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入学、出会い④

「続きまして……」


淡々と入学式がとり行われる中、隣に並んで座った京とアリア。京にとって入学式という行事は記憶上初めてなのにも関わらずすぐに飽きてしまい、手持ち無沙汰になってしまっていた。アリアの方を見ると背筋を伸ばし、キチンとした姿勢でこの儀式に取り組んでいた。


「メルガルトさんは真面目だなー」

「そう? 私は入学式が初めてだから興味深いのよ」

「イギリスではやらなかったのか?」

「分からない。私、学校に通うのはこれが初めてだから」

「そうなのか? さっきは慣習やらが厳しいって言っていたけれど……」

「学校に行けない程厳しかったのよ、ウチの父がすごいスパルタでね。『学校に行くよりもウチでずっとパパと遊んでなさい』、『パパより強い奴じゃないとアリアは友達になってはいけない』、『そんなに友達が欲しいならパパともっと仲良くしなさい』とか」


あれ? 京は頭に疑問符を浮かべた。親バカ、そんな言葉が脳裏によぎったが、アリアの父は大貴族でもっと厳格で威厳のある人物のはずだ。まさかそんな娘にデレデレな訳ーー


「他にも『私の事をパパと呼んでくれ「アウト!」どうしたの?」

「そこはもうアウト判定です! 完全にそれはスパルタではありません。むしろ真逆に近いです!」

「そうなの? 私にとってとても嫌すぎて泣いてしまった事もあるのだけれど……」

「嫌かもしれないけど! でもそれはちょっとパパが可哀想かもしれない!」


アリアの父が傷付く様が見て取れる。全然見たことは無いけど。まあ確かにこれだけ束縛されていたら逃げ出したくなるか。


「てことは俺がメルガルトさんの最初の友達ってことになるのかな」

「え? そうなの?」

「いや、知らないけど。それはメルガルトさんの記憶に聞いてくれ」

「そうじゃなくて、私は秋白君の友達にいつからなってたの?」

「いつからって言われても……。まあ自己紹介した辺りから?」

「そ、そうなのね……。友達……」


アリアはすこし戸惑ったような顔をした後、嬉しそうに笑った。本当に友達が今まで居なかったのか。箱入り娘にも程がある。もはや軟禁状態である。


「よく家出してこれたな……。しかも日本まで」

「これは父がそうしたのよ。ここの学校長と知り合いだったらしくて、この人の元なら任せてもいいって」

「え、学園長と知り合い? それってーー」


京が言葉を続けようとしたところで、入学式の進行が次の項目を読み上げた。


「続きまして、学園長の挨拶です」


視線を前に移すと、そこには京のよく見知った一見・・20代の女性。腰の辺りまで伸びた艶のある白髪、切れ長の瞳をした凛々しい顔立ち、スラッとしたモデル体型、そして何よりもその女性が纏う雰囲気は圧倒的なプレッシャーを放っていた。


「こんにちは。学園長の不知火しらぬい麻耶まやだ」


彼女の声が周囲を呑み込んだのが分かる。魅力ではなく魅了、アリアと対極の位置付け。声を聴いたものは心を喰われる。その表現が相応しいほど深い声だった。


不知火麻耶は有名人である。それは日本に留まる話ではない。彼女が成してきた業績は世界各地で認知されている程。その数々の業績から『黄金の魔女』という異名を持つ。


そんな人物ではあるが、京にとってそんな評価は風の前の塵に同じだ。


「あのババア……」

「バ、ババアって……。秋白君……」


アリアが少し責めるような目で見てきた。しかし、そう思うのは京にとって仕方のない事だった。


京は麻耶と親しい。それは顔見知りとか、話したことがある程度、のようなものではなく、腐れ縁、切っても切れない関係の方に軍配が上がる。京が中学に通わなくても良かった理由はこの人物にある。京の事情をよく知る彼女の一声によって特例が認められたのだ。基本的に感謝している部分が殆どだが、時たま京にする嫌がらせが素直に麻耶を良い人だと思わせてくれない。



ババアという言葉が思わず漏れたのは、麻耶は京が記憶のある時からずっと、あのままだからなのだ。恐らく相当年を食っているはずである。まさに魔女、魔法使いである。もちろんこんな事を目の前で言うとどうなるか分からない。彼女にとって一番嫌いな言葉らしい。見た目だけならそんな言葉は出てこないが。


「ーー諸君の健闘を祈る」


簡潔な言葉で締めくくった麻耶はさっさと戻って行ってしまった。

最後にこちらを見たのは気のせいである。そう京は暗示をかけた。


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