだ。
「痛い。鼻と頭が特に痛い」
●◆●視点変更●◆●
『進行番号5、外部からの介入に依り強制終了。進行には問題ないと判断し、特例事項127を続行します。鴉狐様、こちらにおいで下さい』
「は、はい」
立ち眩みがするけど、我慢できるな。痛みは…段々と引いてきて楽になったけど、上手く頭が回らない。強制的に見せられたあの映像のせいか?体感型の映像みたいで楽しかったけど、何か現実味が在って不気味だったな。
『特例事項127、進行番号6を実行します。遺物保管部屋12707。金庫室型装置、解錠。最終金庫扉、解錠開始』
何枚かの扉が開いた先には、視界が埋まる程の大きな堅固そうな鋼鉄似にた素材扉が見えた。そこから、機構が動く音が聞こえ始める。今まではあまり時間が掛からなかったのに、凄く時間を掛けているな。5、6分経過した位で、終わったけども。
『解錠が終了しました。前へお進み下さい。最後に、鴉狐様がお持ちのカード型の鍵を、長方形の穴へ差し込んで下さい』