第40話 真保守
お待たせしました。
「ここの総裁になってくれないか?」
日本愛護社の総裁小沢真一は俺に会うなりいきなり本題を言ってきた。
何て、失礼な奴なのだろうか。
俺は会うなりかなり警戒を高めた。そして、低い声で言う。
「いきなり本題に入るとは失礼じゃないんですか?」
「おや? 君の相手をしてあげるだけ厚礼だと思え。正直言って私ははね君みたいな子供を相手にはしたくないんだ。何が創設者だ。君のような子供が創設だったとはとてもがっかりだよ」
「俺が作った組織で総裁をしているくせして偉そうですね。あなたみたいな人を見下す人が組織の長だということはこの組織の格というものをかなり下げているんじゃないんですかね」
「別にどうでもいい。右翼団体なんてどこも同じようなもんだ。それにな、いま日本は右傾化している。むしろ、右翼の方が主流なんだよ。左翼どももざまーねえな」
俺は小沢の態度にかなりムカついていた。
どうしてこんな奴を俺に合わせたんだ。相崎の狙いというのが分からない。
「ちっ、俺は帰る。勝手にしていろ」
いらついた俺はそのままその場を立ち去ろうとした。しかし、それを止めるものが現れる。
相崎だった。
「待って、野田君」
「何だよ、相崎。もう俺はこいつと話をする必要を感じていない。こいつの態度にはかなり反吐が出る」
本人が目の前にいるというのに俺はいらついているためか大人に対する敬意というものをまったくもたない暴言を言い放つ。
「実は、話があるの」
「話? 俺を総裁にすることか? なら、答えは決まっている。いいえ、だ」
「そうなんだけどね。事情があるの。小沢さん。もう失敗です。野田君を怒らせたところで気持ちが変わらなかったので正攻法でいきましょう」
「……悪役を演じきった自信があったんだがな。まあ、いいや。野田君、失礼したね。君に失望されるような人間を演じていれば君がこの組織を心配してくれて後継の総裁になってくれるもんだと思っていたけどなかなかうまくいかないもんだね。君はもうこっちの世界には帰ってくる気がないということでいいのかね?」
「ええ、そうです。俺はもう右翼にはなりません。それとさっきまでの態度が演技だとは知らず失礼なことをしました」
「それはいいんだよ。で、だ。実際問題現在日本社会というのは右傾化が進んでいる。これは事実だ。特に若い世代において顕著だ。ただ、右翼と言っても彼らの思っている右翼とは昔とは大きく変わったもんだ。君は右翼が嫌だと言うがそもそも右翼って何だと思うか?」
「右翼ですか? 名前の由来はフランス革命の時に国民議会で右側に王政派の議員が多く座ったことが起源だったはずですが。それが転じて保守系のことを右翼というはずですが」
「そうだね。では、日本で言う保守って何だ?」
「保守といえば、アメリカとの同盟を重視し、自主憲法を制定するようなグループのことを言いますね」
「でもね。彼が言う保守って所詮明治以降のことなんだよ。私はね、江戸時代とかもっと古くまでの考えを巻き込むべきだと思うのにね。そもそも新元号だって日本の国書からというが、保守であれば今まで通り漢籍から採用すべきではないか。保守の言っていることは正直言って分からない。明治以降は近代国家になったから大事にすべきだがもっと古くの時代も大事にしろと言いたい」
「まあ、確かにそうですね。鎌倉とか室町って見向きもされませんし」
「だから、私はエセ保守が許せないんだ。日本の伝統をもっと重んじるような人こそが保守、右翼と名乗るべきだと思う」
「ええ」
小沢の迫力に俺は押され始めてきた。
しかし、言いたいことは確かにわかる。
「だから、野田君。君にこの組織をぜひ任せたい。できないか?」
「……少し考えてもいいですか?」
即答することはしなかった。
少し時間を取りたかった。
総裁になるつもりはなかった。しかし、すぐ断るという選択肢が俺の中でなぜだかなくなっていたのだ。
「わかった。後日聞くことにするよ。1週間は待つ。また来てくれ」
「はい。ありがとうございました」
俺はそのまま部屋を出たのだった。




