第12話 帰宅中
お世辞抜きで普通にかわいいと考えていたことを美咲にばれたくない一心で俺は美咲と一緒に変えることを肯定してしまった。
その結果として待っていたものは……
「「……」」
嫌な沈黙であった。
今の状況を確認しておこう。俺は美咲と一緒に帰っている。それも仲良く隣を歩きながらだ。はたから見ればあいつらカップルだろうと言われてもおかしくはない状況だ。
でも、普通それだったらもっと会話とかあるよな。
何も話さないで一緒に歩く。それがかれこれ30分近くたっている。それって逆に怖くないか?
では、ここで質問をする。このような関係を人はカップルと呼ぶのであろうか?
ちなみに俺の答えは呼ばないだ。そりゃあ、そうだろ。どうしてこれがカップルであると言えるのか。全然言えないだろ。カップルだったらもっといちゃいちゃいちゃいちゃしている。……ちなみにいちゃいちゃの言葉が異常に多いのはリア充爆発しろっ! と叫びたいからであるが、若干今の俺が準リア充状態なので何とも言えない状況だ。
さて、そんな現実逃避はどうでもいいとしてどうすればいいのだろうか。この現実逃避はどうすればいいのか。早く誰かに答えを出してほしい。
「雄一郎」
俺の名前を美咲は呼んだ。
俺はずっと考えていたみたいで気が付いたら美咲の家の前にたどり着いていたみたいだ。美咲が俺に声をかけてきたのは家の前についたことを俺に知らせようとしたからだと俺は考えた。しかし、その俺の考えは少し見当はずれだったのかもしれない。
美咲が次にいった言葉は俺の予想とはずれたものだったからだ。
「雄一郎、良かったら私の部屋に上がらない?」
「……はい?」
ええーと、これはつまりどういうことなのだろうか。
俺はいろいろと考えてしまった。美咲が言っていることは一体どういうことなのだろうか。
いい、いや、言葉の意味は分かっている。でも、理解できない。いや、理解はできているからこそここまで動揺しているのだろうか。俺の頭はかなりオーバーヒートしている。これはかなりまずい。
まずい。まずい。まずい。どうすればいいのだろうか。どうすることもできない。
あああああああああああああああ。いろんなことが頭に浮かんではすぐに消え去る。かなりまずい状況だ。
「雄一郎?」
俺が美咲の前でずっとフリーズ状態になっていることに違和感を感じたのか俺の名前を美咲が読んできた。その言葉で俺は半ばリアルへと呼び戻される。
「ええ、ええーと、何だっけ」
あまりの動揺で”え”と何回も言ってしまった。完全におかしいと思われただろう。
「どうしたの、雄一郎?」
しかし、美咲は俺のそんな動揺を知ってか知らないのかわからないがそのまま話を進めた。俺にとってはよかったと思えるが、うーん、何か釈然としないなあ。
「じゃあ、行こうか」
美咲はそのまま俺を部屋に連れて行った。
「お、お邪魔します」
美咲とは幼馴染であるが、美咲の家に行ったこと自体もう何年もない。最後に美咲の家に行ったのはおそらく中学2年のこと、美咲の部屋に入ったことも考えると小学校6年以来のことだろう。
だから、美咲の部屋に入ること自体が久しぶりでありかなりドキドキしていた。
おじゃましますと遠慮しがちに部屋の中に入る。
美咲の部屋は最後に入った小学校6年の時とは大きく変わっていた。
そりゃあ、確かにもう美咲も高校生であり小学生なんかという子供ではない。たった4年、されど4年の月日の間に美咲も大きく変わっている。俺は、部屋を見てそう思った。
昔はぬいぐるみなどがたくさん飾ってあった部屋は、今ではその面影もなくぬいぐるみは1つも置いていない。その代わりに壁には掲示板のようなものが置かれていた。木製のだ。そこには、何枚もの写真が貼られていた。美咲の写真が中心であったが、その中には何枚か俺が移っている写真もあった。
ん? どうして俺が移っている写真があるんだ。俺はそんな疑問に思った。しかも、その写真は俺が単体で写っている写真であった。明らかに俺を狙って撮ったとしか言いようのない写真であった。
どういうことなのだろうか。
美咲に文句でも言ってやるか。
「おい、美咲」
「何?」
美咲は、俺が写真を見ていることにはまったく気づいていなかったようだ。俺が写真を見ていた間ずっとどこか遠くを見ていたかのようにぼおーっと座っていた。
心ここに非ずの状況であった。
「何で、俺の写真がこの部屋に飾られているんだよ」
「……お菓子持ってくるね」
「……おい、さらりとスルーするんじゃない。何、その明らかに何かありますよ的な表情。おいっ、美咲、お前口笛下手なくせにっていうか、ふけないくせにどうして吹こうとしているんだ。完全に怪しい奴そのものだぞ」
美咲の嘘は完全にバレていた。嘘を隠すのが本当に下手であった。
どうにかすることができないのか。
俺は呆れてため息をついた。
「そんな大きなため息をつかなくてもいいじゃない」
美咲はすねたかのようにほっぺたを膨らませる。その動作はとてもかわいいもので俺の心は少しドキッとしてしまった。
「ああ、悪いな。だって、美咲本当に分かりやすいんだもん」
「もっといい言い方をしてよ」
またしても、俺の言葉に対して美咲はほっぺたを膨らませた。
俺はそれに対してかわいいと思うよりも今度は笑ってしまった。
俺が笑ったのにつられて美咲も笑った。
しばらくお互いが笑った状況が続いた。
「ねえ、雄一郎」
「何だ?」
「今日、相崎さんと何かなかった?」
「えっ!?」
俺は、美咲から突然そんなことを言われて驚いてしまった。
まさか、美咲の奴は俺が相崎から告白をされたことを知っているのか。いや、まだ何かなかったと聞いているだけだ。それ以上のことを知っているはずはない。
「べ、別に何にもなかったけどどうしたの?」
俺はなるべく心の内の動揺を美咲に気づかれないように言葉を放ったつもりであったが、どう考えても最初の言葉に詰まり完全に何かあったと言わんばかりの格好となってしまった。
し、しまった。
俺の背中からは冷や汗が止まらなくなっていた。あまり寒くないはずなのにな。
ドキンドキン
心臓がバクバクする音がなぜか聞こえる。
や、やばい。どうすればいいんだ。
「……そう、ならいいわ」
「へ?」
美咲は何事もなかったかのように別の話をそのまま始めた。美咲は気づいていないのか? それともあえて俺の発言を見逃したのか。どっちが定かわからないが美咲には何の意図があるのだろうか。
「へっ? って何か不満でもあるの?」
「別にないけど。うーん」
何か釈然としなかった。しかし、美咲はそれ以上俺を追求しようとはしなかった。
その日は、特に何事もなく俺は美咲とたわいもない話をそのあとして家へと帰ったのだった。




