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(4)

 居間に着いた二人は自然と横に並び合う形で座る。

 自分がこうやって勉強をし始めることに羞恥心を隠しきれないらしく、雄太は落ち着かない様子で数学の教科書をペラペラと捲っていた。

 彩花はそんな雄太がちょっとだけ可愛く思えてしまい、自然と雄太の頭を撫でてしまう。が、その手はすぐに弾かれ、


「子供扱いするなっての」


 ちょっとだけズレた方向で捉えられた不満を彩花へぶつける雄太。

 今回ばかりはそのズレた方向で捉えられた気持ちを誤魔化すのも悪いと思った彩花は、


「ごめんごめん。でもさ、少しぐらいは落ち着きなよ? 勉強するぐらいで、そんなに動揺してどうするの?」


 素直に謝り、動揺しまくっている雄太に落ち着くように促す。


「……それもそうだね。うん、落ち着こう」


 そう言って、雄太は深呼吸をし始める。


「うんうん。それでちょっとだけ質問してもいい?」

「スミレの影響されたから」


 彩花が尋ねようとした質問の内容『どうして急に勉強をする気になったの?』に気付いた雄太は、ちょっとだけ気に食わない口調でそう答えた。


「あ、うん。そうなんだ。ありがとう」


 自分が尋ねる前に答えられたため、彩花はびっくりしてしまい、返答に対する返答が思わず棒読みになってしまう。


「何か問題ある?」


 その返答=不満と思ってしまった雄太は彩花を睨み付ける。


「問題ないよ。問題ないから落ち着きなさいって。この場にスミレちゃんが居たら、もっと大変なことになってたかもしれないけど、私しかいないんだよ? 何をそんな動揺してるのよ。私は雄太くんの担当者として、それを聞いてただけに過ぎないんだからさ」


 先ほどからの羞恥心からのちょっとしたケンカの売り方に、さすがの彩花も飽き飽きしてきたため、そう文句を漏らすと、


「しょうがないじゃん。ボク自身、こうやってこんな行動に出ると思ってなかったんだもん」


 雄太もまた自分の行動に対する生まれつつある矛盾に助けを求めるような声を出し、彩花がいる反対方向へ顔を向けることで逃げようとしていた。


 ――突発的な行動によって、後から来る後悔が来てるのね。


 勢いから来る行動の後悔なんてものは彩花も何度も体験してきたため、その気持ちはよく分かった。よく分かったのだが、それに対する述べられる救いの手はなかった。なぜなら、それもまた自分の心がどうやって吹っ切るかによるものが多いからだった。けれど、そんな雄太にかけられる言葉は、


「勢いでもいいんだって。私は雄太くんのことを信じてるからさ。失敗したって助けてあげるんだから」


 そんな雄太の行動を信じてあげられることを伝えるだけだった。

 その発言に雄太はプッと軽く噴き出し、


「それはちょっと臭くない? 良くある言葉だけどさ、まさか本当に言われると思ってなか――」


 そう言っている最中に彩花の遠慮のない平手打ちが雄太の頭へと飛び、


「痛ッ!」


 雄太は叩かれた箇所を触りながら、痛みを訴える。同時に全力の平手打ちをされると思ってもいなかったらしく、目を丸くし、驚きから目にはうっすらと涙が浮かび始めていた。


「人がせっかく励ましてるのに茶化すのが悪い」


 彩花もまた一人の人間であるため、雄太の発した発言に怒りを覚えたことを言葉で伝え、今度は彩花が雄太から顔を逸らす。そして、その怒りが尋常じゃないことを伝えるために、ワザと動き、雄太との間に距離を作った。

 さすがの雄太も自分の発言が地雷を踏んでしまったことに気付き、


「ご、ごめんなさい。励ましてもらってるのに、変なこと言って」


 と、初めて弱気を見せる形で顔を俯かせる。

 それを横目で見ていた彩花は、


「それで? 雄太くんはどうしてもらいたいの? ちゃんと言葉に出しなさい」


 怒りを含んだ口調で、これからしてもらうことに対しての言葉を言うように指示した。

 そう指示したのは単純に雄太の口から、そのお願いを聞いていないからである。そして、それを言わせることで、指導する側と受ける側をはっきりさせようと思ったのだ。なんとなくだが、雄太にはその気持ちを忘れているような気がしたための発言だった。

 ここで下手に反抗すれば、今後勉強を教えてもらう機会がなくなることを悟った雄太は、


「べ、勉強を教えてください。お願いします」


 彩花の指示通り、自分がしてもらいたいことを言葉にした。先ほどと同じように頭を少し下げて。

 それを聞くことが出来た彩花は胸の中に溜まっていた怒りを吐き出すように、大きなため息を一つ漏らし、


「よろしい。というより、スミレちゃんもそれを言って私に勉強を教えてもらうんだから、今度からちゃんと言うこといい?」


 今度からしっかり上下関係を作ることを命じた。

 それに対しても雄太は反論することが出来ず、「はい」と返事をするだけになっていた。


「ほら、勉強するよ。雄太くんはどこまで学校で習ったか、覚えてる? そのページを開いて欲しいんだけど」


 そして、雄太に教科書を開くように言うと、雄太は落ち込んだ表情のまま教科書をペラペラと捲り始める。


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