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(6)

「でも、さっきはそのこと、誤魔化そうとしましたよね? なんでですか?」


 座り直してすぐにスミレは彩花にそのことについて尋ねた。

 彩花はその質問が来ることが分かっていたため、困ったように頭を簡単に撫でながら、


「いやね、ちょっと雄太くんに言えないことがあったからさ。自然と誤魔化す方向に持っていくしか出来なかったんだよね。それにあの状況って、スミレちゃんにとっては冷静にはいられないでしょ? だからさ、どっちみち話したところでちゃんと聞いてくれないかなーって思って」


 あの時の状況をしっかりと把握していたことを伝える。

 スミレもあの時の状況では自分はちゃんとその話を聞き、信用することが出来なかったという確信が持てたのか、顔を俯かせ、


「ごめんなさい。ですよね」


 と、彩花の言葉が間違ってないことを素直に認めた。


「ごめんなさい、それは私もだよ。だから、顔を上げて。ごめんね、変なウソをついたり、それを無理矢理納得させるような方法を取らせちゃってさ。本当は丸く治めるつもりだったんだけど……やっぱり無理だったね」


 彩花もまたスミレが頭を上げたことを確認後、自分もまた頭を軽く下げ、すぐに上げる。


「っと、お互いが謝罪ばかりしてても話は進まないから、今私たちがしていることについて話すね?」

「はい、お願いします」

「そうは言っても、私たちが行動してるのは二つだけなの。一つ目は雄太くんのお母さんの避難と隔離。二つ目は雄太くんを学校へ通う気になれるような環境作り。この二択だけだから、そう深く話すことはないんだけどね」

「おばさんの避難と隔離って……」


 スミレも彩花が雄太の母親を避難と隔離させた理由について分かったらしく、その考えが間違っていないか、彩花の目を見る。

 言葉にしなくても、その考えが間違っていないことを認めて、素直に頷く。


「そういうこと。雄太くんのお母さんの甘やかしをなんとかしないことにはなんともならないし、何よりも雄太もそれに甘えちゃうから。まぁ、母親って娘よりは息子には甘い生き物だからしょうがないことではあるだけどね」


 そんなことを言いながら、彩花は困ったように笑い、ちょっとずつ夕暮れに染まろうとしている空を見上げる。

 スミレはそんな物思いにふける彩花に、


「何か思い当たることがあるんですか?」


 と、考えるより前に質問してしまい、


「あ、すみません! 何か余計なことをッ! い、言わなくても大丈夫ですッ!」


 慌ててそう付け加えた。

 彩花は首を横に振った後、スミレを見て、


「最初の……初めて持った引きこもりの人のね、ちょっとした――かなりの失敗した話だよ。もうあんなことはないようにしないといけないほどのね……」


 全ては語るつもりはなかったため、ごく簡単にそう話した。

 彩花の雰囲気から、そのことを悟ったスミレもまた詳しくは聞こうとはせず、


「そうですか……。大変だったんですよね……」


 同情するような形で、その話を終わらせるような流れに持っていった。


 ――こういうと余計に気になるよね。分かるけど、ごめんね……。


 スミレの様子や仕草からその話を聞きたくなっているような状態は分かったが、こればかりは話すわけにはいかなかった。いや、愚痴のような感覚で話すことは出来たのだが、自分のトラウマをスミレも負い、重荷になってしまうような気がしてしまったからだ。つまり、これから雄太の引きこもりの手伝いをしてもらうのに、支障が出るような気がしたからである。だが、こんな状態のスミレはずっと気になってしまうのも分かっているため、


「もしね……もし、話すタイミングがあったら、その時のことを話してあげるね? 今は無理ってことでいいかな?」


 こう言って、スミレの気持ちをフォローしておくことにした。

 それだけでも『いつか話してくれるかも?』というちょっとした期待が湧いたのか、


「はい、ありがとうございます」


 と、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「んで、私のトラウマよりもこの状況のことについて聞かなくてもいいの? さっきまでは怯えてたのに、もう大丈夫になったみたいだけど……」


 そして、改めてこの状況についてのことをスミレに聞くと、


「あ……でしたよね……。すっかり忘れてました」


 そのことを思い出したようにスミレは、今さらどんな対応をとったらいいのか、悩み始める。

 それがおかしくて、彩花は口元に手を添えて、軽く噴き出した後、軽く笑ってしまう。


「いいよいいよ! そんなに無理に警戒しようとしなくてもね! 私たちは職業柄、簡単に他人ひとの心を開かないといけないの。だからさ、スミレちゃんがさっきまでの警戒を忘れて、心を開いちゃうのは当たり前なんだよ」

「え……あ、そ……そうですよね! この変な空間を作り出された時や、ここに来るように言われた時は怖かったし、出会った時は不信感がいっぱいでしたけど……話してみると話しやすくて、思わず……」


 スミレもそれに乗っかるように苦笑いを溢し、彩花が信頼に値する人物であることをあっさりと認めた。が、そのことに対し、何かを疑問を持ったようにハッとした表情を浮かべ、


「それも彩花さんの持つ不思議な力なんですか?」


 疑っているような雰囲気ではなく、興味から来るような雰囲気で彩花に尋ねた。

 その質問に対し、彩花はあっさりと首を振る。


「これはスミレちゃんの考える能力じゃなくて、人柄の方の能力だね。誰とでも友達になれる人ってたまにいるでしょ? そういう体質なの」

「あ、そうなんですか」


 彩花の回答にちょっとだけ期待していたらしく、彩花はがっくりと肩を落としてしまう。


「そんなに落ち込まないでよ。私の能力について教えるからさ」


 が、彩花はすぐにそう付け加える。

 スミレもその発言に反応し、興味津々で彩花へと顔を向けた。

 さすがにそこまで期待されたところで、大した話にはならないことが分かっている彩花は困ったように笑い、


「そんなに期待しないでよ。私の能力っていうか正体が『魔法使い』なだけだからさ」


 と、自分の使ってきた能力の正体を明かす。

 瞬間、スミレは「え?」という声と共に少し強張った表情になってしまう。

 それは少しだけまた湧き上がってきた恐怖から来るものだと彩花にはすぐに分かった。


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