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 あれから四日経過。

 彩花は昼間やっている再放送の推理ドラマを見ながら、三日前にまとめ買いした食材の残りから今夜の晩御飯は何を作ろうか、と考えていた。

 隣ではあの以降、完全に心を開いた雄太が寝転がり、スマホのゲームを楽しんでいた。


「ねーねー」


 自分一人では何も思いつかないため、晩御飯の提案をもらおうと雄太に声をかける雄太。


「何?」


 どうやら集中しているらしく、雄太は少しだけ雑な返事で彩花の呼び声に答える。


「晩御飯何が食べたい?」

「なんでもいい」

「そう来るか……」


 晩御飯を聞いた際に返ってくる言葉「なんでもいい」。彩花はあまりこの言葉が好きではなかった。なぜなら、あとから不満が返ってくるからだ。「なんでもいい」と言っておきながら、その返答はあまりにも酷いため、


「じゃあ、雄太くんの嫌いな物を作るね」


 彩花もまたその言葉を言われた際に定番になりつつある言葉を突き返す。

 そんな返しをされるとは予想していなかった雄太は寝転がっていた身体を起き上がらせ、


「ちょっと待って! それは困る! ちょうど協力終わったから、真面目に考える! だから考え直そう!」


 真面目な表情で彩花を見た。


「そう言うんだったら、最初から真面目に考えてよね? というより、さっさと考えてくれないと、一緒に遊べなくなるよ?」

「分かってるよ! でもなぁ……何が食べたいかって聞かれてもなぁ……」


 雄太は今、自分が食べたいものがないらしく、「んー」と唸り声を上げ始め、


「オムライスとか作れるの?」


 程なくして、食べたい物を思いついたらしく、彩花へと尋ねる。


「作れるけど? チャーハンと粉が違うだけだし、卵をふわふわにするってなると、ちょっと苦労するけど……ギリギリ出来ないこともないかなぁ……」


 過去に飲食店でバイトしていた経験があった彩花からすれば、オムライスを作れることは何の問題もなかった。が、あのふわふわは火力の代わりに違う技術がいる。そのことが分かっているため、雄太がそれを望んだところで上手く出来るとは言い切れなかったのだ。

 その発言を聞いた雄太は驚きながらも、


「そこまでしろっては言ってないのに、なんでそれが出てくるのさ。そのことにびっくりだよ」


 と、呆れた様子でため息を溢した。


「でもさでもさ、オムライスってふわふわな卵で食べたくない? やっぱりそういう出来ることなら、ちょっとでも理想を貫いてみたいでしょ? だから、私はふわふわにこだわります」


 しかし、彩花は自分の理想とするオムライスを遠回しに作る宣言。

 雄太は逆にここまで理想への意欲が高まっている彩花に何を言ってもダメだと悟ったらしく、


「分かったよ。卵がふわふわのオムライスをお願いします。失敗してもいいから、最後まで努力してください」


 少しだけ頭を下げて、彩花へ丁重にお願いした。

 その丁重なお願いに彩花も悪い気はしなかったのか、


「お姉さんに任せなさい。大船は無理だけど、泥船ぐらいならなんとか行けるからさ!」


 そう言って、胸をポン! と叩く。

 それを聞いた雄太は「ん?」と顔をしかめる。彩花の先ほどの発言に何かの違和感を覚えたらしい。


 ――ふふーん、気付くかなー。


 もちろん、彩花はそれをワザと言ったため、雄太のツッコミを待つ立場。どれぐらい察しがいいのか待っていると、


「泥船って期待したらダメってことじゃん!」


 と、自分が感じ取った違和感の正体に気付き、雄太はそれに突っ込んだ。


「正解! よく分かったね!」


 彩花はそう言いながら、楽しそうにクスクスと笑う。

 対して、雄太はそんな風に笑う彩花にちょっとだけ呆れながらも、最終的には同じように笑い出す。

 ある程度、二人は笑った後、


「じゃあ、今日はオムライスだけでオッケーだよ。いるとしたら、サラダかな? うん、晩御飯の献立決まりーっと! ありがとね、雄太くん」


 彩花はそのことのお礼を言うように、雄太へとにっこりと笑いかける。

 が、その笑みから顔を逸らし、


「いいよ。脅迫されてからだし」


 不満というよりは照れ隠しからそんな発言する雄太。


 ――んー、好意持たれてるかなー……。


 ちょっと前からこんな風に何かで笑いかけると、雄太はこうやって顔を逸らし、反抗的なことを言うことが多くなったことに彩花は気付いていた。それが気のせいであるのであれば、冗談を言ったり、からかうことが出来るのだが、その確信がない。もし、それが本当だった場合、せっかく縮まった心の距離がまた開き、下手すると縮まらないこともある。だからこそ、彩花も返答に困ってしまい、


「そういや脅迫だったね。とにかく、私としては晩御飯を考えてもらっただけで十分ってことで」


 と、この話を流すことにして、


「まだ作るのも早いし、ゲームでもしますか!」


 充電していた自分のスマホから電池残量を確認。満タン近くまで貯まっていることを見てからケーブルから抜き、アプリを起動した。

 しかし、雄太は逆にスマホをテーブルの上に置き、ちょっとだけ真面目な表情になっていた。まるで何かを聞きたそうな雰囲気ではあるものの、『そのことを尋ねてもいいのか?』と悩んでいる雰囲気が身体から溢れていた。


「どうしたの? ゲームしないの?」


 彩花がワザと呑気そうに尋ねると、


「ちょっと真面目な話を……」


 雄太はやっぱり少し躊躇っていた。

 「ふーん」とあまり興味がなさそうにしながら、彩花もこの雰囲気からスマホのアプリを落とし、流れでテレビも消した。そうしたのは、なるべく静かな状況で聞いた方がいいと判断したからだった。


「オッケー。私に答えられることなら、なんでもいいよ」


 そう言って、なるべく尋ねられたことを隠さずに話すことを誓う。

 外から来る自然の音以外全部消されると思っていなかった雄太はちょっとだけ緊張しつつも、彩花の誓いにちょっとだけ安心した表情を浮かべる。


「じゃあさ、尋ねるね。彩花さんはボクの引きこもりを直すために来たんだよね? なのに――」


 そう言いかけた途中で、ピンポーン! という玄関チャイムが鳴る。


 ――うわぁ、タイミング悪ッ!


 雄太が尋ねたいことは皆まで聞かずとも分かったものの、最後までその質問を聞いてあげたかった彩花にとって、ここで答えることは出来なかった。


「居留守使おうっか」


 そして、客よりも雄太の話の方が大事だと思い、そう雄太に尋ねる。


「あ、あはは……」


 完全にタイミングと真面目な空気を壊されてしまった雄太もまた困ったように笑いながら、彩花の提案に頷く。

 が、二人の予想を大きく外れ、玄関の扉がガチャと開く音が二人の耳に入る。


「え?」

「は?」


 静かだったからこそ聞こえた音に、二人は思わず顔を見合わせ、二人は同時に顔を見合わせる。そして、どちらからともなく立ち上がり、玄関に向かった。


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