第16話 某映画
更新遅れました。すみません。いろいろと忙しかったです。
想定外のことが起こった。
恋愛に関する本をレジに持っていく際に見られたくはない相手の1人に会ってしまった。その人物というのが……
「雄一郎、奇遇ねこんなところで」
「あ、ああそうだな。美咲」
そう、俺が会ったのは幼馴染の水出美咲だった。
ああ、まずい。
何がまず言ってあれだぞ。幼馴染に会うこと自体は別に悪いことじゃない。別に幼馴染だしフレンドリーだ。しかし、俺の今手元には恋愛指南書がある。これを美咲が見たらどんな反応をするか。美咲だったら、「あれ? 雄一郎彼女ほしいの? そんな本を使ってまで?」とか言って俺のことを煽ってきそうな気がする。っていうよりもすると思う。わからんが。でも、そうなりそうな気がして怖い。幼馴染にそういった分野で煽られるのはちょっと嫌だ。
ちなみに前にも言ったが美咲は美人だ。彼氏がいてもおかしくないほどだと思う。しかし、本人は誰とも付き合っていない。高校に入ってからもう少なくとも5人の男子に告られているが全部振っているそうだ。どうして付き合わないのか前に聞いたことがあるが本人はしっかりとした理由を言ってくれずぼそぼそと何か話そうとしていたことしか記憶に残っていない。果たしてあの時いったい俺に何を言おうとしていたのだか。
まあ、そんなにモテる美咲に対して俺の方はモテない。いや、あれだ。相崎に告られたのはノーカンとしてだ。今までに告白なんて受けたことがなかった。だからこそ当惑しているのもある。あの思想を抜きにして付き合うべきなのかとか若干考えてしまった俺もいた。
しかし、俺はあの思想のことを考えるとやはり無理だという結論に至った。
さて、美咲の話に戻る。
美咲はモテる。だからこそ、俺はその状況をうらやましいと思ったことがあるのは事実だ。ちなみに俺は美咲に対して幼馴染ということ以上に女子として好きという感情を持っていると言えば、ないとは完全には言えないもののそこまで自信を持って俺は美咲のことが好きと言えるぐらい強固なものではない。そもそも長年一緒にいた幼馴染に今更告白するのもなんだか嫌だし、それ以上に今告白して振られたときにもう二度と幼馴染として一緒に帰ったりとか話したりとかする関係が断ち消えてしまうということが一番俺にとっては恐ろしいことだ。そうなりたい。今のままの状態が永遠に続けばいいのに。
そう思っている俺が心の中にいる。
「美咲はどうしたんだ?」
俺は、どうにかして自分の本に気が付かれないように適当な話を振る。しかし、話を振った後に気が付いてしまった。ここで、美咲にどうしてここにいると聞けば、ここが本屋なのだから本を買いに来た、探しに来たという答えが来るはずだ。
そして、俺にも同じことを聞き返すだろう。聞き返した時に今俺はとっさに本を隠したのだが、その本の存在に気づく。そして、それどんな本とか言って見ようとする。そして、タイトルを見て引くだろう。
うん。ここまでの未来予想は簡単だ。
だから、ここから先の俺の返答にすべてがかかっている。
「え、ああ。うん。私は本を探しに来ただけだよ」
美咲は本を探しに来たそうだ。答えは予想通りだった。しかし、その答えは堂々としたものではなくどこか言い訳じみているというか話初めの部分に違和感を覚えた。
「その割にはなんか慌てているけど……」
俺は気になったのでも少し踏み込んで聞いてみる。
「そ、そんなことあるわけないじゃないの」
「なんか、日本語変だよ」
完全に美咲は慌てていた。その姿は誰が見ても慌てているというに違いないそのものだった。
何かやましいことがあったのだろうか。本屋にまで来てやましいこととはいったい……まさか、あの美咲が実はエロ本コーナーに行こうとしていたとか? まあ、だったら女子だし言いづらいよな。そういうことは。
「……何か、大変失礼なこと考えていない。あと、多分雄一郎が考えているのは間違っていると思うからね」
「え、そんなことないよー、別に失礼なこととか考えていないから。ははは」
なぜだ。なんでこういう時にすぐに美咲にバレるんだ。
美咲には何か超能力でもあるんじゃないのか。俺は本当に時々そう思ってしまう。
「まったく、何を考えていたか知らないけど私は普通に本を買いに来たの。雄一郎も知ってるでしょ、昨日の君に恋した明日の僕と明日の君に恋した昨日の僕っていう映画。あの映画の原作本が読みたくなったから買いに来たの」
若干なぜだか知らないが、何も後ろめたいようなことがないはずなのに美咲の言葉はあわてていて、そして顔が少し赤かった。どういったことだろうか。
でも、これ以上何か言うと怒られちゃうから言うのはやめておく。
「そうか。俺もその映画はタイトルだけ知っているけど面白いのか?」
「ええ、面白いよ。やっぱりラブコメっていいよね。あのせつなさが……」
美咲が映画の内容について語りだした。かなり長く。美咲がここまで説明に熱が入るほど面白い映画だったということか。
でも、実は俺はこの映画をすでに見ていた。美咲には悪いが、俺はこの映画の内容をもちろんちゃんと知っている。どうして知っているかというとこの映画の原作本を書いた鳥海先生は元ラノベ作家だからだ。最近は、ラノベ作家が一般文芸に行くことが多いがこの人もその一人だ。どんな内容なのか気になって見に行った。ついでに、ネットでも有名な右翼作家として知られる人の映画も見てきた。
そんなこともあり美咲の話を聞いているふりをしてしばらくその場にとどまっていた。
美咲は一定時間経つと満足したのか話をようやく終わらせた。
俺は、近くにあった本を適当に手に取ってそのままレジに行こうとする。もちろん、恋愛指南書も買っている。美咲にばれないように。
「ちょっと、俺、レジ行くから」
「あっ。ごめんね。長々と話をしちゃって。レジ行ってらっしゃい」
「ああ、話ありがとな」
俺は、レジへと向かい無事に本を買うことができたのだった。




