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 屁理屈・こじつけであることは分かっていたものの、あっさりとそう思わされたことで、雄太は情けなくなり、


「分かったよ。スミレの時とは違うけど、こうやってボクをそう思わせることが出来るんだから、きっと出来たんだろうね」


 さっきまでの敵意がどこかに去ってしまったことを認めた。そして、言い負かされたことが悔しいらしく、不貞腐れた様子でオムライスを再び食べ始まる。


 ――簡単に引っ掛かってくれてよかったー……。


 その様子を見ながら、彩花は心の中でホッと安堵のため息を漏らす。結構無理矢理だったため、変な風に疑いをもたれ続ければ、最悪魔法を使わないといけないような気がしたからである。しかし、そんな様子を見せるわけにもいかず、彩花もまた同じように残ったオムライスを食べ始める。


「あ、そうだ……」


 そこで、雄太は何かを思い出したらしく、そう声を出す。

 ホッとした一息後の雄太の反応だったため、彩花の身体はその言葉に全力で反応してしまい、ビクン! と身体が震える。そのせいで、スプーンの中に納まっていたオムライスがオムライスの上に落ちてしまう。


「え? どうしたの?」


 今までそんな様子を見せようともしなかったのに、急にそんな反応をした彩花に雄太はびっくりして、自分が意識しない内に彩花へそう尋ねてしまっていた。

 もちろん、その瞬間から彩花はちゃんと言い訳を考えてあり、


「さっきの私みたいに不意打ちかけてくると思って、思わず身体が身構えっちゃっただけ。私がやり方を教えた時点で、雄太くんも時間をかければ、それが出来るってことだからさ」


 そう気持ちを切り替えるようにして、落とした一口分のオムライスをスプーンで再びすくい、それを口に運んだ。


「……出来るのは出来るかもしれないけど、さすがに彩花さんみたいに自信を持ってまでは出来ない。そんな自信があるならさ……ううん、何でもない」


 自分が引きこもってしまったことを脱する理由の一つに、それが原因であると分かっている雄太はそれを認めながらも口に出したくないらしく、その会話を切ってしまう。

 それが逆に彩花もちょうど良かったため、その会話を蒸し返すことは止め、


「反応的にまた何か質問? さっきから言ってるように、私に答えられることなら何でも答えるけどさ。なんなの?」


 再びスプーンを置いて、再び話を聞く姿勢になる。


「そうそう、次の質問は昼間にしようとしてたやつ」


 彩花の行動に倣うように、スプーンを置く雄太。

 そのことを覚えていた彩花は、


「そうだね。まぁ、私からすれば、こっちの質問の方が気になってたんだけどさ」


 トレイを少し前にずらし、テーブルの上に左腕を置き、右手で頬杖をつく。


「そんな様子一つ見せてなかったじゃん」


 まさか気にしていると思ってもいなかった雄太はそう愚痴ると、


「質問される側なのに、それを聞いたところで言わない可能性だってあるからね。ほら、よくある『やっぱりいい』とか言っちゃってさ」


 それが気に食わないかのように、「ケッ」とバカにしたような反応を彩花は取る。

 雄太はその反応に対して、苦笑いを溢すことしか出来なかった。そういう反応を過去に何回か取ってきたことを思い出してしまったからである。


「大丈夫。今回は言わないから。改めて質問するけどいい?」

「オッケー」

「ボクの引きこもりをなんとかするために来たんだよね? だったら、なんで『そろそろ学校行かない?』とか言わないの? いや、なんか違うかな?」


 雄太はそこで「んー……」と唸り、自分が伝えたいことと言いたことが違う気がしたらしく、そこで言葉を止めてしまう。


 ――口出ししていいかな?


 言いたいことがなんとなく分かった彩花はそこで口を出しても良かったのだが、それでも雄太が頑張って伝えようとしているため、


 ――やっぱり止めとこ。


 そう思い、口を挟むことをあっさりと諦める。

 当の本人の雄太は上手く伝えるには自分が知っている言葉では足りないことを自覚したのか、


「とりあえず、お母さんやスミレみたいに『学校に行こう』とか言わない理由を聞きたいんだよね」


 と、伝えたいことを簡単にまとめた。

 その質問を分かっていた彩花は「プッ」と吹き出し、


「質問の答え自体は雄太くんが一番気付いてると思うんだけどなー……」


 意地悪く質問し返す。


「どういうこと?」

「『雄太くん、もう引きこもり辞めて、学校行かない?』」

「……嫌だ。無理、行きたくない」

「ほらね。そう言われる時点で言ったところで意味がない。だからこそ、言わない。というより、それを一番言っちゃいけない言葉だって分かってるからね」


 彩花はそう言って、ウインク。

 それは夕方、スミレにも言わない注意したことでもあった。その言葉は気安く、他人事で、誰でも言える言葉だからこそ、責任なく言えてしまう。それを感じ取っているのか、それとも聞き飽きたのかは分からないけれど、対象者は反発するように「行かない」と返すのが当たり前の返し言葉。だからこそ、彩花は言わないのである。

 それにこういう仕事自体、『対象者の心に少しでも寄り添い、物事を一緒に考えてあげる』ことが一番であるため、最も必要のない言葉でもあった。

 そんなことを知らない雄太は、


「やっぱり彩花さんは他の人と違うや……」


 敬愛の視線を彩花へと送る。


「それはどうも」


 が、この行動自体が業務内容の一つと化しているため、雄太にそんな風に見られるとちょっとだけ胸が苦しくなったような気がした彩花は、困ったように笑いながら、そう返すことが精一杯だった。


「とにかく冷えたらまずいし、さっさと食べちゃおっか!」


 そして、テーブルに置いていた腕を退け、遠ざけていたトレイを引き戻して、再びオムライスを食べ始める。


「そうだね」


 雄太もそれに倣い、オムライスを再び食べ始める。心が軽くなったところで食欲も湧いてきたらしく、スプーンを動かす手は今までより軽くなっていた。


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