ゴブリン
分けた方が良かったかもしれない。
ちょい長めです。
サラダ料理を堪能した翌日、俺は屋台で買った肉串で口直しにと頬張りながらギルドで依頼書を眺めていた。
やっぱり料理ってのはこう、食べたら口の中に肉汁が広がった方が良い。
腹も膨れるし、元気も出る。サラダも悪くはないんだけど、食べた気がしないんだよな。
10級のクエストは殆どが街の雑用だ。外に出るクエストなんて薬草採取かゴブリン討伐くらいしかない。
1つ上の9級のクエストになら今俺が食べている肉串の元であるマッドラビットやラージボアの討伐があるけど、それらのモンスターの活動する時間帯は夜なのであまりやりたくない。
それに9級の討伐クエストはゴブリンみたいな純粋な討伐クエストと違って、討伐対象の肉が目的のクエストが多い。耳だけじゃなくてある程度の部位が必要になる。そうなると薬草みたいに量を稼げないから苦労の割に儲からないのもやりたくない理由の1つだ。
「ゴブリン討伐なら必要なのは右耳だけだし、やっぱりゴブリンの討伐を受けようかな。けど1人だとちょっと危険なんだよな。」
薬草採取を受けられればそれが1番良いんだけど、昨日調子に乗って森の浅い領域にあるミイホ草は粗方採り尽くしちゃったんだよな。
だから奥に行かないと量が採れない。奥の方に行けばミイホ草もまだまだあるんだろうけど、奥には強いモンスターも多い。今の俺ではホブゴブリンやマッドウルフなんかの相手は分が悪いだろう。
「街の雑用でも良いんだけど薬草採取とかと比べると報酬が安いんだよな。」
街の雑用系クエストは半日ほど拘束されて報酬5銀貨くらいが相場だ。
能力が高ければもう少し報酬に上乗せがあるけど、スラム育ちの俺じゃそういうのも期待できないし、何より居心地が悪そうだからあんまり受けたくない。
「やっぱりゴブリン討伐が妥当かなぁ。3匹くらいなら同時に相手にしたこともあるし、戦闘訓練もやりたかったから丁度いい。」
ゴブリンは大体3匹で纏まって行動することが多いから、パーティを組んで討伐するのがギルドでも推奨されている。もちろん俺もそっちのほうが危険も少なくていいと思う。
でも、俺には組んでくれるほど仲のいい冒険者の知り合いはいないし、何より報酬が減るからゴブリン程度なら1人でやりたいと思ってる。
とにかく今の俺には金が必要だ。装備を整えたいし、何より早くスラムから出たい。
50銀貨という大金が手に入ったけれど、まだまだ足りないのが現実だ。
防具とか普通に金貨何枚って世界だし、武器も欲しい。金は幾らあっても足りないのだ。
そんなこんなでゴブリン討伐のクエストを受ける事にした。
1ゴブリン討伐につき3銀貨の報酬だ。最低3ゴブリンの討伐でクエスト達成になる。命の削り合いでこの値段は安すぎると思うかもしれないけれど、ゴブリンは1度に5匹6匹生まれるのが当たり前だし、成体までの成長が約1週間と早いので、これくらいの報酬じゃないとギルドもやっていけないらしい。
ゴブリンの素材で使えるところなんて魔石位しかない。考えてみると本当に害獣でしかないなゴブリンって。
増えすぎると街に攻めて来るし、増えなくても時々商人とか襲うし。
知能がほかのモンスターより高いから、猟師顔負けの罠とか作り出したりするようになるし、最悪だな、ゴブリン。
ゴブリン討伐は薬草採取より疲れそうだけど、何とかなるレベルだ。
今回は10匹くらいを目標に頑張ろう。それくらい倒せば中古の防具も何か買えるだろうし。
全身鎧とかは懐事情を考えると無理だろうし、ガントレットか小盾あたりが欲しい。
どっちみち防具は必要になるんだしクエストが終わったら1回見て回ってみるか。
こう言うのはもう少し余裕が出来てきてからでも良いのかもしれないけど、防具の重さにも早めに慣れておきたいからなぁ。
ゴブリンなら何とでもなるけれど、ホブゴブリンとかマッドウルフ辺りと戦う事になった場合、防具にも力を入れたい。この2匹はゴブンリの森の奥に結構いるみたいだし、その内ホブゴブリンとも戦う事になるだろう。
ホブゴブリンだけじゃない。これから先、冒険者を続けるならばもっと強いモンスターと戦う事もあるはずだ。
正直に言えば安全に薬草だけ採取して生活したい所だけど、そうもいかないだろう。
受付のアリアさんから受け取った素材回収用の袋を背負って、さっそくゴブンリの森に行く事にした。
「ちょっと待な。」
ギルドから出て森に入ろうとしたとき、呼び止める声がする。
アズだ。昨日飲みすぎたのか若干青い顔をしているアズがそこにはいた。
「今日も森に行くのか? 1人じゃ危ないだろ。俺と組もうぜ?」
「いや、報酬が減るからやだよ。」
「そこを何とか。」
アズはゴブリン討伐を受けているんだけど、まだ討伐の証である耳を1個も手に入れていないらしい。1人じゃ難しいから俺と組みたいんだそうだ。
「クエストを返却してこいよ。まずは森に慣れて安定してゴブリンを狩れるようになってから受け直せばいい。」
「やだよ、カッコ悪いじゃん。」
「大丈夫、今のお前は充分カッコ悪いよ。」
何を言ってもアズは俺の前に立ちふさがり、退こうとしない。
最終的には足に絡みついて泣き始めた。
「良いじゃんかよ。クリア報酬とかは全部お前でいいからさぁ。」
「それでお前に何の得があるんだよ!」
「受付嬢のアリアちゃんに見損なわれないで済むじゃんかよ!」
アズが言うアリアちゃんというのはギルドの受付嬢で、さっき俺も素材袋をもらった。
赤髪のツインテールと猫のようなツリ目が特徴的な女性で、素材買取のニーナさんと合わせてギルドの2大アイドルとされている。
アリアちゃんは胸が残念なのだけど、そこが巨乳のニーナさんと人気の住み分けができているらしく、ロリのアリア派と巨乳のニーナ派とでファンが2つに割れているそうだ。
「あの人、ギルド長みたいなのが好みらしいから、お前は無理だと思うよ?」
「そんなデマ信じないね! 良いじゃんよ、足は引っ張らないからさ。」
「本当に報酬は全部俺でいいんだな?」
「もちろん。」
・・・
ゴブリンと戦う時に注意するのは奇襲を受けないように警戒を怠らないことだ。
こっちの先制攻撃が決まれば大体なんとかなる。
逆に向こうに先に攻撃された場合、防御している内に仲間を呼ばれてしまうのでジリ貧になってしまうので注意が必要だ。
「ゴブリンと戦う時は奇襲をするのが一般的だ。最初は喉を仲間を呼ぶのを防ぐのがベストな。」
「なんか卑怯だな。」
「命が掛かってるんだから卑怯も糞もないだろ。俺は死にたくないんだよ。」
待ち伏せ場所はゴブリンの縄張りの印が付いた木から数メートル離れた位置が好ましい。縄張りから出てきたゴブリンの後をつけて充分に縄張りから離れた奴らを奇襲するのだ。
こうするとゴブリンを探す手間が省けるので比較的楽にゴブリンを倒すことが出来る。
「じゃあまずは穴を掘るぞ。」
「何で穴を掘るんだよ? 俺たちはゴブリンを討伐に来たんだろ?」
「ゴブリンの死体をそのままにしておくと他のモンスターが寄ってきたり、ゴブリンに勘付かれたりするんだよ。だから耳と魔石を採ったゴブリンを捨てる穴が欲しい。」
これは待ち伏せする場所から少し離れた位置に掘るのが好ましい。
そうすることでゴブリンの死体につられてやって来た肉食モンスターきても安全に逃げることが出来る。
「深く掘るぞ。今日の目標は10匹以上だからな。それなりに深い穴じゃないとゴブリンの死体が穴から溢れることになる。」
「10匹って、そんな数無理だろ。」
「何言ってんだよ。3匹グループを4回倒せば12匹討伐だろ? 今日1日はここで粘るんだからそれくらいは行くに決まってるだろ。」
さっさと穴を掘ってゴブリンを待ち伏せしないといけないんだけど、ここで問題が発生した。アズがスコップを持っていなかったのだ。
マジかよ、ゴブリン討伐なのにスコップ持ってきてないとか何考えてるんだコイツ。
「まぁ、最初は俺一人でやるつもりだったんだし、アズは掘らなくていいよ。」
穴掘りは師匠に仕込まれたのでコツとかも分かっている。
20分くらい掛けて穴を掘って、他の冒険者が落ちないように目印の旗を立てる。
この目印がないと同業者が穴に落ちて大変な事になる。目印を立てておけば言い争いになる確率が下がるので、穴を掘る場合は絶対に立てておいた方がいい。
「じゃあゴブリンが出るまで待機な。」
「なんか物語の中の冒険者と違う。思ってたのと違う」
「当たり前だろ。英雄様と底辺を比べるなよ。俺らは待ち伏せと奇襲で日銭を稼ぐので精一杯なんだよ。」
アズは少しガッカリしているけどこれが真実だ。
大体ゴブリンは奇襲である程度優位に立たないと直ぐに仲間を呼ぶ厄介な連中だ。
アイツ等に仲間を呼ばれると面倒臭いを通り越して死の危険があるから妥協はできない。
「お、ゴブリン出てきたぞ。アズ、もうちょいゴブリンが向こうに行ってから奇襲をかけるから準備お願い。」
「3体か。ちょっと多いけど、俺の実力見せてやるぜ。」
「頼むわ。」
ゴブリン達は俺たちに気付くこともなく馬鹿な顔でフガフガ言ってる。
気付かれないようにゆっくりと近づいて、心臓あたりを後ろから黒鉄のナイフで刺した。
お、致命傷っぽい。念のために首を切って仲間を呼ばせないようにする。
近くにいたゴブリンが仲間を呼びそうだったので、左手をゴブリンの口に突っ込んでそのまま押し倒す。そのまま喉に一刺して、その後何度か黒鉄のナイフを抜き刺ししをゴブリンが動かなくなるまで続けた。
一息ついてアズの方を見てみると、少し苦戦してるみたいだ。
苦戦はしてるみたいだけどロングソードを振り回しながらゴブリンを追い詰めていた。
ゴブリンも突然の事でパニックになってるのか、仲間を呼ぼうともせずに棍棒を振り回している。
「あれなら大丈夫そうだな。」
俺は倒したゴブリンの右耳を切り裂いて素材袋に入れる。
次に胸を切り裂いて魔石を取り出す。魔石は魔道具を動かすために必要な素材でそこそこいい値段で買い取ってもらえるのだ。
解体が面倒くさいのでゴブリンの魔石なら余裕がある時以外は取らなくてもいいと思うけど。
魔石を取り出したら掘った穴にゴブリンを放り込む。
アズはまだゴブリンを倒せそうもない。手伝ってもいいけどアズの為にならないから放っておこう。俺はまた草むらに隠れてゴブリンを待つ。
「だらっしゃあっ!!」
やっとアズもゴブリンを倒したようだ。タイミングよく新しいゴブリンが出てきたのが見えたので、アズに声をかける。
今度も3匹。同じように2匹は俺が引き受けて1匹はアズに任せるか。
アズも急いでゴブリンの右耳を切り取り近くの草むらに隠れた。
ゴブリンの死体はそのままだけど、まぁ仕方ないだろう。
さっきと同じように背後からゴブリンの心臓を黒鉄のナイフで突き刺す。今度は黒鉄のナイフを引き抜いたら直ぐに隣のゴブリンの喉を切り裂いた。
心臓を刺した方のゴブリンを蹴飛ばして、アズが戦っているゴブリンにぶつける。
「アズ! チャンスだ!」
「お、おうっ!」
仲間の死体がいきなりぶつかって来て混乱しているゴブリンにアズはロングソードを振り下す。
バランスを崩したゴブリンにそれを避けることは出来るはずもなく、ロングソードは直撃。血を噴き出しながらゴブリンは倒れた。
俺も瀕死の2匹にトドメを刺す。これは中々に良いペースだ。
「アズ、魔石もできるだけ取っとけよ。金になるし、モンスターの解体の練習にもなるから。」
「なるほど、勉強になるな。」
魔石を抜き取ったら掘った穴に捨てに行く。
俺たちは日が暮れるまでこれを行い、合計で15匹のゴブリンを討伐した。
・・・
「そろそろ帰るか。」
「おうよ。」
日も暮れてきたので切り上げて帰ろうとしたとき、森の奥からガサガサと何かが走ってくる音がした。
音からして複数の何者かが走っている感じ。追われてるのか?
「おい、なんか来るみたいだし、ちょっと草むらに隠れてやり過ごそうぜ。」
「そうだな。ホブゴブリンとかに来られたら危ないしな。」
俺とアズは頷きあって草むらに隠れる。
しばらくして一人の少女が森の奥の方から走り出してきた。
ボサボサな緑髪で目が隠れていて表情は分らないけど、顔は整っている。ちゃんとすれば美人になりそうだ。
動きやすそうな布の服の上に小さな胸当てをしていて、背中にはミイホ草が入ったカゴを背負っている。腰には小さな短剣をさげている。
背はかなり小さくて、130cmといったところだろうか? 前髪に隠れて目は見えないが、泣いているように見えた。
「ああぁー、失敗したっす。ミイホ草が見当たらないからって奥に行くんじゃなかった。死んじゃうっす! 私、死んじゃうっす!」
少女の後ろから少し離れてホブゴブリンが見える。
ホブゴブリンは基本的に森の奥にある縄張りから出てこないモンスターなので、少女が誤って縄張りに入ってしまったんだろう。
「どうする?」
「ホブゴブリンだぜ? 助けたいけど無理だろ。」
ホブゴブリンの数は2匹。アズが1匹足止めしてくれるなら勝てなくもない。
怪我も恐らくするだろうし、死ぬ可能性もある。知り合いでもない少女のために危険を犯すべきではないだろう。
だけど、さっきの少女の言葉が引っかかる。「ミイホ草が見当たらなかったから……」って言ってた気がする。
そうなるとあの子が危険な目に会ってるのって俺のせいだよな。
「アズ、1体の足止めって頼めないか?」
「おい、マジかよ。あの子って知り合いなのか?」
「知り合いじゃないけどさ。見捨てたら目覚めが悪いだろ。」
俺はそう言うとアズの返答を聞かずに草むらから飛び出した。
先手必勝だ。黒鉄のナイフを右手に構えて走る。
集中しろ。相手はホブゴブリンだぞ。
後ろから心臓を狙って黒鉄のナイフを突き立てた。
「―――ちっ!」
流石というべきか、ホブゴブリンは俺の殺気に気付いたのか少し体をずらして急所を避けた。もう1匹のホブゴブリンの棍棒が俺に迫る。
俺は咄嗟に後ろに下がるが、黒鉄のナイフをホブゴブリンの背中に刺したままにしてしまった。
仕方がないのでショートソードを抜いて構える。
襲われていた少女は状況が飲み込めてないのか俺の方を見ながら呆然としている。
「逃げろ!」
俺がそう言うと少女は肩を震わせたあと走っていった。
これでいい。後はホブゴブリンを倒すだけだ。
片方のホブゴブリンには致命傷とまでいかないまでも大きなダメージは与えているし、ギリギリ何とかなるだろ。
ホブゴブリンの怖いところは頭の良いところだ。
ゴブリンの時も他のモンスターよりは頭が良かったがホブゴブリンは更に賢くなる。具体的にいうと体格も容姿も殆ど変わらないのに、戦闘技術だけ格段に上がる。
ホブゴブリンの振り上げた棍棒が俺に迫る。
とっさに避けるともう1匹のホブゴブリンの棍棒が俺に向かっていた。
だからホブゴブリンは嫌なんだ。下手な冒険者より連携が上手い。
「何やってんだよ!」
そこにアズが割り込んでくる。ホブゴブリンの棍棒はアズの鎧に弾かれる。
あの棍棒をくらっていたら、骨の1本か2本は持って行かれていたかもしれない。そんな状態で勝ったとしても、次の日から冒険者稼業はしばらく休むことになっただろう。アズには感謝しないとな。
「でかした!」
俺はアズの肩を軽く叩いて飛び出す。
そのままの勢いでショートソードを近くのホブゴブリンに突き立てた。
引き抜いてもう一突き。ホブゴブリンは血を吐きながらこちらを睨み付けてくる。
まだ死なないのかよ。今度は首を狙ってショートソードを突き立てた。
それでようやくホブゴブリンは動かなくなる。
「カウル危ない!」
アズが叫ぶ。
俺は振り返ることもなく右に走った。
ドガッ!!
俺がさっきまでいたところに棍棒が叩きつけられる。
もう1匹のホブゴブリンだ。仲間を殺られて怒っているのか、意味のわからない叫び声を上げながら棍棒を振り回してくる。
その姿はさっきまでの隙のないものではなく、ただの獣のようだ。
そんなホブゴブリンを見た俺とアズは、しばらくのあいだ逃げに徹する事にした。ホブゴブリンだって体力が無限にあるわけじゃないだろうし、何よりあのホブゴブリンは背中に俺の刺した黒鉄のナイフがそのまま刺さっている。
ホブゴブリンの背中からは常に血が流れているし、そのままでも勝手に死にそうだ。
辺りも完全に日が沈んで暗くなってしまっている。夜は日中よりも危険なモンスターが多いので、そろそろ決着を付ける事にした。
「さっきの子も心配だし、そろそろ片付けるか。」
「そうだな。」
ホブゴブリンも疲れてきたのか棍棒を振る動きが鈍くなってきている。
チャンスだ。俺はホブゴブリンの方に向かって走り出す。
振り上げられた棍棒を避けて右手に持ったショートソードをホブゴブリンの胸に突き刺す。何度も、何度もだ。
しばらくは抵抗していたホブゴブリンも次第に動かなくなった。
2匹のホブゴブリンが動かなくなったのを確認したら右耳と魔石を取り出す。
「ちょっと危なかったけど臨時収入だな。」
「早く行こうぜ。流石にもう疲れたよ。」
俺たちはホブゴブリンを穴に放り込んで埋めると、街に向かって歩き出した。
最初に毎日更新とか言ったけど少し休みます。
明後日か明々後日に再開予定です。




