(12)
その食事の時間もすぐに終わり、雄太が一口分のオムライスをスプーンで口に運ぶ。そして、口に入れたところで、
「そういや、スミレの機嫌って直ったの?」
モグモグと食べながら、彩花へと聞いた。
すでに食べ終わっていた彩花はスマホを弄っていたが、そんな風に聞かれたため、
「せめて、喉に流し込んでから聞いてよ」
顔を雄太へ向け、ジト目の視線を向けながら、そのことを注意した。
雄太はその注意を真摯に受け止め、コップに入ったお茶で流し込み、
「ごめんごめん。それでスミレとは仲直り出来たの?」
と、もう一度彩花へと問いかける。
「うん、仲直り出来たよ。というより、雄太くんを引きこもりから脱する手伝いをしてくれるって言ってくれた」
夕方のことを全部話せるわけもなく、彩花はそう簡単に雄太へと説明。
それを聞いた途端、雄太の顔色が少しだけ悪くなる。
過去に引きこもった際に色々とお節介なことをされた記憶が、頭の中に浮かんできたせいだった。
それを彩花が分かっていないはずもなく、
「大丈夫だよ、ちゃんと注意とかしておいたから。さっき雄太くんが私に聞いたことみたいなのはしないと思うよ?」
注意したことを伝えるも、
「ちょっとしたことで怒りスイッチを踏み抜くと、スミレの奴、ムキになっちゃうからなー。注意されたことを忘れて言ってきそうなんだけど……」
どんなことで自分が地雷を踏み抜いてしまうのか分からない裕也は、起こった際のスミレが怖いらしく、身体を後ろに逸らし、手で身体を支える形で憂鬱そうに天井を見上げる。
地雷をあっさりと踏み抜いたこと様を夕方見ていた彩花は、
――そりゃー、スミレちゃんの好意に気が付いてないと簡単に踏み抜いちゃうよねー……。
呆れた目で雄太を見るも、そのことを確認しないといけないと思い、
「ねぇねぇ、雄太くん。よくドラマやゲームとかであるじゃない? 幼馴染同士の恋愛とかさ。あれってあり得ると思う?」
スミレをどう思っているかより、まずはそのことに対して尋ねた。もちろん、この会話から雄太が『スミレのことをどう思っているのか?』ということを気付くことを覚悟のうえで。
「んー」とその体勢で唸っていた雄太はそのまま後ろに倒れ、仰向けの体勢になってから、
「ありなのはありだと思う」
と、幼馴染同士の恋愛を肯定した。
――雄太くんからしたらありなんだ。
スミレにもワンチャンがあると分かったため、少しだけ彩花も嬉しくなりながら、
「なんでありなの?」
その理由について聞いてみることにした。
「そういうのって止められないでしょ? 止める権利もないと思うけど。よく言う『関係が崩れるのが怖くて、一歩が踏み出せない』っていうだけであって、それさえ怯えなければ問題ないと思う」
そして、恋愛のことを分かっているような風な雰囲気で雄太は答える。
その回答に彩花は思わず拍手しながら、
「よく出来ました。てか、そういうところは大人なんだね!」
素直にその回答が正解(?)であることを認めた。
その言い方が気に入らなかったのか、雄太は身体を起こし、
「いやいや、普通に考えれば分かるでしょ? っていうか、こういうところが大人って……」
そこで自分の年齢を考慮したところで、
「まだ大人じゃなかった。成長段階だったから、何も言えないや。変な風に言ったところで、丸め込められるのが分かってるし」
あっさりと口で負けることを認め、再びその場に仰向けに寝転がってしまう。
その部分を想像されるとは思っていなかった彩花は、苦笑いして誤魔化すことしか出来なかった。きっと、雄太の言う通り、どうにかして丸め込んでいるような気がしたからである。
「そんなことよりも、私が聞きたいことって分かってるよね? いや、言っちゃうけどんさ。スミレちゃんのこと、どう思ってるの?」
雄太が察していようが察していまいが、そのことについて尋ねると、
「お節介な幼馴染……かなー……?」
と、模範解答が返ってくる。
――そりゃ、好意を持ってたら、お節介にもなるよねー……。
好きだからこそ、そうなってしまうことを分かっているため、「うんうん」と同意することしか出来なかった。そして、口調からして微塵も恋愛感情を持っていないことを気付いた。
「雄太くんが引きこもってから、色々と雄太くんの気に障るようなことをしてきたから、そうなっちゃったんだろうねー。それでも、その気持ちが心配から来るものだから、しょうがないことなんだけどさ」
だからこそ、彩花はどっちつかずの状態の返事を答える。
そこで雄太が少しだけ真剣な声で、
「あのさ、やっぱりスミレはボクのことが好きなのかな?」
と、彩花へと尋ねる。
この会話上、そう気付かれることは当たり前であり、そう意識してしまうことも分かっていた彩花にとって、その質問はいつか来るものだと分かっていたため、
「そうなんじゃないかな?」
曖昧に答えた後、
「もし、私がその気持ちに気付いてたり、そのことをスミレちゃんの口から聞いてたとしても、私はそれに対してどうこう言うつもりもするつもりもないよ。だから、雄太くんが思うような恋愛の手伝いはしないから安心して」
今後、自分が恋愛に関して動くことはないことを断言した。
「へー……意外。そういうのにノリノリで手伝いすると思ってたのに」
そういう風な行動をすると思っていた雄太は少しだけ動揺した声で、そう口に出す。
――意外と私の性格、分かってきてる?
雄太の言う通り、彩花はそういう話は大好きだった。が、今は仕事中であり、私情を挟めば、今後のことに影響するため、そうしないだけ。これがプライベートであれば、間違いなく乗っかっていることは確定されていたからだ。
「それが雄太くんの引きこもり生活の改善になるのであれば……するかもしれないけど、『お節介な幼馴染』って言ってる時点で、今はないってことだね」
「今後の状況次第ってことかー。……嫌いってわけじゃないからいいんだけどさ、彩花さんが本気を出せば、くっつけられそうで怖い」
雄太はそう前置きしたうえで、彩花がそうしてきそうな気がしてしまったのか、身体を一度ブルッと震わせていた。
「ないない。そこまで私に怯えないでよ」
雄太の言う通り出来なくもないのだが、他人の気持ちを無視してまでのくっつけ方をするつもりは一切ない彩花は、そのことを即座に否定した。
が、雄太はその言葉を信じていないらしく、
「そうやって誤魔化すんだから」
と、小さな声で彩花の否定の言葉を否定するのだった。




