第13話 誘拐中
翌日。
俺は悩んでいた。それは、昨日相崎から告白されたことだ。彼女は確かにとびっきりの美少女だ。もしも、俺の彼女になってくれれば本当に幸せなのかもしれない。男子としてはこの上ない喜びだ。
しかし、俺自身が女子を本当に好きなったことがあるのかと言われるとない。だから、相崎に告白されたからと言ってすんなりうんと答えていいのか悩んでいる。それに、相崎は右翼だ。危険な思考を持っている人間だ。もしも付き合ったりしたらお父さんにも迷惑をかける。さらには、昔の俺の行動がかなりバレてしまう。もう二度とあのような行為をしない。そう、俺は固く誓った。
では、やっぱり相崎からの告白を断るのが賢明な判断ではないのか。俺はそう思った。その方向に自分の考えがまとまっていた。
「そうだな。やっぱり断ろう。それに俺はあいつのことを全く理解していない。あいつが危険な右翼なのかもしれないが、それ以外のことを全く知らない。だったら付き合うとしてもお互いのことを知らないなら意味ないじゃないか。友達でいよう。うん、それが賢明な判断だ」
俺は、自分の中で勝手に自己完結させた。明日学校に行ったら、相崎に今の独り言をそのまま聞かせてやろうと思った。俺は自分の意志が固いんだ。少なくともそう思っている。だから断る。
断る。断る。
俺はそうぶつぶつとつぶやいてその日は寝たのだった。
◇翌日
翌日の朝、俺は自分の部屋のカーテンを思いっきり開ける。
「うう、まぶしい」
今日はものすごく晴れた日だった。カーテンを開けた瞬間一気に朝日が照らしてきた。焼けるような暑さだった。本来ならば漫画とか心が沈んでいるときは雨が降って嫌な天気だなあとなるはずだが、快晴。つまりは、俺の心に迷いがないことをまるで暗示しているかのような空模様だった。
幸先がいいと思った。
俺は意気揚々と学校へ行く用意をして1階に下り朝食を食べる。朝食を食べ終えるとそのまま学校へと向かう。
今日は解放される日なんだ。
あの女から。
出会ってからまだ数日しか経っていない。でも、なぜあいつは俺を狙うんだ。俺は其れがずっと気がかりだ。だからこそ、ここで距離を置かないとまずい。
「おはよう野田君」
「……」
登校中さっそく奴が現れた。
奴とは言わずもがな相崎のことである。彼女は昨日俺に告白してきたことを忘れているのか何事もないかのように声をかけてきた。いや、何事もなかったようにではないな。顔をよく見てみるとなぜか少し頬の付近が赤くなっていた。若干照れているようだ。そんなに照れているというのであればわざわざ俺を見つけて声をかけてこなくてもいいというのに。なんて律義な奴……いや、律儀というよりも何か狙っているのか?
相崎は俺をちらちらと見ている。その顔からは何か言ってくれと猛烈にアピールしているかのように感じられた。ここで、俺がとっておく態度は何か。それはおそらく……
「おはよう、相崎さん」
「……うん」
相崎は俺の言葉に満足したのか若干照れて返事をした。そして、そのまま行ってしまった。
まったくなんて自分勝手な奴だ。俺の都合をもう少し考えてもらいたいものだ。相崎が教室のほうへ向かう様子は俺もそのあとすぐ教室へと向かったので分かった。ちょっと前を歩いている相崎はだいぶルンルンとはねて歩いていた。
どんだけうれしかったんだよ。
まったく……ちょっと、幸せな奴だなあと思ってしまった。
少しして教室に入る。
教室に入った瞬間に謎の空気を感じた。いつもと何かが違う。教室を見渡してみるとおもに男子がにひひと変な笑みを漏らしている。一体何があったんだ。何か嬉しいことでもあったのだろうか。
俺はその怪しげな笑みに疑問をいただきながら教室の一番窓側の席から2番目で、先生の教卓から一番後ろに当たる自分の席に向かって歩きそして座る。窓側隣にはすでに来ていた相崎がいる。そして、反対側の席の持ち主である美咲はいなかった。どうやらまだ学校に来ていないようだった。ゆっくり登校していると大変だぞ、まったく。
俺が席に座ってカバンから教科書類や英語の課題のプリントを机の引き出しに出したりする。その作業が全部終わるとこのクラスで一番テンションが高いと思われる原口和彦に呼ばれる。
「野田ー、ちょっと話があるんだけどいいか?」
「ああ、いいが……珍しいなお前が俺に話があるなんて」
「まあ、ちょっとな」
俺の問いかけに対し、原口は若干濁った答えをした。ん? どういうことだろうか。
俺は教室を出て同じ階にある空き教室に向かう。なぜだかわからないが、原口以外にいわゆる原口派とも呼ぶべき原口とよく一緒に行動したりして仲がいい福田淳と安井譲が付いてくる。
何々? 俺これからリンチでもされるのだろうか。
ちょっと、怖くなってきた。でも、原口は暴力をするような奴ではない。誰とも仲良くするのがモットーな人間だ。そんな彼だからこそ大丈夫だと俺は思っている。うん、信じてるよ。
教室に入ると、福田が入念にも扉を閉める。鍵もちゃっかりつける。
ちょ、ちょっと怪しい。何でそこまでするんだ。俺は不安になってきた。
一体何がしたいのだろうか。
「おい、野田。聞きたいことがある」
「お、おお。何だい?」
ちょっと、迫力に負けてしまった。いつになく真面目な原口の質問にかなりの動揺をしてしまったからだ。
「実は……」




