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冒険の空へ  作者: トカゲ
8/10

報酬

 ノアールの住民の朝は早い。道具屋や食堂は勿論、冒険者も太陽が登りきる前には活動を開始する。

 冒険者は時間にルーズなイメージをよく聞くが、実は逆で時間にうるさい人が多い。

 クエストによっては朝に出ないと目的地に着く前に夜になってしまう事もあるし、街中でのクエストの場合だって依頼した人の指定した時間を守らないといけないから自然と時間にはうるさくなるのだろう。

 依頼書に新しい依頼票が追加されるのが朝なので、いいクエストを受けるためにギルドが開くのを待ったりする冒険者もいたりして、物語とかで出てくる冒険者っぽい冒険者は少ない。


 冒険者は気が向いたときにクエストを受けて金を稼ぐみたいなイメージも世間に浸透しているみたいだが、それもとんでもないデタラメだ。

 働く時間が決まっていないって事は自分からアピールしていかない限り仕事は来ないってことになるんだぞ? 

 クエストで稼いだ金が無くなるまで飲み食いして、金が無くなったらクエストを受けて金を稼ぐ自堕落な生活? 笑わせる。そんなの幻想だ。


 冒険者ってやつは仕事道具である武器防具のメンテナンスがあるから、普通の職種より仕事で使う金が多い。

 強くなって稼げるようになっても、それは装備の買い替えやメンテでトントンになる場合が多いため、そんな夢の様な生活が出来る奴はほんの一握りの選ばれた奴らだけだ。


 強くなってクエストの難易度が上がればそれだけ戦闘は激しくなる。安い装備を使ったら生死にかかわる事になるから装備の更新やメンテでケチることも出来ない。こんなんで金が残るはずがないだろう。


 だから冒険者は毎日のように朝早くからギルドにクエストを探しに来て、夜遅くにギルドにクエスト完了の報告をして帰る。そんな人達が多い。

 下手したら休みも碌に取らずに働く人もいるくらいだ。そんなこんなで冒険者ギルドは朝も早くから賑わっている。

 素材買取の受付に向かうと、アズの方が先に来ていて眠そうに目を擦っていた。


 「悪い、待たせたか?」

 「いんや。俺が早かっただけだよ。それより早くクエストを終わらせようぜ。」


 流石に朝早くから素材を持ってくる冒険者はいないのか、ギルド入口と違って裏口のこちらは静かな物だ。おかげで時間を取られる事もなく受付に行ける。

 もしかしたら素材買取の受付を利用する時は早朝に行った方がいいのかもしれない。


 俺はゴブリン討伐のクエスト票と討伐の証明であるゴブリンの耳や魔石の入った袋を受付に置いて呼び鈴を鳴らす。しばらくしてニーナさんがやってきた。


 「おはようニーナさん。素材買取とクエスト完了の受付お願いします。」

 「あら、カウルじゃない。連日でクエストの完了報告なんて凄いじゃないですか。」

 「まぁ、ゴブンリの森は慣れてるから。それに今回はこっちのアズと一緒にやったから楽だったんだ。」

 「そうなの? アズさんありがとうね。カウルは少し前まで孤児だったから、パーティを組んでくれる人が居ないんじゃないかって心配だったのよ。」

 「あ、いやはい。光栄です。」


 ニーナさんに笑顔で手を握られてアズは緊張しているようで、顔を真っ赤にして固まっている。なんだこいつ、アリアちゃんが好きとか言ってたのに節操がないな。


 「そうだニーナさん、アズの依頼票のも一緒に手続きしてくれる? 受けたクエストは同じゴブリン討伐で、討伐数の方は足りてるはずだからさ。」

 「分ったわ。そうだ、休憩の時に食べようと思ってたお菓子があるんだけど食べる?」

 「いや、悪いか……「いいんですか? お願いします!」


 悪いと思って断ろうと思ったらアズがすごい勢いで復活した。

 ニーナさんが苦笑いしてるぞ、いいかげんにしろ。


・・・


 「全部でゴブリンの耳が15とホブゴブリンの耳が2個、魔石が17個ね。」


 ホブゴブリンの耳が出てきた時はニーナさんもかなり驚いて、その後に危ないことはしないようにと怒られた。

 あと幾らゴブリンといってもそれを15体も狩るのは異常だと呆れられた。

 2人で奇襲しながら安全に倒したという事と、ホブゴブリンは他の冒険者を助けるために仕方なく戦ったことを説明したら最終的には褒められたけど。


 「まったく。自分の命が1番ですからね? 人助けもいいですけど無理しちゃダメですよ?」

 「「はい。」」


 ニーナさんは呆れたように溜息を吐くと、今回の報酬が入った袋を受付に置いた。


 「それじゃ合計で95銀貨です。頑張ったわね。」

 「95銀貨!?」

 「おいカウル、すごいな!?」

 「95銀貨って、あと5銀貨で1金貨になる95銀貨!?」

 「そ、そうよ? 2人でやったクエストみたいだし分けて渡した方が良いかしら?」

 「いいです! 1つの袋に纏めてください!」

 「そう? じゃあこれ。計画的に使うのよ? カウルはいつまでもスラムに居ないで宿屋を探しなさいね?」


 そう言いながらニーナさんは銀貨が入った袋を渡してくれた。

 おおぅ、自然と笑顔になるよね、このズッシリ感。

 

 もうこれから毎日ゴブリンを狩ろうぜ。


・・・


 さて、残念な事に報酬の配分の時間だ。


 ゴブリン討伐の報酬は全部俺が貰っていいみたいだけど、ホブゴブリンの耳と魔石はまた別だろう。でも幾らくらい分ければいいんだろうか。


 「虫がいい話かもしれないけど、防具の修理で20銀貨は欲しいんだ。すまないが20銀貨貰ってもいいか?」


 俺が悩んでいるとアズが申し訳なさそうに言ってきた。

 アズには無理に付き合ってもらったし、俺的にはもうちょい多くても良いんだが、本人が20銀貨で良いって言ってるし黙っておこう。


 「勿論だ。アズには助けられたからな。」

 「ありがとよ。……ところでお前ってニーナさんと仲いいの?」

 「いや、普通じゃないか? 俺って孤児だから、食べていく為にギルドで靴磨きしてたんだよ。それで話すようになっただけ。」

 「そ、そうか。物は相談なんだけど、今度一緒に飯食わないか誘ってくれないか? 勿論お前も居てくれて良いし、その時の代金は全部俺が持つから。」

 「アズってアリアちゃんが好きなんじゃないの?」

 「バカヤロ! どっちも好きだよ! ギルドの2大アイドルだぞ?」


 うん、取り敢えず断っておこう。

 そんな事したらギルド長に怒られそうだし、それを知った他の冒険者がどんな行動に出るか分らないからな。

 アズは最終的に土下座までしてきたが無理なものは無理なので断った。

 実に綺麗な土下座だった。良い物見た。


 思っていた以上の金が入ったので今日はクエストを受けずにのんびりする事にする。休む事も大切だ。


 そうだ、せっかくだし防具を探すことにしよう。

 クエスト終わったら見るつもりだったし。新品は無理でも中古ならいけるだろ。

 中古は状態も性能もピンキリだから何件も回らないといけないけど探す時間は充分にあるしな。



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