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第20話 遊園地

 時刻は10時。場所は高校から電車で5駅隣にある有名遊園地の中。

 俺は、改めて記憶をよみがえらせる。

 学校の校門の前で相崎に会うことが嫌で、そして原口に何もいいアドバイスができそうになくて怖気ついた俺は足が止まっていた。そんなところへもっとも会いたくはない人物である相崎が俺に絡んできた。俺は、もう話したくもなかったので仮病を使って家に帰ることにした。しかし、相崎は俺を返してくれることなく一緒にデートしましょうといきなり言ってきた。

 そして、今に戻る。

 俺はどうして相崎とデートをしているのだろうか。なぜだろうか。わからない。わからないぞ。本当に分からない。

 俺は困惑したまま歩いていた。もちろん隣には相崎がいる。


 「野田君、どうかしたの?」


 相崎が俺のことを心配そうにする。しかし、心配するぐらいであったら俺を遊園地に連れてくるんじゃない。俺は思わずそんなことを言いたくなってしまう。ってか、言いたい。


 「いや、別に……」


 しかし、心の内では言おうと思っていたものだが、実際に口に出して相崎に文句を言うことはできなかった。自分でもどうして言えなかったのか不思議だ。もっと厳しく当たるつもりであったのに。どうしてだろうか。


 「ところで、野田君」


 「何?」


 俺は、相崎に呼びかけられたので不機嫌そうに答える。


 「どこから回る?」


 「はぁ?」


 俺は相崎の言っている意味が分からなかった。


 「だから、どの乗物から回るって言ってるの」


 乗り物って……そうか、そういえば俺達は今遊園地にいた。しかし、俺が機嫌が悪いというのによくもまあ遊園地で遊ぼうと提案できるものだなあ。俺はそのKYぶりを逆に感動してしまう。いや、もう感動している。このKYどうにかならないのだろうか。


 「ほらほら、行くよ」


 「ちょっと、俺は遊ぶ気なんかないぞ」


 俺は抵抗しようとするが、相崎は俺のことをお構いなしで近くのジェットコースターに連れ込む。俺の意志をしっかりと考えてほしい。こういうことをするから俺はお前のことをどんどんと嫌いになっていくんだぞと思わず言ってしまいたい。

 そして、お前のことがもっと嫌いになる理由がある。それは──


 「うわああああああああああああああああああああああああ、俺はジェットコースターがだめなんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」


 俺は、ジェットコースターの中で叫んでいた。ジェットコースターが落下する瞬間にこの世の終わりかと思った。そもそも、絶叫系が苦手なんだ。そんな奴に無理やり乗らせるとかどんないやがらせなんだ。俺はもっともっと相崎のことが嫌いになっていく。


 「うわああああああああああああああああああああああああああ」


 そうしている間もジェットコースターはレールの上を上へ下へ右へ左へ高速で動く。そのあまりに早い動きに俺は気持ち悪くなり吐きそうになる。というか、心臓に悪い。下に落ちる時の心臓がまだ上に残っているあの感じが嫌だから俺はジェットコースターが苦手なのだ。無理無理。絶対に無理。

 だから、


 「早く終わってくれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ」


 俺の絶叫だけが無駄に響き渡っていた。


 ◇◇◇


 「いやあ、楽しかったね」


 ジェットコースターが無事に終わった。終わった後に相崎は俺にそんなことを言ってきた。楽しかった? よくもそんなことが言えるな。隣で俺がどんだけ苦しんでいたのかわかっただろう。相崎本人は「きゃあー」とか言って楽しんでいたのは横から見えた。お前が楽しんでいるのはどうでもいいんだよ。俺が苦しんでいるのに楽しかったとい言えるその性根が分からない。マジで。


 「どこが楽しかったんだっ!」


 俺はもう我慢ができなかった。うざい。うざい。マジで信じられない。

 キレた。


 「野田君?」


 「俺は絶叫系が苦手なんだ! そんな奴に無理やり乗せてそんなに楽しいのか! 人が苦手なものを無理やりさせて面白いのか! 俺を馬鹿にしているのか! しっかり人の話を聞け! いい加減にしろよ!」


 怒りのあまり今まで相崎と出会ってから口には出していなかった不満を一気にさらけ出した。


 「右翼と俺は関わりたくはないんだ。俺は昔やらかした。だが、その時に気づいたんだ。俺が右の思想を持って周りを感化させたことで一番家族に迷惑をかけてしまった。現職の、しかも国務大臣を務めていた親父に迷惑をかけた。政治家の息子という自覚ができていなかった。でも、今は成長した。だからもう俺はあんな運動には思想には関わりたくはないんだ! お前と一緒にいるとまた右翼だからといって周りに迷惑をかけてしまう。俺のことはもう無視してくれ。関わらないでくれ!」


 俺は全部ぶちまける。怒りのあまり。

 相崎は俺の言葉を聞いてしばらく黙っていた。

 俺は、相崎が泣きそうになっていることに気づいた。少し言い過ぎたのか。

 俺は、言葉を発しようとする。言い過ぎた。ごめんと。

 しかし、それよりも先に相崎が言葉を口にする。


 「ごめんね。野田君。私のわがままに付き合ってもらっちゃって。迷惑だったよね。もう、野田君に迷惑なことはしないから。じゃあ」


 「あっ、ちょっと、待っ」


 待ってと言う前に相崎は走っていってしまった。帰ったのだ。だが、完全に俺に背を向ける時に泣いていた。俺は女子を泣かせてしまったのか。相崎が危険な思想を持ち俺にとってとても迷惑な存在であることに変わりがないが、それと同時に女子であることも事実。

 俺は、やっぱり後で謝った方がいいような。

 ブチギレた結果、せいせいすると思ったが、残ったのは心苦しさだけであった。俺はこれ以上遊園地にいても仕方がないので自分の家を目指して帰ることにした。やっぱり今日は学校をさぼることに変わりはない。

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