第50話 二人恋
「…一郎! 雄一郎! ねえねえ、雄一郎!」
(誰だ、俺の名前を呼んでいるのは)
俺は寝ていた。
ぐっすりと。
しかし、だいぶ眠りが浅くなってきたのか部屋の中で俺のことを呼んでいる人がいることには気が付いた。
誰だ。
女性の声。
母さんではない。
では、誰だ。
「み、美咲?」
「うん。そうだよ」
「ふぇ」
俺は、美咲と自然に呼んでいた。
そして、間違いはなかった。
俺は目をこする。目の前にいたのはまごうことなく俺の彼女である美咲であった。
部屋の外を見る。
夕焼けで部屋は赤くなっていた。赤というかピンクに部屋は染まっていた。
ピンクってどうしてエロく思えてしまうのだろうか。ふと、どうでもいいことが頭の中でよぎってしまった。
「どうしてここに?」
「雄一郎が今日学校を休んだからなんかあったのか心配になって来たんだよ」
それはありがたい。
「ありがとう、美咲」
俺は、そう言い美咲を抱きしめる。
「え、えええ、え」
美咲はとても動揺していた。
そういえば、こんなに大胆なことをするのは初めてだったなと俺は思い出す。
「好きだよ、美咲」
俺は、相崎にキスをされたことの罪悪感があったのをここで無くそうとする。
美咲には悪いけど俺の自己満足に付き合ってもらいたい。
俺は、美咲の唇に自分の唇を当てる。キスをする。
ちゅちゅ
舌があたりいやらしい音が俺の部屋に響き渡る。
「ななな、ゆ、雄一郎。と、ととと突然どうしたの?」
「美咲のことが好きすぎて」
俺は言う。
そう言うと美咲の顔は真っ赤になった。
「ず、ずるい」
美咲は照れて拗ねてしまう。
しかし、その表情は何ともかわいらしいものであった。
「かわいいな」
「にゃああああ」
猫になっていた。
人からネコに美咲は変わっていた。
「えへへ」
俺は、この時間がとても楽しかった。幸せであった。
「ねえ、雄一郎」
「何?」
美咲がモジモジしながら俺に対して上目遣いで何かを訴えていた。
「ねえ、雄一郎。まさかこれで終わりじゃないよね?」
「……」
この後に何があったかは健全な方々には言わない。
ただ、女子にあんなことを言わせた以上俺は男子としてきちんと誠意を見せただけだ。
ん。
何があったのだろうね。
お母さんが今日家にいなかったはずだけど大丈夫だよな。
そんなことを思いながら、美咲と夜まで過ごしたのだった。
「えへへ、雄一郎。しゅき」
美咲がものすごく可愛らしく俺はもう何とも言えない気持ちになっていた。
ああ、こんな幸せな時間がいつまでも続いてくれると俺はとてもうれしいのだけどそういう時間って長く続かないのが必然。
明日、学校に行きたくないな。そんなことを思いながら今日は更けていった。




