ギルドへ
ギルドは街の東門近くにある木造2階建ての大きな建物だ。両隣にはギルド直営の宿屋と食堂が建っていて、裏側にはモンスターの素材を買い取ってくれる素材買取所があるため遠くからでも分るほど大きな建物になっている。
一応東門に近い場所にギルドがあるのにも理由もあって、それはモンスターが多く生息する森が東門の近くに有るからと言うのと、住宅地区と領主の館から一番遠いから、というのが理由になる。
冒険者でもないのにモンスターの死骸なんて進んで見たいものじゃないだろうから、これは仕方がないだろう。別に冒険者でも好んでモンスターの死骸なんて見たいものじゃないけれど。
因みにスラムはギルドから徒歩数分の所にあり、何か問題があった場合は兵士より先に冒険者が駆けつけてくる事が多い。これは実体験なんだけどスラム在中の孤児とかは冒険者と仲良くなっておいたほうがいい。意外と助けてもらえるから。
まぁ、そういう理由もあって俺はこのギルドに顔見知りが多くいる。ギルド職員の靴は大体磨いたことがあるし、冒険者にご飯を奢ってもらったことも結構ある。俺の靴磨きの仕事場の一つに冒険者ギルドの隅を借りていたりするので、このギルドを拠点にしている人とは大体知り合いだ。
「そうか、お前もようやく冒険者になるのか。」
「はい。師匠からの許しも得たので。」
「そうか、長かったなぁ。」
「ギルドマスターには本当にお世話になりました。」
「いや、俺もスラム出身だからな。スラムの連中もお前みたいにギルドを頼ってくれりゃ俺らも助けられるんだが。」
「無理でしょ。スラムの連中は基本的に人を信じませんから。小さな子供も余程運が良くないと盗賊達にすぐ囲われて洗脳に近い事されますし。」
俺は今、ギルドのカウンターでヒゲモジャのギルドマスターと向かい合って冒険者登録をしている。このオッサンはギルドで一番偉い人だけど、靴を磨いたら何故か気に入られてそれから何かと助けてもらっている。
冒険者登録は自分の情報を指定の紙に書き込んで、簡単な体力テストをやって終了だ。冒険者登録に掛かる10銀貨の半分は体力テストの料金になるそうだ。
最後にもらえる冒険者カードには自分の情報と、体力テストの情報が簡単に記載されていて、カードに書かれている情報を更新したい場合は銀貨5枚を支払って体力テストをもう一度受けないといけないらしい。
金を払ってまでそんな事やる人はいないように思うけど、大体の冒険者は年に1回は更新するそうだ。カードの情報は自分の能力を他人に簡単に知らせる事ができるので、便利なんだとか。
「それにしてもお前、文字かけるんだな。」
「師匠に教えてもらいました。簡単な計算もできますよ。」
「それを知ってたら靴磨きよりも割のいい仕事紹介してやれたのにな。今更だけど。」
後から知ったことだけど冒険者の中には読み書きが出来ない人が結構多くいるらしく、代筆やクエストの説明をするだけの仕事なんていうのもギルドにはあるらしい。それは確かに靴磨きより楽に稼げそうだ。本当に今更だな。
体力テストはギルドの周りを走ったりギルドマスターと模擬戦したりするだけだった。こんなんで5銀貨も取られるのかと思ったけど、実力がある人の時間をある程度拘束するのだから、それも仕方ないのかもしれない。
・・・
冒険者カードが出来たのは体力テストが終わってから1時間位がすぎてからだった。その間に何人かのギルド職員の靴を磨き、冒険者になったお祝いとして少し多めのお金を貰った俺はホクホク顔で冒険者カードを受け取った。
冒険者カードは一種の魔道具と呼ばれるもので、破れにくく折れにくい材質で出来ている。カードには俺の名前と体力テストで測った身体能力のランクが記載されている。
【カウル】 10級冒険者 男
【力】E【速】C【技】C【スキル】E
【評価】-
これが今の俺の評価だ。聞いたところでは新人にしては結構高い能力値なんだそうな。能力だけなら7級冒険者でも通用するらしく、スキルも目覚めの兆しがあるというのは今の時点では凄いことらしい。普通なら5級辺りまではスキルの項目には何の記入もされないそうだ。
因みに10級冒険者というのは冒険者の格付けみたいなもので、この数字が少ないほど有名だったり強かったりする冒険者ということになる。
10級冒険者は新人も新人ってことだ。この等級が上がれば上がるほどギルドや街で受けられるサービスが増えていき、待遇も良くなる。
等級が上がれば高額で難しいクエストも紹介してもらえるし、貴族とかから指名でクエストも入ったりする。お店も場所によっては割引してもらえるんだとか。
冒険者の等級を上げるための方法は単純で、クエストを受けて完了させればいい。簡単に言えばギルドの等級っていうのはギルドからどの程度信頼されているかっていう目安みたいなものだから、仕事を失敗しなければ勝手に上がっていくみたいだ。等級が上がればその分難易度の高いクエストじゃないと等級は上がらないみたいだけど。
まぁ、今の俺は冒険者になりたて一番下っ端の10級冒険者だ。どんなクエストを受けたとしてもそのうち等級は上がるだろう。
「それじゃ、さっそくクエストでも受けようかな。」
クエストの受け方はギルドの隅にある依頼書と言われる本に貼り付けてある依頼票を剥がして受付に持っていく方法と、ギルド受付で職員おすすめのクエストを紹介してもらう方法の2種類がある。
等級ごとに依頼書は分かれていて、受けられるのは自分の等級とその1つ上の等級までだ。今回は依頼書で受けるクエストを選ぶことにした。何冊かある10級冒険者用の依頼書から1冊を選んでそこからクエストを探す。
10級冒険者に割り振られるクエストなんて薬草採取や街の掃除なんかが殆どで、モンスター退治なんてものは欠片もない。それでも今までやっていた靴磨きよりはいい稼ぎになりそうな所が何とも言えない気持ちになった。
「ミイホ草の採取か。報酬は出来高制ね。」
ミイホ草っていうのは綺麗な黄色の花を咲かせる植物の事だ。
最下級の薬草として有名で、花の蜜に傷を癒す効果がある。葉の方はすり潰せば虫除けの材料になったりして捨てるところのない植物としても有名だ。
ミイホ草なら師匠に修行と称して死ぬほど採らされたから問題ない。採り方も詳しく教えてもらっているから大丈夫だろう。クエストは採取してきた量やミイホ草の状態で報酬が変わるみたいだから丁寧にやったほうがいいんだろうな。
しかし、これで修行としてミイホ草を採った後は師匠がいつもよりランクが上の酒を飲んでいた理由が分かった気がする。
俺が採った薬草、売ってたんですね師匠。
いや、分かっていたことじゃないか。せっかく採ったミイホ草が無駄にならなくて良かったと思おう。あの修行のおかげで俺は森に詳しくなったし、ミイホ草を見つけるスピードも早くなったんだから良いじゃないか。
「まだ昼を知らせる鐘も鳴っていないし、今から全力を出せば50本はいけるな。」
ミイホ草が生えているような森はゴブリンやスライムも出る危険な場所だ。子供は入るなと親にきつく言われているだろうし、戦う術を持たない人が森に入ったら、例え大人でも少なくない傷を負うだろう。
少し危険な感じもするけれど、冒険者が受けるクエストにしては簡単な部類だと思う。なんせ冒険者になったばかりの俺が受けられるクエストなんだから。
「これお願いします。」
「おう。10級クエストの薬草採取だな。ミイホ草はこっちで支給する袋に入れて持ってこい。頑張れよ。」
受付に依頼票を持って行くと何故かギルドマスターが受付に座っていた。
何時もの綺麗なお姉さん達はどうしたのだろう。風邪だろうか?
不思議に思いながらもギルドマスターから大きな袋を貰ってクエスト受付完了だ。この近場でミイホ草が多く生えている場所は【ゴブンリの森】だろう。
ゴブリンとスライムが多く生息していて、森もそこそこ広いので若手冒険者の訓練の場としても推奨される森でもある。
広さがそこそことは言っても普通に迷うほどには広い。大丈夫だとは思うけど念の為にコンパスを買って、水筒に井戸水を入れれば準備完了だ。
普通なら更に携帯食料も買うんだけど、今日の予定は日帰りだから今回は用意しない。金も勿体無いし、そんな金もないし。腹が減ったら木の実でも採って食べよう。
知らない場所の探索なら日帰りでも非常用に携帯食料は必要だろうけど、今回行くのは慣れたゴブンリの森だ。去年あたりから週に1回はゴブンリの森で修行を行っているので大丈夫だろう。
「じゃあ行ってきます。」
俺がそう言ってギルドから出ようとすると、ギルドマスターや職員、冒険者の皆さんから「頑張れよ。」とか「無理しないでね。」とか温かい言葉が飛んでくる。
何とも温かい気持ちになりながら俺はゴブンリの森に向かって出発した。




