第24話 目的地
「どこに連れて行くのかいい加減に教えてくれよ」
「だめです。まだ、教えません」
「いや、教えろよ」
「だめでーす」
そのような会話が幾度となく続いた。
そして、こんな下らないような会話がずっと続いていたため、俺は時間間隔というものを完全に失っていたらしく、知らないうちに目的地についていたみたいだ。
「ここね」
相崎にここと言われて差された場所は、空き地だった。
何もない。
あるのは某国民的アニメみたいな土管だけだった。
ここは……いや、俺はここを知っている。というよりも嫌というほど知っている。
やはり、相崎が俺をここに連れてきた理由はそうだったのか。
「で、俺をここにどうして連れてきた」
俺は声のトーンを低くして怒りをあらわにする。
「ここは、昔あなたが右翼団体もどきを作った場所よ。あなたはここでネット配信していたわね。いわゆるヨーチューバーってものをしていた場所だね」
ああ、そうだ。この空き地は俺が中学の時、ガッチガチの右翼いや、ネトウヨとでも言った方がいいのかエセ右翼活動を世界でもかなり大手の動画サイトようつべに配信していた際にいつも使っていた場所だ。ここで、俺はいつも自分の主張をまるで選挙に出る政治家のようにしていた。
朝立ちという政治家が朝に駅前とかで自分の主張を道行く人たち不特定多数に向かって話し続ける手法に憧れてやってみたいと思い中二だったこともありよくやっていた。
今、思い出してみるとかなり恥ずかしい。
何で、あんな大勢の前で堂々と痛々しいことをすることができていたのだろうか。空き地と言えど、人通りがある程度ある場所に立地している。そんな場所で毎日のように痛々しい演説をしていたとなると誰かに絶対に見られている。
その誰かがもしかしてだけど……
「私、野田君が中学時代にここで偶然演説をしているのを見たことがあるの。その時、あなたに憧れてね。だから、ずっと野田君と話をしてみたいと思っていたの」
やはり、相崎は俺がやっていたこの行為について覚えがあったようだ。
見られていた。
ああ、見られていた。
過去の黒歴史だ。
思い出すだけでもとても恥ずかしい。
今すぐ、穴があったら入りたい気分である。マジで。
「見られていたのか……でも、それは過去の話だ。今の俺とはまったく関係ない。だから、俺はお前の考えには乗らないぞ」
「私はまだ何も言ってないけど。ただ、ここに連れてきただけだけどね」
「じゃあ、用は終わったな。帰る」
「待って」
相崎は、俺が帰ろうとしたら腕を思いっきりつかんで俺が帰るのを妨げようとしてきた。
「何だよ」
俺は、若干不機嫌そうに声を低くして相崎に返事をする。
「まだ、用は終わってないの」
「終わってない? 連れてきただけだと言ってなかったか?」
「それは、まだ私が用件を言ってなかっただけだけど……」
ごくり。
俺はつばを飲み込んだ。用件がある。その言葉を聞いて一気に俺の中での警戒感が高まった。相崎からの用件、これほど恐ろしいものはない。
さあ、何を俺に要求するつもりだ。
要求って、脅されること前提で俺の思考は動いていた。
「で、用件って何?」
俺は尋ねる。
「用件って言うほどのものでもないんだけどね。実は、私はある団体を作っているの。ぜひ、野田君には入ってほしくて。ダメかな?」
「断る」
相崎の話が終わると同時に俺は全力で叫んでいた。
断るに決まっている。
関わってはいけない。
俺の頭の中では、警告音が勝手に流れていた。本能的にこの誘いは断れと言っているのだろう。だから、本能に従って俺は拒否、断った。
俺が全力で断ったのを相崎はどう思ったのか。
そう思って相崎の顔を見ると、なぜか苦笑していた。
なぜ、苦笑?
「何で笑っているんだ?」
「いや、全力で拒否していることが面白くてね。なかなか私警戒されているみたいだね」
どうやら俺が相崎に対して感じている思いというのを本人は気づいていたようだ。あんまり気づいていないものだと思っていたので意外であった。
「……気づいていたのか」
「まあ、ね。私だって右翼的な発言はしているけどちゃんとした一人の女子高生(JK)だよ。女子高生らしいことも思ったりしているし、人間関係にも気を使っているの。だから、右翼だからといって警戒する人もきちんと見ればわかるよ。特に、野田君は自分の過去が今の私と同じだから、警戒するだろうってことは想像しやすかったし」
「はぁ~。全部バレていたのか」
「そうだよ。だから、おとなしく私がやっている団体に入りなさい。あれだよ。鷹の〇団みたいなもんだから」
いや、何で具体的な名前が出てくるんだよ。〇の爪団とか具体的すぎるぞ。
「で、団体に入ってと言われても具体的に何をするのか教えられていないから何とも判断できないんだけど」
その言葉を言った後に気づいた。ああ、これ完全に俺は、団体に入る流れじゃないか。
言った後にやばいと思ってしまった。
これじゃあ、興味をもってしまっていると言っているのと変わらない。まずい。断る雰囲気がどんどんとなくなっていってしまう。
俺の言葉に相崎の目が急にきらきらと輝いた。
待っていました! そういうような目をしていた。
「私は、別に変な団体をしているわけじゃないよ。政治に興味を持つ人たちで集まる団体をしているだけ。そうだ、高校にクラブ作ろうよ! 外だと野田君警戒するから学校なら入ってくれるでしょ」
学校ならセーフだと本当に思っているのだろうか。俺は、うーんと思う。
「いや、いいです」
惑わされちゃだめだ。
俺は、断る。
相崎は、残念そうな表情をしていた。
「わかったよ。今日のところはあきらめる」
どうやらこのような会話がしばらく続くらしい。
俺は、相崎の誘いをずっと断り続けることができるのだろうか。……何となく無理そうな気がしたが、とりあえず、今日はもう用が終わりということでこのあとたわいもない話を相崎がしてきたので付き合い家に帰ったのだった。
たわいのない話だけをしてくるのだったら本当によかったのにと思ったのは、俺だけの秘密である。




