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第41話 父総理

 部屋を俺は出た。

 相崎と共に。

 すぐに断れば終わったことだ。しかし、俺はなぜだかすぐに断ることができなかった。俺の中で不思議と考えが変わっていたのだ。どうして変わったのか。俺にも分からなかった。


 「ねえ、野田君。どうして即答しなかったの? 野田君だったらすぐに断るものだと思っていたのに」


 「……」


 相崎の質問は俺も同じだ。どうして俺も即答できなかったのか自分でも知りたいぐらいだ。しかし、尾沢の言葉には納得のいく部分があった。自分自身が歴史を好きなのが大きいのかもしれない。近代史ばっかりが重要視されている昨今の状態に対して何らかの憤りというものを自分の中に抱え込んでいたのかもしれない。その考えと同じ考えを持つ人物に会えたことが俺にとって大きな影響だったのかもしれない。


 「1週間。1週間時間をもらったのだし、今すぐに考えなくてもいいんじゃないの?」


 「……わかった。1週間後また頼む」


 俺はそれっきり相崎とは何も話さず家に帰った。

 翌日。

 俺はずっと寝ていた。何もせず。ずっとだ。俺はどうするべきか。

 親父にまた迷惑をかけてしまう。それだけは避けなくてはいけないと思う。昔の行いでどれだけ迷惑をかけたのだか。その反省を今でもしているというのにまた親父を裏切ることになってしまうのか。


 「雄一郎、下に降りてきて」


 母さんからの声がした。

 一体何の用だというのだ。


 「はーい」


 おとなしく1階に降りる。1階に降りるとリビングには家族がそろっていた。親父が久々に帰ってきた。


 「親父? 環境大臣の仕事は?」


 「大臣だから家に帰れないというわけはない。だが、今日は大事な話があってきた」


 「大事な話?」


 母さんは無言でいた。親父が何を言うのかわかっているような感じであった。この中で親父が何を話そうとしているのかまったくわかっていないのは俺1人のようだ。


 「ああ、俺は総裁選に出ることになった」


 「え?」


 総裁選ということは与党の総裁選ということになる。つまり勝てば総理大臣だ。


 「総理が突然持病で辞任してな。その後任として名乗り上げることになった。その報告だ」


 親父が総理大臣。勝てばの話だがそれでもすごいことだ。


 「だから、雄一郎。何か変なことをするなよ」


 俺は釘をさされた。

 ああ。何となくわかった。俺の周りがきな臭いことに親父は気づいていたのだな。その牽制を兼ねている。俺にはそのように感じられた。

 やっぱりあの話はなしにした方がいい。

 俺の中で結論がだんだんと出来上がりつつあった。

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