第36話 捜索中
なぜか相崎のことが気になった。ズル休みをどうしてしたのか。気になる。
美咲は学校で委員会の仕事があるということで一緒に帰ることはしなかった。なので、好都合だ。
学校を出て俺がまず向かった先は町中にある雑居ビルであった。ここは野党友民党の支部が置かれているビルであった。あの右翼女ならここにいるだろうと思ったが空振りに終わった。
「ここにはいないか」
その後、共産主義同盟の支部がある建物に行った。しかし、そこにもいなかった。右翼の女が敵対する左翼政党の支部はこの街には2つしかない。この2つの場所にいないとなると政治からみではないのではないか。そんな風に思えてきた。いや、逆に右翼団体の何かがあるのかもしれない。
俺は町の人に聞きまわってみることにした。
「すみません、今日って何か政治団体の街頭演説などってありますか?」
「うーん、知らないねえ」
近所のおばさんに聞いてみたがしらないといわれてしまった。
「すみません」
「ごめん、力になれないね」
スーパーから出てきた主婦に聞いてもわからなかった。
「すみません」
「ごめん、わからんぞい」
おじいさんにも聞いてみたが、分からなかった。政治ではないのか。と、なると一体何であるのだろうか。俺にはわからない。
普通に考えてみれば俺は相崎のことをほとんど知らない。あいつが右翼だからという理由で探し回った場所はすべて政治と何らかの関係がありそうなものであった。しかし、そうではないとすると一体どこにいるのか。俺にはわからない。相崎の趣味とか知らないからだ。相崎から政治を取ったら何が残るのか。俺には何にも分からない。
「一体、どこにあいつはいるんだ」
困惑する。
何で分からないんだ。
いや、そもそもどうして俺はあいつのことを探しているんだ。俺はあいつのことが嫌いだ。相崎なんか相手にしたくはない。むしろ避けようとしていた相手だ。しかし、どうして俺は気になって今相崎を探しているのだろうか。自分でもどうしてこのようなことをしているのか全く分からない。自分の事なのに自分が分からない。
「ああああああああああああああああ」
町の真ん中だというのに俺は叫んでしまった。頭を抱え込んでその場にうずくまる。ああ、変人だと思われているのだろうな。まあ、この姿を見られたら否定をすることなんてできない。
近くにいた子供に「ママ、あれ何―」「見てはいけませんよー」という漫画でよくあるようなパターンをされていた。明日、学校に行ったら何か言われそうな気がする。うぅ。しかし、自分でも何がしたいのか本当にわからなくなっていた。どうすればいいのだろうか。
わからんぞ。
わからん。
「ねえ。野田君。何をしているの?」
声をかけられた。
上を向く。
そこには俺が探していた人物、相崎がいたのだった。
「あ、相崎?」
「野田君、めっちゃ目立っているよ。そんなことするようなタイプには見えなかったけどどうかしちゃったの? 何かいいことでもあった?」
いいことなんかない。
俺は不機嫌そうな顔をする。
「いいことではなかったのね。じゃあ、どうして叫んでいたの?」
「……ちなみにどこから見ていた?」
「……最初から」
「……誤魔化してほしかった」
「ごめん」
変な空気が俺と相崎の2人の間で起きた。しかし、俺はそんなことよりも恥ずかしいところを見られてしまったという羞恥心がかなり大きくてそれどころではなかった。信三はバクバクしていた。恥ずかしすぎて。そして、俺がずっと探していた相手が真坂向こうから来るとは思ってもいなかったのでそれに関しても俺がずっと探していたことがかなり無駄になってしまったというショックも大きくて何とも言えない心情にあった。ああ、どうしようか。
「で、野田君」
「ん?」
「私に何か用があったんじゃないのかな?」
相崎はすべてを知っているかのようにものすごい満面の笑みで俺に言ってきた。
……俺が相崎を探していたことはどうやらバレているようだった。




