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第17話 映画館

 レジで無事に恋愛指南書とあとタイトルも見ずに適当に取った本を買い、帰ろうとすると後ろから声をかけられた。


 「雄一郎、ちょっと待って」


 俺を呼んだのは美咲だった。


 「どうしたんだ、美咲?」


 俺は美咲に呼ばれた理由が分からなかったので、理由を尋ねてみる。美咲は、え、あ、うんと何かごにょごにょと言ったが、俺には何を言ったのか聞こえなかった。


 「え、何?」


 「いや、あのね。これから何か用事ある?」


 「いや、特には何も用事はないんだが……」


 俺は、この後やることと言ったら原田のために相崎とどうくっつけるか考えるといった仕事をするぐらいだ。それ以外の仕事はない。っていうか、これは仕事と言ってもいいのか。わからんが、まあ用事がないのは確かだ。


 「じゃあ、ちょっと付き合ってくれない?」


 「ん?」


 付き合うって買い物だよな。


 「買い物に?」


 「え、あ、うん。そうだよ。むしろ買い物以外に何か付き合うって言葉に使い道ってあるの?」


 美咲は顔を真っ赤にしながら俺の言葉を全力で肯定してきた。前半の方はなぜだかわからんが動揺していたんだが、それはどうしてだろうか。不思議だな。美咲のときどき動揺して顔を真っ赤にするその行動には本当に疑問点を感じる。どうしてときどきそういったことが起きるんだろうか。


 「まあ、別に構わないが……」


 「そう! じゃあ、行こう!」


 俺が返事をするとすぐさま美咲が喜んで笑顔になった。

 何でここまで喜んだのかわからなかったが、まあ、美咲が喜んでいるんだしよいことだと思っておこう。うん。

 

 さて、俺は美咲の買い物に付き合うことになった。


 「美咲、そういえば買い物ってどこに行くんだ? 服でも買うのか?」


 俺は買い物に付き合うと言ったが、そもそも美咲は俺にどこに行くのか教えてくれていなかった。果たしてどこへ買い物をしに行くのか。


 「あ、そういえば何も決めていなかったね。どうしよっか」


 美咲の方も買い物に行くと言っておきながらノープランだったようだ。それでいいのかよ……。俺はちょっと適当過ぎないかと思った。美咲は女子なんだからもちょい買い物に関してはプランを立てておけよ。


 「おいおい、それでいいのかよ……」


 「まあ、仕方ないでしょ。今決めたんだから。それに私が計画を立てるような性格に見える?」


 「そ、それは確かにそうだな。美咲は昔から雑な性格だったからなあ」


 「雑って何よ。まあ、否定はできないけど」


 美咲は優等生である。クラスの誰からも信頼されている。しかし、そんな彼女の唯一の弱点というか愛らしい点と言っていいのが性格が雑ということだ。まあ、堅苦しいよりはいいのだが、その性格ゆえに彼女にはスケジュールを作る関係の仕事を任せてはいけないというルールまでクラスの中で暗黙の了解がある。


 「否定はやっぱりできないんだな」


 「う、うぅー。それはそうだけど。って、私の話はもういいの。今はどこに行くかが大事な話題なのっ!」


 自分の話を何としても切り上げるために美咲は語尾を強くして話をそらそうとする。


 「わかったよっ! 今はその話はなしにしてやるよ。しゃあない、今俺見たい映画があるから一緒に行こうぜ」


 「えっ!?」


 「何だよ。俺がそんなことを言うとは思っていなかったていう顔をしやがって」


 「いや、だって、え、えぇっと雄一郎頭打った?」


 「至って正常ですぅ」


 俺が映画に誘うことがそんなに驚くことだったのか。いや、俺だって女子を映画に誘ったりすることぐらいある……いや、生まれて初めてですけど。まあ、美咲は幼馴染だし一緒に映画を見るぐらいいいかなあって思ったりしていたから誘ったのもあるけど。


 「まあ、かなり驚いちゃったけど。それで何の映画を見るの?」


 「それは、映画館に行ってからでいいだろ? 今何の映画がやっているかわからないから映画館で確認しよう」


 「……やっぱり、そこのとこは雄一郎なのね」


 「やっぱりって、どういうことよ」


 「言葉のとおりよ。まあ、あまり期待はしてないわ」


 「その言い方ひどくないか? おれだってやる時はやるんだぞ」


 「そうかなぁ~」


 俺は、美咲に疑われたまま本屋のすぐ近くにある映画館へと向かった。映画館の中でチケットを券売している機械の上には現在上映中の作品の一覧と上映時間が映っていた。

 今の時刻からするとあと20分で始まる映画が一番時間的都合で考えるといいはずだ。さて、どんな映画なのかな。俺はその映画について中身についてスマホで検索してみるとバリバリのラブコメだということが分かった。

 今、俺は相崎と原口をくっつけようとしている。この映画を見ることで少しは参考になるのではないか。これも、研究の一環だ。ついこないだ別のラノベ作家のラブコメも見たしいいだろう。まあ、でも純愛物は初めてだが、どうなんだろうか……


 「美咲、この映画でいい?」


 「うん、どれどれって、えぇぇ!」


 「おいおい、何でそんなに驚く」


 美咲は、俺がこの映画にしようと言ったらかなり驚いた。その驚き方に逆に俺が驚いてしまった。しかし、こんな大勢の人がいる中でよくそんな大きな声で驚くことができるような。周りに人がいることを忘れてしまうほどの驚きだったのか果たして。


 「いや、だって、雄一郎が、私と初めて見る映画が純愛物とか。ええっと。あれ、もしかして頭打った?」


 「至って、俺は正常なんだが……」


 「じゃあ、偽物?」


 「偽物って、おいっ、どういう意味だ!」


 「いや、だって。雄一郎たら今日何だか意外過ぎるんだもん。私と映画に付き合ってくれるわ、その映画が純愛物だとか。これで笑いをこらえられないわけないじゃん」


 そう言って、美咲はものすごく笑っていた。腹を抱えるほど笑っていた。

 その姿を見て俺はとても納得いかないものであったが、これ以上言ったところで俺に何もいいことないし、まあ美咲が楽しんでくれているとなれば俺にとってもうれしいからいいこととしておこう。


 「で、どうするんだ? 結局、これを見るんでいいのか?」


 「ええ、いいよ」


 この映画を見ること自体には反対ではなかったようだ。

 美咲もこの映画観たかったんだよね。まさか、雄一郎が提案してくるとは思わなかったけど。とか、言っていたが、前半部分の見たかったという言葉の方だけを聞いていたことにしよう。

 俺達はチケットを買い、その後、映画が始まる直前に俺は、美咲の分のポップコーンと飲み物も買ってあげ、上映のシアターへと向かった。

 俺がおごったことに美咲は遠慮していたが、無理やり納得させた。どこか顔が赤かったのはどうしてだろうか。

 映画が始まった。

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