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(7)

 翌日。

 彩花と雄太は昨日から始めた勉強を今日も朝から続けていた。しかし、彩花も家事があるため、長時間教えることは出来ず、時折休憩を挟むような感じでやっていくつもりの予定で教えていたのだが、雄太のやる気が異常なほど高まっているらしく、彩花が家事で抜けている間は教科書と一緒に買った問題集を解いていた。


 ――いやー、すごいやる気だなー……。


 最低限のトイレと飲食に留まっていた雄太のやる気に彩花は洗濯物を洗濯機に入れながら思っていると、


「プシュー……」


 と、遠くから何かが燃え尽きたような声が聞こえてきたため、彩花は声を上げて笑ってしまう。

 すると、それに反発するかのように、


「笑うなーッ!」


 力のない声で雄太が反論する声が聞こえてきた。

 今すぐにでも雄太の様子を見に行きたい彩花ではあったが、洗濯をしないといけないため、急いで洗濯機の中に洗濯物を入れ、洗濯機の設定を済ませる。そして、スタートボタンを押し、稼働し始めたのを確認してから、居間へ向かう。


「あー、やっぱりオーバーヒートしちゃってたんだ……」


 居間へ着くなり、雄太の姿を確認すると、アニメでよくあるような問題集の上に頭をのせ、口からは魂のようなものが出ているかのような感じで大きく開けていた。


「うるさいって」


 そんな状態でも反論する余力だけはあるらしく、身体は起こさずに雄太は彩花へ減らず口を漏らした。


「そんな状態になってまで、ケンカを売ってこなくもいいじゃん。とりあえず時間にしてみて……」


 そう言いながら、雄太の隣に座り、時計を確認後、


「ぶっ続けで三時間。久しぶりにしては十分なほど頑張ったね。上出来すぎるほどだよ」


 と、そのことを素直に褒めた。雄太の頭を撫でながら。

 褒められたことにより、今まで虚ろだった目に少しだけ光が宿る雄太。しかし、本当に燃え尽きているためか、身体を起こさせる素振り一つ見せることはなかった。


「くそぅ、嵌められた……」


 そして、同時に嬉しそうにそう不満を漏らし始める。


「嵌める? 何もしてないじゃん」

「教え方が上手いのがいけないんだ……」

「へ? なんで?」


 彩花からすれば、別段変わったような教え方はしていないつもりだった。つまり、それはスミレに教えていたように普通に教えていただけ。もちろん、その中に雄太のやる気を出してくれたことによって、多少のテンションが上がっていたことは間違いない事実だったが。


「そのせいで勉強が楽しくなってきた……。これが覚える楽しさなのか……。もっと若いうちに知りたかった……」


 その発言に彩花は思わず苦笑いを溢してしまう。


「十分に若いでしょ。まだまだこれからだよ」

「精神的はすでにおっさんの域だと自負しております」

「……それ言われたら、私はいったいどうなるのよ」

「そりゃ――」

「言ったら、撫でてる手をそのままグーで頭の上に落とす」

「ごめんなさい」


 雄太が逃げることさえも億劫な状態になっているのか、素直に謝罪をしてきたため、グーを頭の上に落とすことはなかった。が、同時に撫でることは止めて、


「燃え尽きてる間に私は問題集の答え合わせをしてあげようかな?」


 そう言って、問題集を雄太の頭から引き抜こうと引っ張る。

 それに従い、雄太は自分の頭を問題集が引き抜ける程度上げ、彩花が問題集を引き抜いた直後、また力尽きたようにテーブルに頭を下ろした。

 彩花はその行動に対し、もはや何も突っ込まず、問題集に視線を下ろしたところで、何かを思い出したように、「あっ」と声を漏らす。


「答え合わせする前に一つ重要な質問してもいい? さすがの現在いまの雄太くんがそんなことをするとは万の一つも思ってないけど。念のために」

「何?」

「問題集の答えを写してないよね? さっき、『勉強の面白さが分かった』って言ってたから、信じてるけど」

「ない。そんなこと言われるまで思いつかなかった」


 そこで彩花は「お」と少しだけ感心すると同時に、また一つ疑問が湧いてしまう。


「そっかそっか、それなら安心だね! それともう一つ質問していい? また思いついちゃったから」

「何?」

「すごく失礼な質問を今したでしょ? 普通だったら、真面目にしてるのにあんなことを言われたら怒ると思うんだよね。でも、裕也くんは怒る様子一つ見せないけど、なんで?」

「怒る体力がないから」


 現状の様子を見て、その質問をしてくれと言わんばかりの力の無さで答える雄太。

 さすがにそう言われてしまえば、彩花も納得しざるを得なかった。そして、そう答えようと思っていたところで、


「それにさ――」


 と、雄太が少しだけ言いにくそうに付け加える。


「うん、それに?」


 だからこそ、納得する言葉を飲み込み、雄太の付け加えた言葉に彩花は反応した。


「答えを見たとか、最初から思ってもなかったでしょ。思いついたから聞いただけで、最初から信用してくれてるの知ってるから、怒る気すら起きないよ」


 声は間違いなく照れていたが、雄太はそれを噛むことなく、あっさりと言い切った。

 そんなことまで言ってくれるとは思ってもみなかったため、彩花は驚いてしまう。が、今度はさっきのように頭を撫でるというような行動に出ることはなく、


「そっか。失礼なこと聞いてごめんね。そして、私のことを信用してくれてありがとう」


 と、子供扱いはやめて、一人の大人のように扱うことにした。今だけの話ではあったが。


「どういたしまして」


 雄太はそれに対し、簡潔な言葉で答えると後は何も言うような気配がなかったため、彩花も答え合わせに集中することにした。


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