第31話 論議中
「なんで、こうなった」
俺はため息をついていた。
どうしてこうなった。
本当にそう思う。
全部、相崎がいけない。相崎がいけないんだ。
相崎がかまをかけるのがいけない。
相崎が俺に対してチラチラと白いパンツを見せてきていた。俺はそれに気づいてあえて無視をしていた。しかし、相崎が黒いパンツと言ったのに対してついそんなエロくないだろうと言ってしまった。
正直に言ってしまった。
ああ、あれが失敗だ。
だから、こんなことになっている。
現在、俺は相崎に強要をされ福島さんへの嫌がらせ? の手伝いをさせられているらしい。らしいというのは俺も全容がわかっていないからだ。
相崎がさっきから何かを紙に書いている。俺はそれを横で見ているだけだ。新聞らしいものを書いているのだけは見えているがいかんせん字が細かくて分からない。
これは一体何をしているのだろうか。
俺は、恐る恐る聞いてみた。
「相崎、これは一体?」
俺の質問に対して相崎は笑顔で答えた。
「新聞」
どうやら相崎が書いているものは新聞であっているようだった。でも、なぜ唐突に新聞を書き始めたのだろうか。疑問に思った。
「新聞、ってまあ見ればわかるけど。これのどこが福島さんへの当てつけみたいなことになるんだ?」
「それは、ここに福島さんの悪い噂を書いているの」
「陰湿だなっ!」
思わず相崎のその言葉に対して俺は突っ込んでいた。反射的に言っていった。
しかし、相崎にはこんな比興な手を使ってほしくないな。女子って怖い。
「でも、そんな手を使うのはさすがにひどいと思わないかい? いじめみたいで嫌なんだが」
「うーん、でも女子って本来もっと陰湿だよ。まだ、まともな方だと私は思っているんだけど」
「その認識を持っているって、女子ってすごいな……じゃなくて、それでもやめたほうがいい。それにバレた時には大変だぞ。だから、一回落ち着こうな」
俺の言葉に対して相崎は何か考えるような仕草をした。
「……わかったよ」
「えっ」
俺の言葉を素直に受け入れた相崎にかなり驚いてしまった。俺の言うことを絶対に聞かないと思っていたからだ。こんないとも簡単に言うことを聞くなんて想像もしていなかった。
「かなりおとなしいじゃないか。何か変なもんでも食ったのか」
驚いて俺は相崎にこんなことを言ってしまった。
すると、相崎は顔を赤めて怒った。
「私だって普通の女子なの。好きな人に嫌われるようなことはしたくないの!」
「」
その言葉を聞いてつい俺も動揺してしまう。
こいつは右翼だ。危険な思想を持っている。しかし、顔はかなりかわいい。普通に美少女と言ってもいいような女子なのだ。
そんな女子から好意を持たれていることを真正面から堂々と言われてしまえばドキっとするのは当然のことだ。
まあ、右翼だから俺は断っているんだけど。こいつが右翼を諦めてくれれば付き合うような展開もあったのかもしれないが。もう一度大事なことだから言うが、相崎は右翼だ。だから、絶対に付き合わない。関わらないようにするのはもう無理だと思うからせめて無駄な悪あがきとして絶対にこいつとは付き合わない。
それだけは決めた。
「だったら右翼活動を辞めてくれれば考えあげてもいい」
「うーん。それはちょっと無理かな。私にだって右翼として活動しているのにはそれなりの理由があるんだから」
「理由?」
「野田君の昔の活動を見ていたから」
「そ、それは……」
「冗談よ。まあ、それも理由の1つになるのかもしれないけどもっと私にとっては大事な理由があるの。だから、この活動を辞めることはできない。それにね」
「それに?」
「日本国憲法第19条」
「……思想・良心の自由、だっけ?」
「その通り。だから、私はこの思想を持っていることは別に咎められることではないわ」
「……右翼の人が憲法規範を根拠にするってものすごい矛盾を感じるんだが」
憲法改正を唱えるのが右翼であり、今の日本国憲法はアメリカによって作られたものだから自主憲法を作らなくてはいけないと主張しているのが右翼だと思っていた。それなのに、相崎は憲法を盾に自己主張していて不自然に思っていないのか。
「まあ、憲法改正については9条とかは納得していないけど私は他の人とは違って第3章の部分についてはおおよそ納得しているのよ。だから、憲法の第3章の条文だけは盾をしているの」
「ご都合主義なもので」
「何とでも言いなさない」
俺と相崎の謎の憲法論議は終わった。
「でも、俺は協力しないぞ。人の悪いうわさを流したりするのは。だから、俺はもう帰る」
「……ねえ、野田君」
「何?」
「あなたは今の生活に満足していますか?」
ドキッ。
俺は相崎のその言葉が妙に胸に刺さった。しかし、動揺を見せないように返答する。
「それは一体どういう意味だ?」
「……そう。わかった。あなたがそう言うのであれば私はもう何も言わないわ」
「何が言いたい?」
「それはあなた自身が気づいているのではなくて?」
「……」
俺はそのまま無言で教室へと戻って行った。
俺が階段を降り切るとちょうど昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ったのだった。
……そういえば、俺昼飯食べていなかったわ。
最後はどうでもいいことを思い出してしまったのだった。




