第18話 助言中
久しぶりの更新になります。
映画が終わった。
映画のラストのエンディングクレジットが全部流れ終えると俺は何とも言えない気持ちになっていた。映画がつまらなかった? 違う、そんなんじゃない。映画の内容に素晴らしく感動していた。創作物で感動したのはいつ以来だろう。ここまで、悲しい恋はない。悲恋というのはどうしてこんなにも人を魅了するのだろうか。
「雄一郎、泣いてるの?」
「泣いてないし」
どうやら俺は自分で知らないうちに映画の内容に感動して泣いていたようだ。美咲に指摘されなければ絶対に気づくことはなかった。
「えぇ~、そうかなぁ。今完全に雄一郎の眼もとに涙の粒があった気がするんだけど」
「だから。それは気のせいだ」
「へぇー」
美咲は俺の言葉を完全に嘘だと思っている。まあ、嘘なんだけど。さっき、目元をこすったら普通に涙の粒が手についていたし。ただ、これ以上この話を続けると美咲にさらにいじられるのでやめておくことにする。
「いいから、帰るぞ」
俺は、もう帰ろうと言い、てくてくと足を動かし帰り始める。
「はいはい」
美咲は笑いながら俺の後ろから歩いてくる。
何だか、子供の様にあやされているようで嫌だなあ。もっと威厳というものを見せつけたい。美咲が幼馴染であるから子どもの頃からずっと一緒にいた。美咲は俺のことを今も子供の様に見ているのだろうか。俺達はもう高校生なのに。
一体、美咲は俺のことをどう思っているの……って、いったい俺は何を考えているんだ。俺はどうして美咲のことを気にするんだ。そもそも、どうして俺は美咲からの目を気にしているんだ。幼馴染だからか。って、もうこんなことを考えれば考えるほどはまってしまう。
「ん? 雄一郎いきなり止まってどうしたの?」
俺は美咲のことばっかり考えていたら知らないうちに歩くのをやめて止まっていたようだ。
「あ、え、そ」
俺は自分が知らないうちに止まっていたことにかなり動揺してしまい何かを話そうとしても言葉が出てこないでパクパク口を開いたり、五十音が適当に一文字だけ出ているような状況になっていた。美咲も俺がかなり動揺しているというか、変だということに気づいただろう。
「雄一郎、口をパクパクさせてどうしたの? いつから池にでもいる鯉になったの?」
池にいる鯉。たとえとしてはとても分かりやすい。美咲からしたら今の俺はそんな鯉に見えるのだろう。鏡があるのならば自分の今の姿をしっかりと確認しておきたい。
「な、にゃんでもないっ……あっ」
「ぷ、ははっははははははは、にゃんでもないって、にゃんでもないはないわ」
俺が美咲に対して何でもないと言おうと思ったらまだ動揺が収まっていなかったのか、思いっきり噛んでしまい、"な"が"にゃ"になってしまった。そして、俺が噛んだことで美咲が笑うのを堪えることができなくて人目を気にせずに大きな声で笑い出した。
近くにいる親子ずれの子どもが美咲を指して「お母さん、何あれー」って言っているのを「ダメですよ。見ては」とか言って子どもにとって害のあるもの扱いをしている様だ。
「ちょ、ちょっと美咲!? 周りから変な目で見られているから笑うのやめてよ」
俺はあわてて美咲が笑うを辞めさせようとする。しかし、美咲は笑うことを辞めることができない。
「だ、だって"な"が"にゃ"になるってどんだけテンプレな噛みなの。これを笑わなくて何で笑えばいいのよぷふふふ」
美咲は笑い続ける。
俺は、今すぐにでもこの場から離れたかった。
周りを歩く人が多い。俺達が会話をしていたとおりはこのあたりでも活気がある場所だからだ。さっきの映画館もあったしそれがその証拠だ。だから、こんな場所で笑ったら本当に目立つんだよ。美咲、我慢してくれよ。絶対明日あたりクラスメイトの誰かがこのあたりにいるはずだから学校で噂になっているはずだ。
俺は変な噂など立てられたくないんだぁ~!
「美咲、辞めてくれよ~」
俺が嘆き、美咲は笑う。そんな変な構図がしばらく続いていたのだった。
◇◇◇
「落ち着いた?」
「はい。落ち着きました」
それから10分後。散々笑い続けた美咲はようやく落ち着きを取り戻した。美咲はここになってようやく自分が周りの通行人から注目されていたことに気づき顔を真っ赤にしてしょぼんとしていた。羞恥心で顔から熱が出ていると勘違いするぐらい真っ赤だった。
「とりあえず、ここから離れた場所に移動するか」
これ以上この場所にいても美咲にとっては居心地が悪いに違いない。俺は、美咲にここから離れることを提案する。
まっすぐ帰ろうかと思っていたが、ちょっと寄り道したい気分になった。だから、俺はなるべき遠回りしながら家へと向かった。
「美咲さあ。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい」
俺は歩きながら隣を歩いている美咲に尋ねた。
「なに?」
「ちょっと、相談というかアドバイスというか」
「何? 悩みでもあるの雄一郎?」
「まあ、俺の悩みっていうわけでもない……いや、ある意味俺の悩みなのかもしれないけどさ、ちょっとねあって」
「で、何なの?」
「実はさあ。誰とは言わないけどとある子に恋している人がいるんだけどさあ。どうやれば告白を成功させられるかね?」
「えっ!? 雄一郎、相崎さんのことが好きなの!?」
「いや、俺だとは言っていないだろ!」
「でも、こういう時に匿名にするってことは本人の可能性が大きい気がするんだけど違わない?」
「だから、ちげえよ。まったく、本人には言うなよ。原口だ。原口に告白の協力をお願いされたんだ。俺が今日本屋にいたのもそういった本がないか探していたんだ」
「へぇ~。あの原口君がねぇ。原口君ってまあまあ格好いいと私的には思うんだけど。彼女いなかったんだね」
「確かに俺もそこは驚いた。そして、惚れた相手が相崎だってことにはさらに驚いた」
「何それ~」
「で、女子である美咲から直接女子ならどんな言葉で告白されるのがいいのかとか聞きたいと思ってね」
「……そうねぇ。どんな言葉と言われても人によってみんな感性は違うからね。私が好きなシチュエーションが相崎さんにとっては嫌いかもしれないし、特に相崎さん本当に変わった人だから」
変わった人ねえ。
美咲からしたら相崎香奈という女子はそういう評価をされているようだ。
「そうか、じゃあ、美咲だったらどんな感じに告白されたい?」
「へっ!? あ、うん。そうね、私だったら……」
その後、美咲がものすごく顔を真っ赤にしながらいろいろとぼそぼそと小さな声で言ったりなんか急に叫んだり、怒ったり感情の起伏が激しく俺に対して話してくれた。
その反応が俺にとっては面白かった。
寄り道をしながら歩いていたが、普通に美咲の家にたどり着いてしまったのでこの日はそのまま別れた。美咲からはさほど参考になる情報をというものを手に入れられた気はしないが、明日俺は原口に何かしらのアドバイスをしなくちゃと思いながら家に帰ったのだった。




