冒険の空へ
ノアールは大きく分けて5つの区画がある。
東西南北、そして中心と分けられた区画にはそれぞれ職人区、商店区、貴族区、住民区、そして中央区と名前が付けられている。
因みにギルドやスラムがあるのは住民区だ。
まぁ、区画で大まかに分けられていると言っても貴族区以外には自由に出入りできるので、こんな区画あってないようなものだ。同じ職種の人達が集まって暮らしていると思ってくれればいい。
シーアに引きずられるように向かう先は南の職人区だ。
職人区には物を売るような店は殆どなくて、あったとしても鉱石や布などの素材を扱っている店ばかりが並んでいる。
ここに住んでいる人達は物を作る事に喜びを見出した人達ばかりだ。
ここで作られた武器や防具、服や小物はノアールだけでなく大陸中に売られて行くんだろう。
「下宿先が鍛冶屋って珍しいな。」
「お父さんの弟がやっている店なんですよ。腕はバッチリだから安心して良いっすよ?」
ノアールの職人街で店を持てるんだったら腕は良いんだろう。
王都であるノアールは大陸の中心だ。そんな場所の鍛冶屋の腕がヘッポコな訳ないじゃないか。
「ここっす。」
「………デカいな」
着いた場所は2階建ての大きな建物だった。
他の建物よりも2回りは大きくて、見ただけで実力のある職人の店だと分かる。
大きな金槌を肩に担ぎ指示を出していた男がこちらに気付いて近づいてきた。
オールバックにした茶髪と厳つい眼差し、背は低いけど、ガッシリとした肉体は筋肉がはち切れんばかりに隆起しており、その力強さは見ただけでわかった。
「ドワーフ?」
「おいシーア、こいつは誰だ?兄貴の娘であるお前に変な虫が付かないようにするのも儂の役目なんだが?」
「ちょっとドーラおじさん! カウルはそんなんじゃないわよ。昨日話したでしょ、助けてくれた男の人の話!」
シーアが顔を赤らめながら焦る。
ドーラさんはそれを見て笑いながら俺の方に視線を向ける。
「ほう、お前さんがね。儂の名前はドーラ、鍛冶職人だ。」
「冒険者のカウルです。」
「カウルは防具を探していたみたい。だから昨日のお礼に連れてきたんす。おじさん、安くお願いできないすか?」
「それは別にいいが安くするにも限度があるぞ?」
「えっと、銀貨50枚くらいが限度なんですが。」
「話にならんな。」
ドーラさんが言うには素材だけの値段で請け負ったとしても銀貨80枚が最低ラインだそうだ。
欲しい装備がガントレットだという事を伝えてもドーラさんは渋い顔を崩さなかった、
「片腕分だけでも良いんですけど、無理ですかね?」
「体のバランスが崩れるから止めておけ。片腕分だけ作るなんて幾ら金を積まれてもお断りだよ。」
ドーラさんは悩んだ挙句、金貨1枚でなら作ってやる。と言ってくれた。
予算がオーバーしてしまっているが、これは殆ど素材だけの値段でドーラさん的には大赤字とのこと。
普通だったらドーラさんの作った防具は最低20金貨はくだらないそうだ。
財布がジャラリと音を立てる。
ギリギリ買える値段だ。しかし買ってしまうと無一文になってしまう。
出来るだけ安く済ませたかったんだけど、どうしようかな。
今回これに金を払ってもまたゴブリンを狩れば金は入る。
防御面を強化すればより安全にゴブリンを狩れるし、悪い話じゃない。
今日は肉串を食べられない程買い食いしようと思っていたけど、それはまた稼いだ金でやればいい。
どうする、これは買うべきなんだろうか?
「そうだカウル、良かったら明日薬草採取を一緒にやりません?」
「いきなりどうしたんだよ?」
「えっと、私は冒険者の他に薬剤師を兼業しているんすけど、調合用のミイホ草が足りないんす。他のクエストのついでで良いから護衛をしてくれると嬉しいんすけど。」
少額だけど報酬も出しますよ。とシーアは言う。
昨日ホブゴブリンに追われたのが余程堪えたんだな。
俺が乱獲したミイホ草がある程度成長するのには最低でも後3日は掛かる。
根っこは残してあるのでもう少し待てば簡単に取れるようになるだろう。しかしそれを教える訳にはいかない。
だってそれを言ったらシーアが危険な目に会ったのは間接的に俺のせいでもあることが分かってしまうからだ。今は好意的に接してくれているシーア達の態度が変わるのが手に取るようにわかる。
「わかった。でも3日待ってもらってもいいか? 実は予定があってさ。」
「勿論っすよ! 実は1人で森に行くのって怖かったんすよね。私、背が小さくて力も弱いから一緒に行ってくれる人もいなくて。」
まぁ、それは何となく分る。
シーアは背が低く、筋肉も付いているように見えない。兼業で薬剤師をやっているみたいだし植物の知識も豊富なんだろうけど、ゴブンリの森で使える植物なんて4種類くらいしかない。つまりクエストでシーアの知識が活躍するような場所はノアール周辺にはないという事だ。
「こいつはドワーフとヒューマンのハーフでな、そのせいでギルドにも馴染めていないんだろう。」
ドーラさんが気の毒そうにシーアを見て言った。
シーアはドワーフの特徴である背の低さだけを受け継いでしまい、16歳になっても身長が130㎝で止まってしまっていたらしい。
しかもドワーフ最大の特徴である強大な筋力が受け継がれなかったので本当にただの小さな少女でしかなくなってしまっている。
「儂は冒険者には向いておらんから辞めろと常々言っているんだがな。中々頑固で冒険者を止めようとはしない。」
お前さえ良かったらシーアを守ってくれると儂も安心だ。そうドーラさんは言うと、奥の作業場に戻ってしまった。
・・・
それから3日間はゴブリン討伐のクエストを受けたり、街の清掃クエストを受けたりして過ごした。
とにかく周りをよく見て動けるように気を付けた。シーアと一緒にクエストを受けた時に守れるように余裕を持った行動が出来るようになりたかったからだ。
街のクエストを受けた時はアズが偶然にも同じクエストを受けていて、その時は随分助けてもらった。
孤児という事で街の連中に白い目で見られがちな俺にとって、アズがいてくれた事は街の住民と打ち解ける時に随分とありがたかった。
ギルドと屋台以外で初めて俺の事を人間として扱ってもらえた気がする。
アズと協力してクエストをこなす事で、協力が如何に大切かという事を思い出した。
1人では出来ない事も2人なら、3人なら楽にできる。
リーズがいた頃には当たり前の様に分っていたことを、俺は忘れていたんだと思う。
アズと2人でホブゴブリンという格上のモンスターを倒すことが出来た。俺みたいな、どうしようもない人間が人を助けることが出来た。感謝された。
今日、その助けた子と森に行く。
「頼られちゃったし、しっかり守んなきゃな。」
スラムで暮らして、常に自分の事で一杯いっぱいだったけど、初めて誰かを守りたいと思えた。
今日も朝を告げる鐘の音が響く。さぁ、冒険に行くとしよう。
1章終了です。2章はどうしようかな。
2章はダンジョン探索で行こうとは思っているんですけど、全然話が出来てないので一旦完結とさせていただきます。




