第48話 〇〇中
「私と付き合ってくれたら考えてあげるよ」
相崎の出してきた条件は私と付き合えということらしい。
以前、俺は相崎の告白を断っている。
そして、総裁の件があった以来俺のことを避けていた。だから、完全に俺のことを嫌いになった者だと思っていた。それなのに相崎は再び俺に告白をしてきたのだ。
「それは冗談か?」
俺は、本気か嘘か判断ができずに相崎に問う。
「私が冗談を言うと思う?」
「……イワナイデスネ」
「絶対に言うと思ったでしょ」
そりゃあ、危険な思想を持ったことを宣言してきたあの自己紹介の時からこいつは本気の中に冗談を絶対に混じらせてきそうだなあと思っていた。
あの告白も冗談であると思っていた。
だから、本気だと思っても冗談であると俺は自分自身をだますため下手な演技をする。
「失礼だね。私は本気だよ。確かに右翼団体云々のことがあって野田君に興味を持ったのは事実だよ。でも、野田君に絡んでいるうちに野田君のことが好きになっていたの。だから、この気持ちだけは嘘じゃないわ」
相崎が俺のことを好きなのはうそじゃないと言う。
だが、俺にはお前のことを信じることができない。
「俺にはお前の言葉が本当だとは思えない」
俺は疑いの目で相崎のことを見る。
すると、相崎が言う。
「わかった。本気であるということを見せてあげるよ」
「ん? それってどういむぅ」
俺の言葉は途中で遮られてしまった。
どうして遮られてしまったのか。
それは俺の口が開かなくなってしまったからだ。正確には開いているが口から声を出すことができなくなってしまっていた。
俺の口に相崎の口がぴったりとくっついていた。
つまり。
そう、俺は相崎にキスをされたのだった。
(え?)
俺には何が何だか分からなくなっていた。
どうして相崎に俺はキスをされているのだろう。
理解ができない。
まったく理解ができていなかった。
キスはしばらく続いていた。
息ができない。俺は相崎の口を話そうとするが相崎は話そうとしなかった。
むしろ口の中に舌を絡めてきた。
(むぅむぅむx)
ベロチュー。
ディープキス。
まだ、彼女である美咲とすらしたことがないのに彼女じゃない女子としてしまった。エロい。
ちゅぱちゅぱ
相崎の舌のエロい音が俺の口の中に響いていた。
それから何分が経ったのだろうか。
ようやく解放された。
「これで本当だと信じてくれた?」
相崎の顔は真っ赤であった。
「何をするんだ?」
俺にはそれどころではなかった。
美咲に悪いという気持ちが一番だったからだ。
もし、誰かに見られていたら。それを考えるだけで恐ろしい。今が、本来ならば下校しないといけない時間であってよかったと思う。
「キス、初めてだったの?」
「……」
「無言は肯定と受け取るよ」
「ああ、そうだよ。お前が本気だということは分かった。でも、俺には彼女がいるからお前の気持ちにこたえることはできない。それだけは分かってくれ」
「ふーん。やっぱり付き合い始めていたか」
相崎は俺が美咲と付き合い始めていることを何となく察していたようだ。
じゃあ、それなのにどうして俺とキスをしたんだ。理解ができない。
「まあ、いいや。総裁のところには連れて行ってあげるよ。だから、また明日ね」
相崎はそれだけ言い残すと走ってそのまま帰って行ってしまった。
最後は一体何だったんだ。
俺にはわからずしばらく誰もいない教室にとどまったのだった。




