入学、出会い⑥
お気に入りにしてくれてる方がいてくれました、嬉しいな〜。
「ここか……」
「え、ええ」
京は目の前の一軒家を見上げた。第一印象はこじんまりとした家、SH特区の一般的な家屋である。
「お邪魔しまーす……」
京は恐る恐る玄関の扉を開いた。人の気配は無い。アリアと共に一階を見て回る。お風呂場、トイレ、台所にリビング。極々普通の一階である。リビングに京とアリアの荷物と思われるものが段ボールに包装されている状態で積み上げられていた。
「に、二回も見てみようか!」
「そ、そうね!」
二人は階段を上る。そこには4つの全く同じ部屋。それぞれにベットと机が置かれてあるだけだった。
一階に戻り、備え付けのテーブルに向かい合って正座で座る京とアリア。どちらもソファには腰を下ろさない。
「どうしてこうなった!」
頭を抱えながら京は先程のシーンを思い起こした。
***
「は? 同棲?」
「その通りだ」
京はこの魔女にもついにボケがやってきたのかと思った。
「い、いやいやいや。 同棲の意味を分かってるのか?」
「馬鹿にしているのか? 同棲は同棲だ」
意味を咀嚼出来ない。隣にいるアリアも同じような顔をしている。
「なんだ、京は嫌なのか? こんな美少女とずっと居られるのだぞ?」
「そういう問題じゃないだろ! なんで同棲する必要があるんだよ! ……確かに嬉しいけど……」
ちょっとだけである。外を裸で踊り出したい程度に過ぎない。そんな気持ちは一切表に出さず、京は冷静を取り繕った。
「理由を教えてくれるんだな?」
「当然だ。もっとも、アリア・メルガルトの方は薄々分かっていると思うが」
「もしかして……」
アリアは何かを察した様な素振りを見せた。
「まあ、私が説明してやるさ」
そう言うと麻耶は咳払いを一つ。
「アリア・メルガルトは八貴族、しかも第三位という位の高い家の生まれだ。一人っ子でもある。これの意味する所は分かるか?」
「メルガルトさんが跡継ぎになる事くらいしか……」
「そうだ、彼女は次期跡取りなんだ。そして聖痕保持者だ、一般人よりも功績を残せる可能性が高いだろう? そうなってくると八貴族は、特に第一位と第二位はアリア・メルガルトを意識しなければならなくなる。自分の地位が揺らいでしまうからな。ではこの脅威をどうやって取り除く? 方法は二つある。一つは仲間にしてしまうこと、婚姻だな。だがそれはメルガルト侯爵の存在があった。彼は〝親バカ〟という不治の難病を患っていてな、アリア・メルガルトの婚姻話など持ってきても全く聞く耳を持たない。貴族のパーティという名の品評会にさえ一度も出席させなかった。お陰でアリア・メルガルトは本当に存在するか疑問を抱く者までいたらしいな? メルガルト侯爵とそれなりに親しい私ですら今日姿を見るまでは訝しんでいたくらいだ」
「は、はい………父は私を殆ど家から出してくれませんでした」
アリアの戸惑いながらの返事に京は驚かずにはいられなかった。麻耶は続ける。
「まあ、とはいえ高校は行かせなければならないから私の庇護下なら安全だろうと日本への留学を許可したんだよ、君の父上は。まあ一番の理由は君が日本に行きたがっていたからだろうがね」
「ちょっと待て。メルガルト侯爵は日本に行かせることをそんな簡単に許可したのか? 話を聞く限りそれらの理由だけで一人にさせるとは到底思えないんだが。それに、何だか話の本筋から逸れてしまっている気がするぞ」
京は思ったことを素直に話した。同棲の話はどこに行った。
「そう、急かすな。今からその二つの疑問を解消してやる。で、話は戻すが、一つ目の方法はこれで無理だと分かったな? そしてもう一つがーー」
「まさか……」
京の強張った顔に麻耶は笑みを深くした。
「そう、消してしまえばいいんだ。数年前からアリア・メルガルトの暗殺する動きが現れた。今ままではメルガルト侯爵が在宅している時で、全て屋敷に入られる前に返り討ちに出来ていたらしいが、1年前からその頻度が高くなってきているそうでな。これまで通りメルガルト侯爵が家に居るとは限らない、それならいっそどこか遠くで生活してもらおうと考えたらしい」
「それで日本に来たのか」
「京が聞きたがっている理由は大体分かったか?」
「護衛ってことか?」
「その通りだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
今まで大人しくしていたアリアが遮ってきた。少し焦りが見られる。
「どうしたんだ? メルガルトさん」
「どうしたんだ、じゃないでしょう!? 聞いてなかったの? 私は狙われてるの。とても危険よ!」
「そこは安心していいぞ、京はそれなりに出来る。私が保証してやる」
「あんたに言われるのは癪だが、まあそこら辺の奴には負けないと思う」
聖痕保持者は除いてだが。
「そういう問題じゃないの! 私事にあなたを巻き込みたくないのよ」
「何で?」
「何でって……」
アリアが言葉に詰まる。京自身、危険な事はしたくない。死ぬのなんて真っ平御免だ。しかし、アリアに対する確実で、そして綺麗な何かが京の気持ちを固めさせていた。こんなに短い時間で、アリアという人格を感じただけなのにである。不相応かもしれない、偽善かもしれない、自己満足かも知れないがそれでいい。自分のしたい事をする、それが大事なのだ。
「友達だから、それで良いんじゃないか?」
「で、でも……」
「こう言ったらもう聞かないさ、京は。それに私の縄張りに入ってくる奴なんてそうそうおらんからな。簡単に男と住む、それだけを考えてたらいい」
アリアはまだ何か言いたそうだったが、麻耶の言葉を聞き、一応の納得は示してくれたようだ。
「まあ、このことはメルガルト侯爵は知らないから、もし知られたら大変な事になるな」
「ふざけんな!!」
ププッ、と笑う麻耶に青筋を立てる京。よく分からない所で死亡フラグが立った。
「護ってくれるか?」
さっきまでの麻耶とは違う、真剣な面持ちで告げられた言葉は京の心の奥に響いた。
「ああ、頑張ってみる」
***
京はつまり、と簡潔にまとめた。
「メルガルトさんの親父、やばくね?」