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(5)

 しかし、そこで雄太の手はページを捲ったり戻ったり始める。

 その動作が意味する行動は――雄太がどこまで習ったのか、曖昧になっており、なんとなくでしか覚えていないということ。


 ――ブランクあるもんね、仕方ないよね……。


 彩花は雄太の行動を見ながら、そう思うことしか出来なかった。こればかりは悪いとは思えなかったし、忘れることは仕方ないことだと思っていたからだ。

 が、逆に雄太は彩花に見られてしまっている事に焦ってしまい、


「え、えっと……、ここ習ったような……あ、あれ? こんなの習ったっけ?」


 さらに混乱し始める始末。

 だからこそ、彩花はさっきまで心の中で燃え盛っていた怒りの炎もあっさりと鎮火してしまっていた。


 ――あ、そろそろ家に着くね……。


 そんな状態でもスミレのことは追跡していたため、家の前目前まで来たことを脳内映像で確認後、彩花は壁にかけてある時計をワザとらしく見て、


「そろそろスミレちゃんが家に着く時間だね。無事に家に帰ったかどうかの確認をするついでに、雄太がどこまで習った――」


 と、提案を言い終わる前に、


「嫌だ! それだけは絶対にッ!」


 雄太は強めの声でそのことを拒否した。


「そっか。じゃあ、それは聞かないから、スミレちゃんに電話してもいいかな? ちゃんと無事に帰ることが出来たか、聞いておかないと」


 雄太が拒否したことに関して、嫌がらせのように尋ねるつもりは最初からないため、あっさりとそれを受け入れる。

 しかし、雄太はそれが信じられないらしく、


「ここで電話してほしい……」


 と、変なことを言ったり尋ねたりしないか不安らしく、真剣な目で彩花を見る。


「オッケー、分かった。雄太くんがそう言うなら、ここで電話するね」


 元よりそのお願いに対して拒否するつもりもなかったが、ここで拒否をしてしまえば、雄太からの信用がなくなると踏んだ彩花は、そのこともあっさりと受け入れる。そして、テーブルの上に置いてあるスマホを取り、発信履歴からスミレに電話をかけた。

 「プルル…」とワンコール後、


『はい、もしもし。どうかしましたか?』


 と、少しだけ急いで帰ったのか、ちょっとだけ息切れした様子のスミレの声が彩花の耳に入ってくる。


「ちゃんと家に帰れたかの確認だよ。ほら、やっぱり私も()()も心配だからさ」


 ワザと雄太の名前を出すことで、自分の近くに居ることを知らせる彩花。

 彩花が伝えたいことはしっかりと伝わったらしく、


『そういうことですか。そんなに心配なら、ちゃんと送ってと伝えてください』

「あとでちゃんと伝えておくね! もう家に着く? 時計見たら、それぐらいかなって思って、電話したんだけど」

『はい、もう家の前です。心配してくださってありがとうございます』

「そっかそっか。それなら良かった」

『こちらこそです。今日は勉強を教えてもらってありがとうございます!』

「勉強の件は気にしないで! あれぐらいは何の問題もないから!」

『はい! あの……それで雄太は何をしてます?』


 彩花はそこで一瞬、言葉が詰まってしまう。

 スミレが雄太のことが気になるのは当たり前のことではあるけれど、このタイミングでその質問をしてくると思っていなかったからだ。

 雄太もまた彩花の表情の変化と声の間でスミレが何を言ってきたのか気付いたらしく、自分の口に立てた人差し指を置き、「しーッ!」と小声で注意に入った。


 ――そんなの分かってるって!


 言われるまでもなく、そのことを言わないと約束した彩花はそう心の中でそうぼやきながら、首を縦に振る。

 そして、呆れたようなため息をワザとつき、


「相変わらずのゲームだよ。それに付き合わされてて、ちょっとだけ休憩の意味を含めて、電話させてもらったの」


 スミレが返った後にまた下りてきて、ゲームに付き合わせられているような雰囲気を作り出す。

 さすがの彩花も返答まで間が開いてしまったため、怪しまれるかと思ったのだが、


『そ、それは大変ですね。お疲れ様です』


 そんなことはなく、スミレはあっさりとその言葉を素直に受け止めてくれた。


 ――もしかして、私の言うことは信じ切ってるのかなー……。


 思わずそう思ってしまうほど、スミレは受け入れてくれたため、彩花はそれに甘えることにして、


「しょうがないよ、それが私の仕事みたいなものだもん。じゃあ、そろそろ切るね! 雄太くんの目線が痛いから。おやすみ」


 これ以上、ボロが出ないようにそう告げると、


『はい、おやすみなさい! 心配してくださって、本当にありがとうございました』


 それだけ切って、彩花は電話を切った。そして、大きなため息を一つ溢しながら、


「本当に目線が痛いから、そんなに見つめないでよ。ちゃんと言わなかったでしょ?」


 と、ずっと睨みっぱなしで見てきていた雄太に不満をぶつける。

 そんな意識が自分の中ではなかったのか、


「ご、ごめんなさい……」


 と、素直に謝る雄太。

 しかし、彩花はそんなことはどうでも良くて、問題は雄太がどこまで習ったかについてだった。


「それでどうするの? 習った箇所を忘れちゃったって言うなら、だいたいの個所から教えるけど。てか、ノート……持ってきたノートが見るからに新品だから、古いのは捨てちゃってるよねー……」

「うん、なかった」

「今さらそれを咎めるつもりはないから安心していいからさ。どうする?」

「うーん……」


 そうやって雄太は悩むものの、回答が一つしかないことを分かっている彩花は、その答えを述べた後、魔法を使うことを密かに心の中で決める。


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