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(6)

 ちょっとだけ悩んだ雄太が出した答えは、


「やっぱりボクが適当に覚えてる範囲から、もう一回教えてもらうしかないよね……」


 二人とも最終的にはそうするしかないという答えだった。

 だからこそ、彩花は雄太が持っている教科書を掴み、


「ちょっとだけ貸して。私も探してみるね」


 と、半分強制的に教科書を奪い取る。

 雄太はすでに探すことを諦めているらしく、持っている教科書をあっさりと手放し、一度習った箇所からまた教えてもらうという面倒なことに対してのため息を溢した。


「んー……」


 彩花も最初からペラペラと捲って、雄太が使った形跡を探すフリをしながら、


 ――教科書の使用履歴検索開始……。


 心の中でそう手に持つ教科書の履歴を検索し始める。

 この魔法は一度開いたページを頭の中に『使用したページを月日』として表示させる簡単な魔法である。今日開いたページも頭の中に表示されるものの、それは飛ばして引きこもった時期と最後に使用したページを頭の中で当てはめれば、自ずと雄太が最後に習ったページが分かるという寸法だった。


 ――はい、見っけ!


 彩花は頭の中で表示されたページを開き、それを雄太へ差し出す。


「あのさ、ここじゃない? 根拠とか全然ないけど、なんとなくここまでくたびれた感みたいなのがあって、ここから先はなんとなくまだ教科書を開き切ってないような感じがするんだけど……」


 そして、適当なことを言って、魔法を使ったことを誤魔化した。

 雄太も「え?」という風な感じで開かれた箇所を見ると、何かを思い出したかのように、「あ……」と声を漏らす。


「なんとなく、そんな気がしてきた。けど、そこも中途半端に習って終わったような気がするんだけど……」


 そんな風にそこもあまり覚えてないような状況だったため、


「当てがないよりはまだマシじゃない? それにここから先だったら、まだ新学期が始まってすぐの個所だから、あとでもすぐに覚えなおすことも出来るでしょ?」


 彩花はそうやって少しだけ雄太を納得させるようにゴリ押す。というより、自分がせっかく見つけた箇所以降を教えるとなると、自分のモチベーションが持たないような気がしてしまったからである。


「それもそうだね。自分じゃ分からないんだから、素直に彩花さんの指示する場所から覚えようかな……」


 ページを覚えているのなら拒否することも出来たが、それすら覚えていなかった雄太はあっさりとそれを受け入れる。

 それを聞いた瞬間、彩花は心の中でガッツポーズを思わず作ってしまう。


「じゃあ、そういうことで勉強をするとしますか! あ、疲れたらちゃんと言ってね? 休憩入れるからさ!」


 彩花はちょっとだけ上がったテンションでそう言うと、


「その前にちょっといい?」


 と、雄太が申し訳なそうに言葉を挟む。


 ――ヤバッ! なんか怪しまれるようなことしたかな!?


 挟まれた言葉が、『このテンションで何かボロを出してしまったのではないか?』と思わされてしまった彩花はちょっとだけ動揺しながらも、


「何かな?」


 なるべく声を表情にそれを出さない様に気を付けながら、雄太に聞き返す。


「スミレは今、どこらへん?」


 その質問の内容を聞いた途端、彩花はガクンと項垂れる。内容が内容だけに非常にくだらなかったからである。


「え? なに? そんなに落ち込むような質問した?」


 彩花が項垂れた様子に雄太は自分の質問が、そんなにがっかりするものだったかと不安になってしまったらしく、そう続けて質問した。


 ――焦った私の気持ちを返して欲しい……。


 そんなことを思いつつも、彩花は自分が思わず項垂れてしまったことに対する誤魔化しとして、


「そんなこと気にする必要ないでしょ? ううん、気になるのも分かるけど、気にしたところで追い付くのは大変だよ?」


 雄太がその差で傷付くように言葉を誘導する。もちろん、ここでそれでも知りたいと思うのであれば、迷うことなくその差を教えるつもりで。


「いいんだよ。どれくらいの差があるのか、知りたいだけだしさ」


 雄太からすればそれなりの覚悟があって聞いたらしく、さらに聞いてきたため、


「分かった。言っとくけど、この差は数学だけじゃないんだからね? そのことはしっかりと覚えておくように」


 そう言って、彩花は再び教科書を掴み、スミレが今学んでいる個所と雄太が教える箇所の差分を掴んで、その厚さを教える。

 所詮は教科書であるため、そのこまで分厚くはならないけれど、引きこもってしまった雄太からすればその差は結構あるように見えたらしく、


「うわぁ……そんなにあるの? って、他の教科もってことは……」


 ちょっとだけ青ざめた様子で突き付けられた現実を受け止め始める。


「現実ってこんなものだよ。まぁ、最低でも必修科目だけでも頑張って追い付かないとね。『学校に行けるように』なんてことは思ってもないし、雄太くんに強制するつもりはないけど、スミレちゃんに対して対抗心が芽生えてるみたいだし、それぐらいは頑張れるでしょ?」


 彩花は意地悪くさらに現実を突きつけると、


「う……やっぱりあの時、止めとけばよかったぁ……」


 と、先ほど彩花に言われた「引き戻れるとは思わない」という言葉が残っているらしく、雄太は弱音を吐きつつも、


「と、とにかく頑張る……。やれる範囲で……」


 最後に自信なさげにそう付け加える。

 それだけでも十分なやる気であると感じた彩花は、


「疲れたら疲れたでゲームしてもいいしね。それを考えると、学校よりは自由だと思うからがんばろッ!」


 家で勉強を教えるメリットを伝えて、雄太のやる気を少しでも持ち上げるように言った。いや、元より勉強尽くしにするつもりはなかったので、その言葉本心でもあった。


「え、いいの!?」


 しかし、雄太はずっと勉強尽くしの毎日になると思っていのか、その言葉に意外な反応を示す。


「当たり前でしょ? 最初から雄太くんにそこまでの期待はしてないよ。こういうのって徐々にが大事でしょ? というわけで! 今から少しでも進めるよー」


 彩花はにっこりと笑い、そう言って勉強を始めることを告げる。

 それだけでも雄太のモチベは上がったらしく、


「よろしくお願いします!」


 と、頭だけを小さく下げて、新品のノートを開くのだった。


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