(11)
「じゃあ、ボクは……」
彩花にお礼を言われたことが恥ずかしかったのか、雄太は椅子から立ち上がり、自分の部屋に行こうとしたので、
「ちょっと待ってよ」
と、彩花は雄太を呼び止めた。
「何? 時間的に寝ないと朝、起きれないんじゃないの? 七時頃には朝食食べるように作るんだったら、少し早起きしないと駄目でしょ」
すると、お腹が少しでも満足になっているためか、柔らかい口調で彩花に注意した。
そんな雄太の注意に、濡れた手でタオルを拭いた後、振り返り、
「あのさ、誰のせいで起きたと思ってるの?」
呆れた表情と共に、両腰に手を置き、不満を露わにした。
それが間違いなく自分のせいだと分かっている雄太は何も反論することは出来ず、
「別に待つのはいいけど……何かするの?」
これからすることに対して察しが付いているにも関わらず、彩花へそう尋ねた。
「お話かな? とりあえず、私の眠気が来るまででいいからさ。どうせ、雄太くんも眠れないんでしょ?」
「……お話ね……」
あからさまに不快そうな表情を浮かべる雄太。が、これ以上抵抗したところで自分の分が悪いことを悟っているのらしく、大人しく椅子に座り直す。
――根は良い子みたいだね。お腹が空いたり、寝起きが機嫌の悪くなるタイプかな?
そんなことを思いながら、彩花も再び向かい合うように椅子に座る。
しかし、そこで二人の会話は止まってしまう。
二人とも何を話したらいいのか、どこからどこまでを聞いたらいいのか、それが分からなかったからである。
彩花に関しては、ここに来る前の事前調査によって、雄太が引きこもりになってしまった理由を分かっているのだが、そのことを安易に聞いてはいけないことを知っているので、そのことにして尋ねることが出来なかったのだ。
そんな状態だからこそ、雄太は持って来ていたスマホを弄り始めてしまう。
「ゲーム?」
が、音が全く鳴らず、指を動かすばかりのため、雄太が何をしているのか気になってしまい、邪魔になると知りつつも思わず尋ねてしまった。
「そう」
ちょっとだけ真剣になっているらしく、ぶっきらぼうに返事を返す雄太。
「ふーん。何のゲームしてるの?」
「白猫ってやつ。知ってる?」
「うん、知ってる。てか、やってる」
「……マジで?」
その瞬間、雄太の目の色が変わり、彩花へと関心が向けられた。
「ここでウソついてどうするのよ。というより、偶然私もやってるしねー」
「やろう!」
「え?」
「協力しようよ!」
雄太は完全に食いつき、そのまま身体を半身乗り出してくる。
まさか、ここまで食いついてくるとは思っていなかった彩花は戸惑いながら、
「う、うん。持ってくるね!」
椅子から立ち上がり、そのまま自室へ向かう。
――そんなに協力したかったのかなー……。
あそこまで目をキラキラさせてくると思っていなかったため、彩花は苦笑いを溢しながら、ちょっとだけ急ぐことにした。このタイミングを逃せば、これ以上の距離を縮めることが出来ないと思ったからだった。
部屋から急いで戻ってくると、雄太はもう隠すつもりがないらしく、サイレントを解き、白猫の協力時に流れる特有の音楽を流していた。
「いつでも準備出来てるよ!」
そう言って、ちょっとばかり早口になっている雄太。
「ちょ、ちょっと待て! 再起動とログインボーナスを貰ってからになるから」
彩花はちょっとだけこのもどかしい時間を説明した後、
――早く早く!
と、少しばかり心の中で焦ってしまう。
それだけ雄太は期待しているような気がしたからだ。
しかし、雄太はこればかりは仕方ないとばかりに諦めた様子で、
「了解っと。待ってるから焦らないでいいよ」
彩花が焦っているのが分かったらしく、そう気遣いの言葉をかけた。
その頃にはちょうどログインボーナス画面も終わり、協力画面へ移行しかけていたため、
「もう平気だよ。プレゼントとかは後で貰うから。とりあえず場所はどこ?」
協力する場所を尋ねると、
「やっぱり腕試しにちょうどいい『墓』?」」
と、雄太は悩んだ様子もなくあっさり答えた。そして、自分のスマホを操作して、場所を作り始める。
「あッ」
が、そこで大事なことを聞くのを忘れたらしく、そう漏らした後、
「『墓』出てる?」
その場所が出ていることを彩花へと聞いた。
「大丈夫大丈夫。下手くそだけど、そこは出てるから。番号は?」
そこで雄太に番号を教えてもらい、それを打ち込んだ彩花はキャラを選び始める。
雄太は彩花に気を使っているのか、すでに魔法使いで待機していた。
「それでいいの?」
「うん。あまり得意じゃないけど、ある程度ならいけるからさ。キャラ的にもこいつは便利だし」
「本当に便利だよね。じゃあ、言葉に甘えて、私は好きなキャラで行かせてもらおうかな?」
そこで彩花は双剣を選択し、『準備完了』ボタンを押した。
それを見て、雄太はちょっとだけ困ったような顔をして、
「双剣使いなんだ……」
と、彩花を心配そうに見つめた。
「ダメだった? なるべくは強いキャラは嫌われるから、大丈夫そうなキャラにしたんだけど……」
自分がチョイスした双剣のメリット・デメリットはちゃんと把握している彩花は、雄太が心配する理由を分かっているため、『準備完了』ボタンを解除。
「大丈夫大丈夫! 別に失敗したところで何のダメージもないし、これで行こう! ごめん、『墓』ぐらい何でもいいよね!」
すると、雄太が慌てたようにそう言って、自分が持っていた不安を気にしないように気を遣い始める。
どうやら、ここで変な風にこじれてしまうと、今後協力してくれなくなると思ってしまったらしい。
それは彩花も同じだったが、雄太がここまで気を遣ってくれるため、
「うん。私、下手くそだから、何かあったら教えてね? こうやって近くでやってるんだからさ」
と、雄太のアドバイスを頼むことにして、キャラをそのままに『準備完了』ボタンをタップ。
それを確認した雄太もそれに対して頷き、『出発』ボタンをタップして、通信が始める。
「って、野良入れないんだ?」
四人協力のため、野良を入れてやると思っていた彩花がそう聞くと、
「強キャラしか入って来ないから邪魔だからさ。部屋を立て直すのも面倒だし。失敗していいんだったら、お互いの実力を知るためにもペアの方が良くない?」
雄太がもっともらしいことを言ってきたので、
「それもそうだね。じゃあ、頑張ろっと!」
彩花もそれに同意し、画面が戦闘画面に移行したため、意識をスマホに集中させた。使い