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近寄る不穏①

「これからどうするか……」


京が呟く。恐らくこの奇妙な運びで決定した生活とアリアの身の上の問題を考えているのだろう。アリアは京を理解する事が未だに出来なかった。そもそも、父と母としか接することの無かったアリアにとって人の気持ちを汲むという事はあまり得意ではない。ましてや京という人間は他の人とは明らかに何かが違う。それはアリアにも分かっている。


(最初に見た時……)


京を初めて見た時、アリアは目を奪われた。それは容姿のせいではない。確かに、顔も整っていて端整な顔立ちだったが、それは後々気付いたことである。何よりも、アリアの目を引いたのは、京の纏うオーラ。麻耶を見た時のように自分の存在を呑み込まれたのだ。しかし、麻耶のように不安を植えつけられるようなものではなく、何故だか心が安らいでいくものだった。


(私はどうしたら……)


会ったばかりの人間に頼めるような話では無い。麻耶は大丈夫だと言うが、少しでもその確率が上がるのであればそれはすでにアリアの本望では無いのだ。しかし、今ここで断ったとしても既に周辺を監視されているかもしれない。そうであれば京の身の上は既に保証出来るものでは無い。それなら二人でいた方がいいのでは、しかし、甘えるわけにはーー


「メルガルトさん?」

「へ? ご、ごめんなさい。何かしら?」


思考を遮る京の声。優しい声色だ。


「大丈夫か? 命を狙われてるなんて毎日精神を削るだろう?」

「……もう慣れたわよ」


本音だった。初めてそんなことがあったと父から聞かされた時はとても動揺したが、今ではまるで日常の一部のようになってしまっている。


「慣れたからって一人でどうにか出来るのか?」

「そ、それは……」


出来ない。聖痕保持者だからといって絶対に大丈夫な訳がない。ましてや聖痕保持者が相手ならなおさらだ。


「もう俺は君に関わってしまったんだ。今さら辞めることなんて考えてない」

「でも貴方コードを忘れてるんじゃないの!?」

「確かにコードは使えない。けど戦闘はそれなりに役に立てると思うよ」

「で、でも……」


分からない。頼み方も断り方もこれからどうするかも、何もかもアリアにはわからなかった。今まで他人と接触せずに一人で生きてきたツケが回ってきたのか。


揺らいでいる。自分を構成する何か一つの要素が崩れかけている。


その時、アリアの手に何かが触れた。

京の手だった。


「大丈夫、絶対に大丈夫だ」


何が? そう問う気にはならなかった。京の温もりがアリアの硬い気持ちを溶かした。


「ありがとう」


アリアが初めて人に甘えた瞬間だった。






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