第九十七話 目的地を決めましょう
「それで、その」
「ああ、第三の連中だが、現在逃走を行っている。君にはそれを見つけ出し、計画を阻止して貰いたい。無論、我々第七の教授達も探しに出る。計画はもう開始しているようだが、被害を抑えることは出来よう」
「分かりました。居る場所の目星は付いていますか?」
「いや?どうも逃げるのが得意な連中でな。痕跡も研究概要以外は尽く消されている。その為、我々も手を拱いているよ。君は虱潰しに探してくれたまえ。ああ、情報が手に入り次第動くのもありだがな。君の得意な方で動いてくれて構わない。ではな。さて、フィンチ、ウォル、リザ来い」
アルマンドが建物の陰に向かい声を掛けると、三つの影が現れた。それぞれ鳥の仮面を装着した翼を生やした男、狼の面を被った枝毛が覗く尾を振る男、蜥蜴の仮面を付け鱗が急所に当たる部分に有り尾を下に伸ばした女だ。
「「主人よ。了承した」」
「あらぁ。私も呼ぶって事はかなりの大事ねぇ」
「まぁ、そうだな。何、君達なら上手くやると信じている。無論、私の眷属も使え。これは我が勅令であると心得よ。疾く勤めろ」
「「「はっ」」」
そう言い、その四人は影の中へと消えて行った。その光景が終わる前に、朧谷もビースに股がり走り去る。彼らの上空には鳥に戻り飛ぶマッティアや、完全に竜へと戻り羽ばたくクロノが居た。その姿以外にも、様々な幻想種に戻る者や多様な機械に乗る人々が飛び立ち、第三人工神話研究所に所属する者を捜査しているのだろう。
ただ、その光景は不謹慎ながらも、とても心が踊る物だ。科学と魔導学が交差した乗り物や建造物存在し、幻想でしか語られない者達が生きて動いているのだから。現実で有り得ない事、非現実的な事だからこそ表れる感情だ。
神秘的な光景から、幾許かの時間が経った場面に変わる。朧谷が自身の工房で作業している場面だ。彼はビースを含め、使用する予定の武具や道具の整備及び、補充の最終確認をしている。
「ビース、機体と武装、消耗品の最終確認をしてくれ。俺は使い魔とドローンの確認をするからな」
『了承。予備弾倉と蓄電池、人工魔導宝石は十二分に積みました。又、内部弾薬工場の整備状況及び、使用予定の装備も全箇所異常なし、安全確認完了。これより全体の最終確認に入ります』
その音声の後に画面が表示される。そこには確認作業の進行率を表すパーセンテージが映し出された。その進行速度は早く、数分も掛からずに終了する。
『完了。…再起動。戦闘教義、再定義開始…。終了』
「第三についての新しい情報は在るか?」
『解。懇意にしている情報組織と取引した最新版が有ります。又、第七研究所及び、第一総合中央研究所の教授達からの物。探究院メティスの運営委員及び探究院長の物を受信しました』
宙に映し出された物は五つの世界地図に、それぞれの組織が収集した情報が記載されていく。細部に映される内容は異なるが、どれも大雑把には似た代物である。どれも重要な情報である事は間違いないだろう。
「全てを統合して精査してくれ」
『了承。統合中…精査中…完了。第三研究所の研究員が居るとされる場所の候補は四十二ヶ所。その内、探究院に依って確認済みの場所は三十ヶ所。残りの十二ヶ所は罠や人工魔導生物が多数設置され、内部構造も複雑となっており捜索行動は困難を極めております』
宙に浮くホログラムの世界地図に、輝く点を説明と共に光らせる。四十二ヶ所の色は青く、確認済みは緑に変わり、残りの十二ヶ所は点が赤に変化した。その十二ヶ所はメティスを中心に据え、等間隔の放射状に広がっている。
『現在、マスターが行くべき場所は浮遊群島城塞ユピテルか海底移動神殿ネプトス、地下大宝物殿オルクスの三つ。この内、力量が発揮できるのはネプトス以外の二つです。ユピテルは浮遊群島ごと落とせ、オルクスは落盤させれば良いでしょう』
「どれも豪快だな。だけど、そこまで単純じゃないだろう?」
ビースの提案に、何処か呆れた表情と声音を出す朧谷が答える。確かにその提案は捜索と言う言葉は無く、破壊一択の様に思える。実際もそうなのかもしれない。
『肯定。出来ればの話です。両方とも強固な術式に守られていると推測される為、外部からの破壊は困難になると推測されます。ただ、内部からの破壊は容易だろうと試算は出されました。加え、世界再編事象の起爆剤に当たる計画は、十二ヶ所の迷宮を半数でも陥落させれば潰えさせられます。これは、世界規模の儀式術式を使用していると考えられる為です』
朧谷はその言葉を聞き、短い時間考えを巡らせる。提案された情報でしか知らない危険地帯で、自らの手札を使い生き、勝ち残るのかを。
「ユピテルに行く。教授から戦闘機を貰っているかなら。勿論、お前に乗りながら飛べる改造はしたけどな」
『了承。滑走路使用の申請及び、航空許可の申請を行います。…許諾を頂きました』
「格納庫に移動するか。戦闘機に乗るなんて久しぶりだな。サポートは任せたぞ」
『了承』