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 あの後、今後のことについての打ち合わせを話し終わり、彩花が家に帰ると雄太は自室に戻っていた。

 それは、二人ならまだしも一人なら居間に居ても、電気代の節約にならないと思ったのか、それともスミレが色々と面倒な展開を作ってしまったため、部屋にまた引きこもらざるを得ないような雰囲気になってしまったのか。そのどちらかとは思った彩花だったが、どっちかまでは分からなかった。が、「ただいま」と挨拶をすると、「おかえり」と挨拶が返ってきたため、さほど気にすることもなく、彩花は夕食作りの準備をしておくことにした。

 そして時は経ち、時間は七時過ぎ。

 彩花がオムライスを作り、それを食べるように、


「オムライス出来たよー」


 と声をかけると、雄太は無言で部屋のドアを開け、居間へと下りてきた。

 そして、いつものように向かい合うようにして置かれたそれぞれの夕食の前に座る。


「今回はおかずがなくてごめんね!」


 目の前に置かれたオムライスと少量の野菜を目の前にして、彩花はそう雄太に謝る。が、そうしただけの理由が彩花にはあったのだ。

 しかし、雄太はそれに関心を示したわけでもなく、


「いただきます」


 と小さく呟く。その流れで、目の前に置かれたスプーンに手を伸ばし、そのままオムライスの端に差し込む。それに従い、差した場所からジワッと卵の柔らかい部分が流れるも、それにも関心を示さず、一口分をスプーンですくい、口へ運ぶ。


「ん、美味しいよ」


 そして、感情が一切入っていない様子で、その言葉を彩花へと伝えた。


「……そ」


 だからこそ、彩花もそう冷たく返し、自分の分のオムライスにスプーンを突き立て、自分の口へ運んで、食事に勤しむことにした。

 別に雄太の感情の籠っていない感想に腹を立てたわけではない。別に感想が欲しくて作ったわけでもなく、お世辞で「美味い」と言われたいわけでもなかった。単純に、何か隠しているのに、それを素直に言ってこないことに不満が溜まってしまったのである。だから、居心地の悪い空気をワザと作ったのだ。

 こうして二人はこの四日間の中ではあり得ないほどの沈黙の中、食事を摂った。が、この四日間がくだらない会話でも、それなりの楽しい空気を彩花が作ってきたため、その違和感をどうにも拭い去ることの出来なかった雄太が半分ほど食べたところで、スプーンの動きを止めた。


「あのさ、聞きたいことがあるんだけどいい?」


 そして、敵意を向けた目で彩花を見る。

 彩花もそれにつられるように、スプーンをオムライスの入っているお皿の中に置き、


「何? 『答えられることは答える』。昼間にそう言ったよね? だから、ちゃんと答えるよ?」


 真っ直ぐな目で雄太を見た。

 普段ならここで雄太は顔を逸らしてしまうのだが、今回はそんな様子一つ見せずに、ジッと彩花を見ていた。


「聞きたいことはたくさんあるんだけど、一番に聞きたいのはスミレに何をしたのかってこと? 昼間の事、忘れたとは言わさない」

「スミレちゃんに……あー、あの無理矢理納得させた件について?」


 彩花はスミレにはその件について話し終えていたため、雄太にも話し終えていた感覚になってしまっていたが、雄太にはその件について何も話し終えていなかったことを突如に思い出す。


「そう、それ。いったい何をしたのさ?」

「何を……あの時、目配せで『説明する』って言ったけど、ちょっと難しい言葉使うから、ちょっとだけ考えさせてくれない?」

「……分かった」


 話すこと自体の拒否ではなかったため、雄太は少しだけ納得いかないような雰囲気だったが、すぐにその許可を出す。が、その間もずっと敵意を向けた目で彩花を見続けていた。


 ――さぁて、なんて話したものかな……。


 スミレの時のように、自分の正体をバラして納得させる方法が説明する中で一番手っ取り早いのは間違いなかった。が、雄太にはそれをバラすわけにはいかないのも事実。

 もし、そのことをバラしてしまえば、『魔法の力で引きこもりから脱してくれた。魔法の力は人の気持ちをも変える』と捉えられてしまうからである。事実、それが出来ないわけではない。何よりも、それを形として行ったのがスミレの件だからだ。

 それは彩花がしていることとは大きく外れ、雄太のためにならないことが分かっており、そんなことではまた引きこもりに戻る確率が上がるだけ。つまり、自分の力で立ち直ってこそ、本当に引きこもりを脱したとは言えないからである。


 ――当初の予定通り、誤魔化すしかないよねー……。


 どう考えても、それ以外思いつかなかった彩花は、右手をスッと雄太の視界の入る位置へ掲げる。


「この手、見てて?」


 雄太は目に見えるほど、頭の上に?マークを浮かべるも、彩花の言葉に従い、掲げた右手へ視点を移す。


「いくよ?」


 そして、そのまま何もしないまま、


「はい、何もないです」


 と、あっさりと終わらせる。


「あん?」


 明らかに雄太の表情に怒りが満ちる。 

 それもそのはずだった。何もない状態で視点を移させた後、そのまま何もない状態で終わらせたからである。

 しかし、それが彩花の狙いでもあった。


「怒るのも無理ないけどさ、なんでこの手を見たの?」

「は? そう言われたから。そして、何かあると思ったから」

「うん、だよね。私がそう言って、思わせて、期待させたからだよね?」

「そうだね。てか、何が言いたいの?」

「これを応用させた技で、私はスミレちゃんを納得させたって言ったら分かる?」

「……え?」

「だから、こういう感じで無理矢理納得させたの。ううん、そういう方向に私が持っていったって言ったらいいかな?」

「……」


 雄太はそこで沈黙してしまう。それは呆れたというよりも、何か思慮深く考えているような雰囲気だった。


「そんなこと出来るのかよ?」


 しかし、そのことに納得出来ないらしく、雄太はそれを疑問に思い、彩花にそのことを試すように口に出す。


「出来なくもないかな? まぁ、現在いまの雄太くんにはネタ晴らししたし、すぐに疑いをもたれちゃうから失敗するだろうけどね」


 けれど、彩花はそう言って、情けなくため息を溢しながら、今からそう思わせることが出来ないことを述べると、


「ほら、やっぱり。いい加減、本当のことを――」


 彩花がそう言うことが分かっていたかのように、そう言ったところで、


「――って思わせることも出来るわけでしょ? 先入観って怖いよねー。屁理屈ではあるけどさ」


 と、先ほどの様子が演技であることをあっさりと暴露。

 瞬間、「あ……」と漏らした後、雄太は自分があっさりと彩花の演技に飲まれたことに気付く。


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