(3)
居間に着くと、自然と彩花と裕也は隣り合うように座り、スミレは二人と向かい合って座るような形になった。それが気に入らないらしく、スミレはキッ! と鋭い目で彩花を睨み付ける。
――これに関してはどうしようも出来ないよね、私は……。
こういう風に座る形になったのは彩花のせいではなく、そう雄太が決めたせいだった。いや、正確にはスミレと向かい合うように座ろうと先に座った結果、雄太が彩花の隣に座ったため、彩花は逃げることが出来なくなってしまったのだ。
「何をそんなに睨んでるんだよ、スミレ」
何を睨んでいるのか、そのことを理解していないらしく、スミレにそう問いかける雄太。
雄太が鈍感であることは幼馴染だからこそ周知しているため、
「そんなことはどうでもいいの! なんで雄太が自分の部屋じゃなくて、下でくつろいでたのか教えてよ」
そのことに関しての話はスルーさせる方向で、近くに置いてある充電器を一瞥した後、自分が一番聞きたい質問を雄太へとぶつける。
「ボクの自由だろ、それ」
「そうだけど、それなりの理由がないと部屋から出てくるわけないじゃん。その理由を教えて欲しいの!」
「……それはそうだけどさ」
雄太はその理由について、答えられる範囲と答えられない範囲が半々のように混じっているらしく、上手くいい出せそうになった。そのため、
「あー、それは私が話そうか?」
彩花が遠慮がちに挙手する。
スミレの方も彩花がその理由の一つとして分かっているが、彩花の口からは聞きたくないらしく、
「けっこ――」
と、拒否の姿勢も見せようとするも、
「じゃあ、お願いします」
裕也が逸れに被るようにして、彩花がそのことについて話す許可を出した。
「ちょっ、雄太!」
テーブルをバンッ! と叩いて、そのことを注意するも、
「ボクが上手く話しにくいんだから、話しやすい他人に頼むのが一番だろ? っていうか、何をイライラしてるの?」
むしろ、何にイライラしているのか理由すら教えないスミレに対し、雄太が少しだけイライラし始める。
今まで機嫌が良かった雄太が少しイライラしてきたことに気付くスミレは、再び部屋に引きこもられては困るという判断から、自分が怒りを飲み込むことが一番の選択だと判断し、
「分かった。彩花……さん、でしったっけ? 説明お願いします」
と、彩花が説明することを承諾した。
彩花は二人のピリピリする状態の中、
「あ、ありがとう。え、えーとね……私は雄太くんのお母さんに頼まれてやって来た遠い親戚だって言ったよね? お母さんはちょっとお婆ちゃんの調子が悪くて、それをしなきゃいけないから、私がここに来たの。その中に『引きこもりもなんとかして欲しい』ってお願いがあったから、それを実践したら……こうなったわけなの」
彩花は対スミレとして当初から考えていた話を話す。
雄太もこれがウソだとは分かっていても、彩花のウソに乗っかる方が正解だと分かっているため、
「あー、お婆ちゃんの体調悪くて出かけたのか……。それは知らなかったなー。言ってくれればよかったのに……」
と、自分もそのことをあっさりと認める。
「だって寝てたしね。言ったところで、ぶち切れて、お婆ちゃんの家に電話して、お母さんに文句言うでしょ? だから、言えなかったの。スミレちゃんがいるから正直に言うことしたけど……」
如何にも雄太がそのことで電話しまくりそうな状況が見えるように話す。
「そうなんですか……。お婆ちゃんの体調の方は大丈夫なんですか?」
スミレはそのことに対して、なぜかまだ疑いを持っているらしく、そのことについて彩花へと尋ねる。
――あー、これはマズいツッコミを……。こうなると仕方ないか……。
彩花はスミレがここまでの疑いを持ってくるとは予想しておらず、そもそも状況が状況で最悪なため、変な風にボロを出すのはマズいと判断。そのため、彩花はスミレの目を見ながら、ほんの一瞬目を光らせる。
「うーん、連絡がまだないねー。何かあったら連絡が来ると思うし、雄太一人が家にいるわけじゃないから、気分転換でもしてるんじゃない?」
そして、スミレの質問に対して、それっぽい言い訳を話す。
雄太でさえ、彩花のこの言い訳は苦しいと感じていたにも関わらず、
「……そうですかね? 確かに連絡がないのは、元気にしてる証拠とかいう人いますけど……」
スミレはあまり納得していなかったが、少しばかり自分の知っている知識と照らし合わせたかのような反応を取り始める。そして、何を思ったのか、
「まぁ、この件に関しては納得するしかなさそうですね。実際、おばさんが居ないのは事実みたいですし。それに、雄太が下にいる以上、なんとかしたって判断した方が良さそうですから」
スミレはしょうがないと言わんばかりに、これを納得してくれた。
「は、はぁ!? 今ので納得するのかよッ!」
そんなスミレに突っ込む雄太。
その瞬間、スミレの鋭い目が雄太へと向けられる。
「何、納得したらいけない? 雄太が彩花さんに説明を丸投げして、彩花さんがそれを話してくれたんでしょ? 冷静に考えれば、雄太のお婆ちゃんのお世話に忙しくて、なかなか電話出来なかったりしてるだけかもしれないって考えれば、何もおかしいところないよね?」
「そ、そりゃそうだけどさ……」
その鋭い目が自分に向けられると思っていなかった雄太は、一瞬たじろぐ。そして、もっともな説明に無理矢理納得させられる形になってしまう。
が、雄太もそれは見せかけであり、彩花が何かしたと察したのか、彩花をチラッと見る。その目には「あとで説明しろ」という怒りにも似た感情が、彩花へと向けられていた。
――分かってるって。っていうか、説明するつもりがないと使わないよ。
彩花はそれを前提に能力を使っているため、小さくだが首を縦に振る。
その反応を確認出来た雄太は、
「分かった分かった。ボクが悪かったよ」
と、自分に非があることを認めたフリをした。