第26話 転校生2
翌日。
学校に普段通り通った。
ただ、今日はどうしてか分からないが、普段よりも早めに学校についてしまった。まあ、早くついても特にすることはないから教室でダラダラとしているか。俺はそう思い、一番乗りに教室に入って行くつもりで向かった。
しかし、教室には残念ながら先客がいた。
相崎だった。
「あ、相崎……」
「おはっよ。野田君」
相崎は俺を見るなり笑顔で挨拶してきた。
うっ。
その笑顔反則だろ。
つい、惚れてしまいそうになる。だが、あいつは右翼だ。
惚れるわけにはいかない。
「えー、何か返事してくれないのー。あなただって元右翼なんだから同類でしょ」
「いや、違うっ」
「はいはい。でも、絶対に認めさせるから」
相崎は別のアプローチを仕掛けてきたということか。
俺を右翼に引き寄せようとしている。それだけがわかった。
「おはよう」
「おはよう」
考え事をしようと机に座ろうとしたら次々とクラスメイトが教室に入ってきた。相崎と会話をしていたら知らないうちにみんなの登校時間になっていたみたいだ。時計をしっかり見ていなかったので全然気づかなかった。不思議な気分だ。
「おはよう」
俺も挨拶をする。
俺が、みんなに挨拶をする頃になると知らないうちに相崎は教室からいなくなっていた。はて、どこに行ったんだか。
相崎が教室に帰ってきたのは朝のHRの始まる5分前の予鈴の時だった。
それから、5分。今日はうちのクラスの休みは1人もいなかった。
先生が入ってきてそのことを確認すると満足そうだった。
が、実はこの時点でみんな気になっていたことがあった。
「では、朝のHRを始める前に転校生の紹介だ。喜べ。2人目だぞ」
先生が転校生の紹介をすると言った。
みんなが気になっていたこと。今日、うちのクラスの欠席はいなかったはずなのに教室には誰も座っていない席が1つあった。
昨日まではそこに机といすが置いてなかった席。
何となく、転校生なのかとみんなで朝ワイワイ話していたが本当だったようだ。
「でも、また転校生が来るの?」
美咲が俺に声をかけてきた。
「確かに最近、相崎が転校してきたばかりなのにまたこのクラスに転校生ってちょっと不自然だよね」
「これは、ラノベ的展開なのです」
俺と美咲の会話に俺の前の席の田中優斗が入り込んできた。
こいつの発言からわかるようにガチのオタクだ。
「おいおい、何だよ。野田、その眼は」
俺が、田中を冷たい視線で見ていたことがばれてしまったみたいだ。
でも、こいつのこの言動をどうにかする方が先だと思うんだが。
「別にぃ」
俺は、棒読みで言う。
「まあまあ、田中君。それでラノベって……今話題のライトノベルっていう軽小説のことだっけ?」
「ああ、ライトノベル略してラノベ。今ホットなもんだぜ。漫画みたいに絵があるけどきちんと小説であるから本に慣れていない人がいたらおすすめだ。で、ラノベ的っていうのは、学園もののラノベだと基本的に主人公のクラスにどんどんと美少女転校生がやってきて主人公に因縁をつけるんだけどそのヒロインはいつの間にか主人公のことが好きになっていくっていう話なんだ」
「へー、そんな話があるんだな」
……何となく、俺は今思ってしまったことがある。あれ? この状況。相崎から好意を抱かれている。相崎は転校生だ。今の感じだと田中が言ったラノベの展開とよく似ている。
まあ、偶然だと思う。……きっと偶然だな、偶然。
あまり気にすることはないと俺は判断した。
それに、このクラスには俺なんかよりもよほどそのような小説の主人公にふさわしい人物がいる。
「しっかし、誰だよ、うちのクラスの主人公。野田、俺はあいつだと思う」
田中がそう言って指さしたのは、クラス委員長にしてサッカー部キャプテンの渡辺将だ。
俺が思っていた主人公っぽい人物とはこいつのことだ。
「ああ、確かにあいつっぽいわあ」
渡辺は、クラス委員長だということもあり仕事は何でもできる。クラスの仕事を自分から好き好んでやってくれる聖人のような人だ。そして、サッカー部のキャプテンでもあることからスポーツ万能。顔もよし。なぜ、神はこんな完璧超人を生んでしまったのだろうか。このクラスの他の男子(俺も含め)は正直こいつを引き立てるだけのわき役的存在でしかないと俺は思う。
そういう意味では先ほどの田中が言ったラノベ的展開やらの理由というのは分かった気がする。
「はいはい、静かに! では、転校生の子を中に入れるぞ」
先生は、そう言って教室の中に転校生を招待した。
そういえば、転校生の性別について先生は一言も言っていなかったな。俺は、そんなことを一瞬考えた。
しかし、すぐに転校生は入ってきたのでそんなことを考える必要など全くと言ってもいいほどなかった。
転校生が教室に入る。
俺ら、クラスメイトは黙る。
緊張する。
そのクラスメイトの第一声に。
「皆さん、あたしは福島美穂です。どうぞこれからよろしくお願いします」
普通の自己紹介だった。
そうだ。これこそが本来の自己紹介として相応しい。俺はそう思い、感動した。しかし、二言目はどぎっとさせられた。
「あたいは、平和主義者です。けんかや暴力のないクラスだとうれしいのですが、皆さん。仲良くしてください。ただ……」
ただ?
福島さんはそこで言葉を一回止めた。
その目線の先には相崎がいたような気がする。どういうことだろうか?
「右翼の人はお断りです」
その言葉から、クラスメイトは危険なにおいを感じ取ったのだった。




