第21話 煩悩中
俺は、相崎と別れた後やりすぎたと感じつつ、もうこの日は何もしたくはない気分であったので普通に家に帰った。家に帰っても誰もいない。母は大手企業の女社長を務めている。そして、父は前にも説明したとおり国会議員だ。普段は議員会館の方に住んでいるのでこの家に帰ってくるのは週末ぐらいだ。朝と夜はお手伝いで30歳の女性でめっちゃきれいな村田さんが来てくれるが昼間は自分の家に帰ってしまう。なので、俺は広い家に1人ぽつんといる状態だ。
「何もする気がない……」
俺は玄関からまっすぐに歩き2階へと続く階段を上る。階段を上ってすぐ右手に俺の部屋がある。俺は部屋の中に入り、荷物を床に適当に投げつけるとベッドにそのままダイブする。
もう眠い。何も考えたくない。
俺は、そう思い暖かくもふもふした布団に誘惑され寝てしまった。
◇◇◇
翌日。
俺は目が覚めると目の前にあった目覚まし時計の時刻は7時30分を指していた。昨日帰って昼寝の気分で寝たはずが知らないうちに朝になっていたようだ。ここまで怠惰的な生活は初めてしてしまった。まさか昼寝して目が覚めたら朝になるなんて誰も考えはつかないだろう。俺も実際にそうだった。さて、今日は火曜日ということだ。昨日は学校をさぼってしまった。今日はいかないといけない。しかし、体が不思議とだるい。昨日は原田との件がめんどくさくて学校に行けなかったのだが、今日は相崎との件がめんどくさくて学校に行く気がしない。しかし、昨日は学校をさぼってしまったのでさすがに今日はいかないといけない。どうしたものか。
「雄一郎君、朝ですよ~」
村田さんが俺を呼ぶ声がした。俺はとりあえず朝ご飯でも食べることにして1階に下りた。
「いただきます」
「はい、どうぞ」
朝ご飯を食べ始める。そこで村田さんは俺に尋ねてきた。
「昨日学校に連絡なしで休んだと学校から連絡が来ましたが、どうしたのですか?」
「あ、ああ、ううん」
昨日さぼったことについて学校から家に連絡が来たようだ。そのことを村田さんに追及される。まさかクラスの女子と学校さぼって遊園地に行ってましたとは口が裂けても言えない。
適当に誤魔化しておかなければ。もしもこのことが両親とりわけ母さんに気づかれたら最悪だ。俺はどんだけ怒られるかわからない。いや、最終的には東京に引っ越しだとか言われそうだ。それだけは嫌だ。俺がこっちに残っているのにもきちんとした理由がある。だから、何とかして村田さんに誤魔化そう。
「学校に途中まで向かったんだけど調子が悪くなってしまって連絡もできずに寝込んでしまったんだ。だから、学校には無断欠席になってしまった」
嘘はついていない。学校に途中まで言ったのも事実だし、家に帰って寝込んだのも事実だ。嘘は言っていない。学校から家まで帰るのにかなりの時間がかかっているが、この話の中に一応すべての話が入っている。うん、我ながら完璧だ。
完璧なのだが…村田さんをだますことには少し抵抗感がある。この人は俺のためにいつも頑張ってくれているからな。そんないい人を騙すなんて。俺は絶対に将来は地獄に送られるだろうな。
ははは。
心の中で乾いた笑いを俺はしていた。
「そうですか。今日は学校に行けますか? 体調はどうですか?」
「あ、ああ、う、ううん」
俺は学校に行きたくないというのが本音なので曖昧な返事をする。というよりも返事にすらなっていなかった。俺の表情から村田さんは何かを察したのだろう。俺に対して優しく言ってくれた。
「体調がまだよくなさそうだから、学校に私から休むと連絡をしておくよ」
村田さんはそのまま部屋を出ていき玄関の手前に設置されている固定電話の受話器を持つと学校に連絡をした。俺は本当に悪いと思ったが、今の気持ちが穏やかではない状態では村田さんにしっかりと俺の気持ちを伝えることができなさそうな気がしたので何も言わずに俺の部屋へと戻った。
結局、今日も学校をさぼる結果となってしまった。原口の告白を手伝う話は昨日だったはずだ。原口はきっと俺に対して怒っているだろうな。俺は原口の顔を思い浮かべると学校にますます行くことができなくなってしまった。そして、相崎のことを考えると……。
相崎のことなんてどうでもいい。あんな奴に関わりたくはない。俺はそう思っていた。しかし、何でだ。何で俺はあいつのことを自然と考えてしまったんだ。あいつは右翼。俺はもう右翼には関わらない。そう決めたんだ。あいつは危険危険。あれに関わってはいけない。でも、俺は首を振って考えないようにしても自然と相崎のことを考えてしまう。俺は断じて認めない。あいつのことを考えているなんて。これは、あいつが俺に変なことをずっとしてきた悪影響なんだ。それに最後に俺が一応悪いことをしてしまったし、うん。謝らないといけない。そうだ。謝らないといけないことにもやもやしているからあいつのことを考えてしまっているんだ。そうに決まっている。俺は自分の心に嘘をついていることぐらい知っていた。
でも、そうしないと落ち着かない。何か理由付けをしなくてはいけなかった。
相崎に惚れている。そのことを認めないために。俺は美咲が好きだ。うん。美咲に告白をするんだ。何としても相崎に俺の心が完全に行く前に何か対応をしなくては。恋なんてしてない。あいつのことなんて。
「あああああああああああああああああああああああああああああ」
俺は煩悩を取り払おうとするも払えない。
考えない。何も考えない。考えないぞ。
しかし、このあと俺は布団の中で結局考えないなんてことはできなかった。あいつのことを考えてしまっていた。
これじゃあ、本当に学校に行けないぞ。かなり焦っていたのだった。




