第37話 目撃者
「私に用事があったんじゃないの?」
満面の笑みで言われた。
俺が相崎を探していた。そのことがどうやらバレているらしい。どうしてだ。どうしてバレているんだ? いや、待てよ。これは巧妙な罠なのかもしれない。俺をはめるつもりだ。バレていない。ここは誤魔化すことにしよう。
「いや、そんなことないぞ」
「でも、さっき私のことを探している高校生がいるっておじさんが言っていたけど」
「いや、俺は街頭演説をやっていないか聞いただけであって……あ」
「ふふふ、引っかかったね。どうして街頭演説をやっているか聞きまわっていたの? 野田君そういうのには興味がないんじゃなかったんじゃないの?」
「あ、え、ええっと」
「あれぇー、何か変な汗かいてきているよ」
「むぅ。はい、わかりました。相崎を俺は探していました」
「開き直られるとは思ってもいなかったけど。で、どうして私のことを探していたの?」
「そ、それは……」
「どうしてそこで誤魔化すのかなあ、なあ。言ってよねえねえ」
「あ、相崎。顔が近い」
相崎がどんどんと俺に近づいていた。物理的にも。相崎にかなり接近されて攻められていた。俺が相崎を探していた理由。どうしてと言われてもよくよく考えてみると自分でもわからない。どうして相崎のことを探していたのだろうか。自分でもわかっていないのだ。不思議なことに。
「さあ、さあ」
「さあって言われても俺は答えないぞ」
嘘だ。
本当は自分でも答えが分からないだけだ。それを誤魔化しているだけだ。本当は分かっている。
でも、それを認めちゃダメな気がした。俺が相崎のことを気にした理由もなんとなくだがわかってきた。しかし、俺は美咲と付き合い始めた。俺の好きな人は美咲だ。しかし、相崎が俺の土足へと踏み入れてきた。いやでも意識してしまう。
つまり、そういうことだ。
ああ、相崎はかわいい。だから、俺は節操なく相崎のことも好きになってしまったんだ。だから、相崎のことを気にしてしまったんだ。だが、それを認めてはいけない。美咲には悪いからだ。
「さあさあ」
「いやだね。絶対に言わない。ただ、何で授業をさぼったのか気になっただけだ」
「へえ」
俺がそんなことを言うと、相崎は感心しているのかしていないのか分からないような声でへえと言った。
関心がなさそうな気がしたけどどうしてだろうか。
「授業をさぼったのが気になったから探してくれたってことでいいのね?」
「……まあ、そういうことになる」
「素直に言っているじゃん。いいわよ。どうして私が授業をさぼったのか理由を教えてあげるわ。ちょっと、付いてきて」
「ついて来いってどこへ行くんだ?」
「それは着いてからのお楽しみにして」
「そんなこと言っておかしなことはしないよな?」
「そんなことしないって。むしろそういうのって男の子のほうがしてくるんじゃないの。かわいい女の子相手に変なことしようって」
「なっ! そ、そんな意味で言ったんじゃないから!」
「わかってるよ。そんな全力で否定すると逆に怪しく感じてきちゃうよ」
相崎に完全にからかわれていた。
ものすごくムカつく。
むぅ。
だが、相崎は俺を一通りからかうとそのまま黙ってついてきてというかのように黙々と歩き始めたのだった。
相崎に連れられて俺はある場所へとたどり着いたのだった。




