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第8話 閣僚級

翌日。

 俺は普段通りに学校に通った。教室に入ると昨日はどうしたのと裕也と美咲に昨日はどうしたのかと責められた。


 「雄一郎!」


 中でもなぜだか分からないが美咲は可愛い顔がかすむほどのものすごい形相で俺に対して迫ってきた。って、いうか、顔が近い。近い。


 「ちょ、っちょっと落ち着け。美咲、顔が近い」


 俺は自分の体の前に両手をだし、美咲を冷静にさせようと努める。

 美咲の方も自分の今の状況に気付いたみたいで顔を赤めて俺から少し距離を取る。


 「で、雄一郎。お前は昨日あの後どこにいたんだ? 確か相崎さんもいなくなっていたし、まさか2人で……」


 「ないないない。あの後相崎が1人でどこかに行ったから探しに行ったら何か選挙演説のところで面倒くさいことに巻き込まれた」


 裕也も何か詮索しようとしているが実際にあの後にもなかったのだからどうも言い様がない。


 「おはよー」


 そこに相崎が教室に入ってきた。俺は昨日のこともありもう相崎とはかかわりたくはないというのが本音である。しかし、相崎は俺の席の隣であるために俺の元へと近づいてくる。

 はぁ。席替えとかないかな。

 今日も俺のビクビクとした一日が始まろうとしていた。


 ◇◇◇


 放課後。

 授業が全て終わり、今日は俺には特別な用があったので裕也や美咲とは別で1人で帰ることにした。俺らの高校のすぐ近くには三日月交通という小さなローカル線が通っているが、俺は高校に近い高校前駅から電車で2駅隣にある駅まで行くとそのまま山を目指して坂道を歩いた。


 「こんにちは」


 坂道をすべて歩き終えた俺はある建物の中に入って行った。その建物の中とは豪邸であった。豪邸の持ち主は俺の親父である。そもそも俺は1人暮らしをしている。今の家は小さいころから住んでいたが正確に言うと別荘みたいなものだ。俺の本当の家はこの同じ三日月市内の中心部から離れた山の中腹にある。というか、その山全部は俺の家のものだったりする。


 「これはこれは、雄一郎ぼっちゃまどうしましたか?」


 俺が玄関に入ると数人の俺より少し年上であるメイドの皆さんが集まってきた。俺は、親父に呼ばれたから来たと要件を軽く言うとそのまま親父の部屋へと向かった。


 コンコン


 ドアを軽くノックする。中から入りなさいという親父の声がしたので俺は失礼しますと言って部屋の中に入る。


 「久しぶりだな。雄一郎」


 「親父も元気そうでよかったよ。それよりも家なんかにいていいのか? 現職大臣だからといって落選したら笑もんになるぞ」


 「ああ、それなら大丈夫だ。これが終わったらすぐに夜野駅に向かい街頭演説をするから」


 「なら、用件を早く終わらせないとな」


 俺は親父との会話を進める。

 さて、ここで俺の親父こと野田勉のことを紹介しておこう。実をいうと俺は政治が嫌いだといったがその原因を作ったのは……いや、この話は今しなくてもいいか。ごほん。ええと、俺の親父こと野田勉は現在の日本の政界を引っ張っていく存在である与党民主自由党所属の国会議員だ。正確に言うと現在衆議院議員総選挙の最中であるため前衆議院議員であるが。ただ、衆議院議員関係ない話とすれば現職の環境大臣であることだ。

 しかし、それにしても……


 「しっかし、親父が環境大臣か……環境大臣って仕事あるん?」


 俺は親父相手に失礼だがそんなことをつい言ってしまう。


 「おいおい、雄一郎。それは少しひどくないか。環境大臣だってきちんとした国務大臣だぞ」


 「でも、環境大臣とか環境省とか何しているのか全く分からないんだが」


 環境大臣って何をしているんだ? 環境省って自然を大切にしましょうとか言っているだけじゃないのか。それ以外に何かあるのか?


 「雄一郎なあ、環境省だっていろいろと仕事をしているんだぞ。それに原子力規制委員会は一応は環境省の下部組織になっているんだからな。原発関係の仕事もあるんだから大変なんだぞ」


 「へぇー」


 一応頷いておく。


 「雄一郎全然感心してないじゃないか! 少しは父親を敬いなさい」


 親父に怒られる。というか、親父ももう54歳のはずなのに相当元気だ。大の大人がここまでテンションが高いと政治家としての貫録として問題になるがまあ、ここは家庭内だ。せいぜいマスコミにたたかれないようにしてほしい。

 さて、俺の親父考察はこのあたりで終わりとして、そろそろ本題に入らなければならない。


 「で、親父。今日はどういった用件があるんだ?」


 本題だ。俺は別にオヤジとは仲が悪いというわけではない。しかし、ある出来事から俺は政治の世界から離れることになった。そして、親父も俺を政治の世界から離すようになった。それまでは、俺を後継者として世襲議員にしようと考えていたみたいだが、今は俺の好きな職業についていいと言っている。見事に息子の成長方針を180度変換した。

 たぶん、今日もそれに関する話だろう。


 「雄一郎。お前のクラスに相崎香奈という女が転校してこなかったか」


 「相崎なら俺のクラスに転校してきたが、それがどうしたんだ?」


 親父はなぜ相崎の話をするんだ。


 「相崎香奈の父親である相崎虎助は日本を代表する右翼団体である日本保守連合の代表だ。公安に監視されている組織である。お前も昔エセ右翼団体をやっていた時期があるがそれとは比べものにもならないほどの組織だ。お前も十分気をつけろよ。おそらく相崎の奴もお前の正体には気が付いているぞ。元日本帝国復興委員会委員長のお前のことをな」


 「……」


 俺は何も言えなかった。

 俺は実をいうと、昔やんちゃな時期があった。ネットを基盤に右翼団体を作り代表をやっていた時期があった。親父は国会議員であったので俺のことを迷惑がったのかそれ以来俺とは別々に暮らすこととなった。ただ、親父には何も注意されなかった。今、環境大臣をやっている親父のことも考えてだいぶ前に俺はその団体を解散し、もう二度と政治には興味を持たない。THE一般人を意識するようになった。本来の日本人は政治に興味を持たないやつばっかだ。投票率が低いのもその証拠だ。だから、俺は政治にかかわらない。強く決めた。


 「まあ、気をつけろとは言ったが、くれぐれも公安に捕まるようなことだけはやるなよ。じゃあな。私はこれから演説だ」


 親父はそう言うと部屋から出て行った。

 俺はしばらく、部屋から出ていくことはしなかった。

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