(3)
室長の返答を聞いた彩花は「んー」と唸った。
その唸りが、あまり納得してないことは分かった室長は、
「何を納得してないんだよ?」
と尋ねると、
「いやー、初めて行くと親御さんにすっごい変な目で見られるですよねー。一応、対象者の好みの感じで行ってるんですけど……。やっぱり室長みたいなスーツ姿で最初は行った方がいいですかね?」
あっさりと私服で言っていることを暴露した。
現場でのやり方は彩花に完全に任せっきりにしている室長にとって、その発言そのものが初耳であり、信じられなかった。
この場所は別に私服でも良かったのだが、現場ぐらいはちゃんとしていると思っていたからである。
そんなびっくりした室長の雰囲気から、彩花は地雷を踏んだと確信。が、間近まで距離を詰められていたせいで逃げられないと判断し、
「て、てへ……」
と、自分の頭をポカッと軽く叩き、そのまま舌を出すことで誤魔化そうとした。
しかし、そんな誤魔化しが通用するはずもなく、室長は彩花の頭をベシッ! と強めに叩く。
「痛ッ! ぱ、パワハラッ!?」
叩かれたことに対し、不満を露わにする彩花。
「注意だよ、バカッ!」
速攻で室長は言い返す。
「こ、言葉の暴力もッ!?」
「うるせぇ、このバカッ!」
「職場的にそれダメなはずなのに、それ言っちゃいます!?」
「バカにバカと言ってなにが悪いッ!」
「ちょ、バカバカ言い過ぎですって!」
「バカだからいけないんだろッ! 親御さんに初対面の時ぐらいはちゃんとしろッ!」
「……ですよねー。今回からは気を付けます」
さすがにこのやりとりで反省しないわけにはいかないと思ったのか、彩花はあっさりとこの件からはちゃんとすることを認め、軽くだが頭を下げる。
さすがに頭を下げた時点で室長もこれ以上起こるつもりはなかったため、
「それならいい。ったく、無駄な時間を食ったな」
そう言いながら振り返り、自分のデスクへと戻り始める。
「じゃあ、私も検索しましょうかね! あ、そのポテチどうぞ! 私の食べかけですけど」
彩花もそれだけ言い残す形で隣の部屋への扉を開け、そのまま流れでバタン! とドアを勢いよく閉める。
室長は自分のデスクに寄る流れでポテチの袋を取り、自分の席へ戻る。そして、残されたポテチがもったいなため、書類の続きをする前にコーヒーのつまみとして食べようと袋に手を入れる。
その時、彩花が入っていったはずのドアが少しだけ開き、顔を出した彩花が、
「私が食べていたからって、変な想像しないでちゃんと食べてくださいよー」
それだけ言い残し、また扉の奥に顔を隠した。
その発言と共に室長の動きは一瞬止まってしまう。がすぐに再開した動きは、ポテチに入れていた手を抜き、それを力の限り無理矢理丸めると、自分のデスクの近くにあるそれを入れることだった。そして、温くなったコーヒーを一気に流し込み、目の前にある書類に取り掛かり始めた。
その時の室長の顔が鬼の形相であったことは言うまでもない。