近寄る不穏②
京とアリアは取り敢えず自分の部屋を決め、荷物の整理をし、ある程度落ち着いた所で一階のリビングに戻った。紅茶を淹れた所でアリアが口を開いた。
「私を狙っているのは第二位のロスト侯爵と第七位のヴェノバ伯爵よ」
先程までとは違い何か決意を秘めた顔をしている。勢いで手を握ってしまったがアリアは気にしていない様子でとりあえず安心した。
「そいつらは別々に狙ってきているのか?」
「いいえ、第二位が第七位を従わせて襲わせてるって感じね。恐らく公になった時の身代わりにするためよ」
「そういうもんか……。メルガルトさんが日本に来ていることを奴等は知っているのか?」
「もちろん内密に来たつもりよ。それでも情報は漏れているでしょうけど」
「だろうな……」
京は考える。このままでは後手後手へと回ってしまう。命のやり取りに遅れなど許されない。どうにかして先手は打っておきたい京。
「刺客は聖痕保持者なのか?」
「前までは違ったけれど、最近になって聖痕保持者も数人現れるようになったらしいわ」
「そいつらのコードは分かるか?」
「分かるわ……けれどその人達は全員父に捕まえられたからまた別の傭兵がやってくると思う」
「捕まえたのか……すごいな」
アリアの父は相当強いらしい。そんな情報が増えた所で何も進展はなかった。京が頭を捻っていると
「そう言えば、私のコード、秋白君に言ってなかったわね」
「そうだけど……俺に教えていいのか?」
コードを他人に教える人と教えない人がいる。戦局が大きく変わってしまうというのが後者の意見だ。日本では聖痕を確認出来さえすれば聖痕保持者としての扱いを受けること出来る。
「頼ってるのだから当然でしょう? 私のコードはーー」
そう言いながらアリアは右手を京のカップの前に突き出した。アリアの右手の聖痕が輝き出す。
「持ってみて」
京は言われた通りにカップを持とうとするが
「動かない……」
カップはピクリともしなかった。
(あのババアのコードに近い……)
「私のコードは『固定』よ」
「固定、か……」
アリアが右手を下ろすと京のカップがいきなり動くようになった。京は朝の出来事を思い出した。あの男が襲いかかろうとしてきた時、いきなり止まったかのように動きを止めた。
「今は物体を何個か止めるのがやっとってところね……。ちなみに今は貴方のカップと、中の紅茶を『固定』させて貰ったわ」
そう言いながらアリアはカップに口を付けた。コードを発動するには集中力とそのコードを意識する必要があり、精度が高い程発動するコードの性能が上がっていくのだ。ここまで出来るアリアは既に十二分に凄い。あの男の上下の服を固定したということか。
「つまり数人は相手に出来るのか。……相手が全裸でない限り」
「ま、まあそういうことね」
「そのコードを発動したまま動けるのか?」
「全力では無理だけどある程度なら動けるわ」
強い、京はそう思った。しかし、アリアには大きな問題点がある事に気付いた。
「メルガルトさんって実戦経験したことないよね?」
***
話もほどほどに、取り敢えず今日は休む事に落ち着いた。京は先に風呂に入り自分のアパートから持ってきたテレビをリビングで見ていた。
(実戦経験なし……か)
京やアリアの年齢なら普通はそうだ。逆にこの年である程度の経験を積んでいることのほうが少数なのだ。
(相手は傭兵だ。場数を踏んできている)
確かにアリアのコードは強い、しかし、コードの能力だけで戦いは決まらない。対策を講じる京。しかしどれも有効的では無い。
(それならいっそーー)
そこまで考えた所でふと気配を感じ、そちらへ目線をずらすと
ネグリジェ姿のアリアが居た。
「どうしたの?」
「っ!?!?!?」
言葉が出ない。湯上がりで血色の良くなった肌にアリアの美貌、そしてピンクのネグリジェ、京には刺激が強すぎた。
「お、男にその格好を見られるのは嫌だろう……」
「そうね」
「それなら……」
「大丈夫」
アリアは羞恥心というものが欠如しているのか。京の心臓が鳴り止まない
「ふふ、秋白君なら構わないから」
アリアはいたずらに笑みを浮かべた。
京は鼻血を流して朝まで気を失った。